第34話 そっちの方
愛が、アンドリューの膝の怪我の治療をした後も、彼は普通に歩くのが難しかった。
「あれ、僕どうしたんだろう。足元がふらついている」
歩きながらアンドリューが言った。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
アンドリューの血を多く男の子にあげ過ぎたみたいで、貧血を起こしているんです」
「え、貧血って?」
先頭を歩いていたジュリアが、アンドリューに言った。
「アンドリューの血を男の子にあげたから、貴方の身体の中にある血が少し足らなくて、少しふらついているだけよ。
女の子が時々なるのと同じで、貴方の場合は明日になれば元どおりになっているわ。だから心配しないで」
「どうして女の子が時々こうなるの?何で?どうして?」
「アンドリューって、そっちの方の事知らないの?」
「え、そっちの方・・・?余計に分からなくなった」
「あ〜〜もう!!。
私と結婚をするのに、女性の体の事はちゃんと勉強してよね」
「ジュリア、もしかして怒っている?」
「怒ってなんか・い・ま・せ・ん!!!」
アンドリューはジュリアの気迫に負けてそれ以上言えないで、ふらつく足を一生懸命に真っ直ぐに歩こうと努力をしていた。
それを見ていた愛は、二人の会話が面白かったけれど、顔には出さずに内心で微笑見ながら、ごめんなさとアンドリューに再び言っていた。
お昼を食べていた休憩所の近くになって、子供の両親がジュリアが抱いている子供を見つけると急いで駆け寄って来た。男の子のお腹から大量の血痕の跡をみて、パニックになったお母が言った。
「お腹から血が出ている!!。私の子は大丈夫でしょうか?
どうしましょう?貴方、私達の子供が・・・」
ジュリアはお母さんの言葉を遮って言った。
「お母さん、お子さんは大丈夫ですよ。
お子さんが怪我を負っていたので、治癒の魔法で治しましたので、ご安心ください」
ジュリアはそう言って、男の子をお母さんに手渡した。
男の子は、お母さんの呼びかけに目を覚まして言葉を発した。
「マーマ、マーマ」
お母さんは子供の元気な声を聞くと、嬉し涙が出てきて笑顔になり、子供の頬にキスをした。
隣にいた子供のお父さんは、ジュリア達に深く頭を下げて言った。
「この度は息子を助けて頂いて本当にありがとうございました。
私の名前はジュン、妻はエリナ、そして息子の名前はキースと言います。宜しかったらあなた方のお名前をお聞かせ頂けないでしょうか?」
ジュリアはアンドリューに目線で合図をして、愛の活躍を言わないように念を押した。
アンドリューはさすがに王子で、先程とは打って変わって、威厳に満ちた口調で話し出した。
「私は第一王子のアンドリューです。こちらのご婦人はジュリア・デオラルド様、もう一人のご婦人は愛・橘様です。
私達はガルバス伯爵様の要請により、この地方の魔物退治をしていたのです。偶然にもお子様がチックモックに連れ去られているのを発見をして退治をしました。職務中の出来事だったので当然の事をしたまでなのです。
お子さんが助かって、本当に良かったですね」
夫妻はまさか、ここに第一王子がいるとは夢にも思わず、驚きを隠そうともしなかった。次に紹介されたご婦人のジュリア・デオラルド様と言えば、時期王妃になられる方で、アンドリュー王子のフィアンセである事は既に国中の人が知っていた。更に、国王とアンドリュー王子を毒の事件から救った有名な愛様も一緒に居るとは、もはや夫婦にとっては驚きの連続だった。この三人は今やこの国の話題の渦中にあるので、その方達に助けてもらって、夫婦の感動が更に増していった。
「まさかアンドリュー王子とフィアンセのジュリア様、そして有名な愛様に助けて頂いて、驚くとともに感動もひとしおでございます。
この度は本当に有難うございました」
愛は、子供の血が大量に失われていたので、三人で協力してアンドリュー王子の血を息子さんに輸血したことを伝えた。そして、急に体調が悪くなるかもしれないので、ここ一周間、注意深く息子さんを見て下さいと言った。
アンドリュー王子の血を息子に輸血したのを聞いて、ご夫婦は更に更に感動して、何度も何度も振り返りながら頭を下げて去って行ったのだった。
「ふう。疲れたけれど、良かったわね。
それにしても、アンドリューと愛は殆どお弁当を食べれなかったわね」
ジュリアの残っている弁当箱を見ると、殆ど食べていた。早食いは会ったその日から分かっていたけれども、今日のお弁当の残りの少なさを見て、もはや彼女の早食いは名人級だなと愛は思った。
ふと周りを見渡すと、愛達が通った花々が無数になぎ倒された跡がここからでも見えて、心を痛めた。
彼女は花々の為に癒しの魔法を使う決心をして、ブレスレットに残っていた全魔力を使って、そっちの方の花々に魔法を発動する事に決めた。
ジュリアは、愛が何をやろうとしているのが分かったので、アンドリューの方に寄って、左手を彼の腰に回した。彼もそれに答えるように彼女の肩にそっと手を置いた。
三人が見ている中、虹色に輝く光の球が愛の手から放たれると、そっちの方の花々の上空に行って弾けた。光を浴びて、虹色に輝く魔法の粉が四方に散って行き、ゆっくりと花々に降り注いでいった。虹色の魔法の粉は花々に触れると黄金色に色を変えて、長い間光輝いて花々の中に少しずつ消えて行った。
イルミネーションにも似た光のショーに、三人は最後まで見ていたのだった。
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