第59話 悲報


 フィアーは、目の前の美味しい匂いのするお弁当に、我慢出来ずに食べ始めていた。

 骨折した愛は、まだ歩くことが出来ず、何もする事が無かった。ふと、ジュリアの言った言葉を思い出していた。


“感情よりも、お腹に聞け”


 タコの件で、明らかに感情的になっていた愛は、お弁当を食べれないでいた。

 けれど、ジュリアの言葉の真意を考えると、今、食べなければならない気がして来た。お腹は明らかに空いており、お弁当からは良い匂いがして、食欲を誘っていた。

 彼女は決断をした!

 そして、お弁当をゆっくりと開けた。

 明らかに、アレの入って居ないお弁当だった。お腹が空いていたので、食べないという選択肢は、もはや彼女にはなかった。

 今回は、いただきますの前に、命の言葉を入れて言った。

 そして、愛は美味しいお弁当を食べ始めた。


 フィアーを見たら、既にお弁当の半分は食べていた。スマートな体型から、今は丸々とした体型になっていた。

 しかし、フィアーはそれでも食欲が収まらないのか、今度はお弁当箱の中に入って、無我夢中で食べ続けていた。

 そして、体の体積の半分はお弁当の中身ではと思うぐらい体がパンパンになって、初めて食べるのを止めた。

 そして愛を見て言った。


「愛、喉が渇いたので、コーヒーをくれる?

 砂糖多めで、ミルク少なめね」


 愛は、ひょうたんの入れ物に入っているコーヒーから、魔法で作り出した、フィアー用の小さなコップに注いだ。そして、砂糖とミルクを入れて、フィアーに差し出した。

 フィアーは喜んで受け取ると、一気飲みをした。


「ふー、やっと一息つけたわ。

 これ誰が作ったの? 昼間食べたお弁当よりも、ずっと美味しいわ」

「さっき、お弁当を配っていたダンさんなんですよ」

「そうなんだ。

 ここに居ると、彼の料理が食べれる訳ね」


 フィアーの目が、キラリ、と光ったのを愛は見過ごさなかった。



 ジュリアとマリサが、階段を駆け上って来て、直ぐに愛の骨折の治療を開始した。

 治療しながら、マリサが骨折について説明をしてくれた。


「魔法で一時的に骨を繋げるだけで、完全に治るには一週間かかるわ。この添え木を足に固定をして、歩く時は松葉杖で歩くことになる。骨折をした足に衝撃がいかない様に気を付けて。でないと、骨が上手く繋がらず、同じ所を何度も骨折するようになるわ」


 言い終わると、何かを考えるようにマリサは一瞬手が止まった。そして、その後は一心不乱に、添え木を骨折した箇所に包帯で固定をしていた。

 ジュリアも心配顔で愛を見ていたけれど、心は別の事を考えていると愛には分かった。


「二人とも、どうかしたのですか?

 何かを、そのう……? 悩んでいるような感じなんですけれど?」


 ジュリアが愛に振り向いて、悲しそうに話し出した。


「治療が終わるまで、話をするのは止めておこうと思ったけれど、愛には私達が普通ではないのは直ぐに分かるのね。

 実は、王様が亡くなられたの」


 それを聞いた愛は、大きな目が、更に見開いて大きくなって行った。


「ヒドラの騒ぎで警備が疎かになって、その隙を狙って王様は殺された。

 犯人は、王様付きの第二執事だろうと言っていた。彼が最後まで王様に付いて居たのだけれど、王宮から出て行った目撃証言があって、それから戻って来ていないのよ。

 犯人を探しに手分けをして探しているみたいだけれど、まだ見つかっていないわ」


 愛は、何と言っていいのか分からなかった。

 王様の招待で、一度だけ会った事があった。猫のナイトが旅に同行するのを、最初に好意的に見てくれて、愛とナイトに理解のある王様だった。

 それに、愛の父方のお爺さんの直径の子孫でもあるので、他人事ではなかった。

 ジュリアがゆっくりと、続きを話した。


「アンドリューが色々な事を決めていて、明日の夜明けと共に国葬を執り行うと言っていた。

 それと、フィアーが提示した共闘に関しては、明日の日没後に会議を開くと決定したわ。

 会議には、愛とナイトの名前も入っているので、時間には気をつけて。

 あと、愛が寝泊まりしていた部屋は、火災で使えなくなったので、今夜から私の部屋で泊まって。

 それと、今回の件で亡くなった人達が大勢いて、その中の一人がヴィッキーなの。

 消火活動中に魔物に襲われて亡くなられたそうよ。彼女はお年寄りなので、てっきり避難していると思っていたんだけれど……、残念だわ。本当に」


 この世界で知り合った二人が亡くなられて、愛は悲しくなっていた。

 ヴィッキーは、愛を最初から友達と受け入れてくれた。それに彼女が持っていた大事なダイアモンドなどの宝石を、愛にプレゼントしてくた。助言もしてくれて、王宮には敵に内通している奴が必ず居ると、予言的な警告もしていた。そして、その予言が悪い方に当たって、王様が殺された。

 愛にとって彼女は、とても大切な友達でもあり、良き理解者でもあった。

 愛の目からは、涙が静かに流れ落ちていた。

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