第53話 骨折
ドサ。
「痛〜〜い!」
愛は、かろうじて、リサの居る塔に降下する事が出来た。しかし、五階から飛び降りた速度になって、衝撃で右足を骨折してしまった。
リサの目が大きく見開いて、愛を凝視した。
「愛? 愛なの?
なんで? なんで空から降って来たの!?」
愛は、骨折した足を庇う様にして立ち上がった。しかし、庇った足が少し動いて、激痛が走った。
あまりの痛さに、彼女は下唇を噛んだ。下唇から、血が少しずつ流れ出した。
激痛に耐えながら、愛は早口で言い始めた。
「上空にいるドラゴンは、私達の味方になってくれました。
これから、ヒドラと戦ってくれるので、このドラゴンに攻撃をしない様にお願いします!!」
愛が指し示した上空をリサが見上げると、今までに見た事のな様な、巨大なドラゴンが旋回していた。
巨大なドラゴンを見ただけで、彼女は息が詰まりそうになった。
今、この状況下で、このドラゴンまで襲って来たら、あっと言う間に全滅してしまう。
この巨大なドラゴンが、味方になったとは、彼女は到底信じられなかった。
しかし!!
愛がそのドラゴンから降下して来たのは間違いのない事で、それは疑いのない事実だった。愛は、王様とアンドリュー王子の毒の事件を解決してくれた実績があるので、十分に信用に値する人物だった。あそこから、ここに、どの様に愛が降下して来たのかは、彼女は不可思議だった。それは後で詳しく聞くとして、ここは、愛を信じる事にした。
彼女は決断を下した。
下で待機していた伝令係に、彼女は大声で指令を出した。
「上空にいる巨大なドラゴンが、ヒドラと戦う!
決して! 巨大なドラゴンを攻撃しない様に、徹底してくれ!」
伝令係はそれを聞いて、上空を見上げた。
巨大なドラゴンを見て、目が飛び出るほど驚いていた。けれど、了解の合図をリサに送って、伝令を伝えるべく、すぐに走って行った。
リサは、愛の方を見ると、苦痛で、少しも動けないでいた。
「愛、何処が痛いの?」
「み、右足が、こ、骨折しているみたいなんです」
痛みに耐えかねて、愛はそれ以上話せないでいた。
リサが愛の右足を見ると、通常では考えられない方向に右足が曲がっていた。
治癒の魔法は、リサは得意ではなかったけれども、痛みを半減するぐらいなら出来た。
リサは、直ぐに治癒の魔法を、骨折した所に発動をした。
「リサ、ありがとうございます。
痛みがだいぶ治りました」
「ごめんなさいね。これぐらいしか私に出来なくて」
「いえ、これで十分です。
フィアー。ちゃんとリサに伝えたから、グラウンド・ビッグ・マザーにこの事を伝えて!」
愛の横にいたフィアーは、軽く頷いて、直ぐに魔法を使って消えて行った。
リサが、不思議がって愛に聞いた。
「愛、さっき誰と話をしていたの?」
「話せば長くなるんですけれども、ドラゴンの妖精と話をしていました」
「ドラゴンの妖精?」
リサは、口が開いたまま、巨大なドラゴンと愛を交互に見た。
「あ、貴女は、ドラゴンの妖精が見えて、話が出来るの?」
「はい。でも、私だけではありません。詳しい話は後でします。
見てください。
ドラゴンが、戦闘体型を取って、急降下して来ます」
ーーーー
フィアーが戻ると、グラウンド・ビッグ・マザーに伝えた。
そして、アンドリュー達を見ると、今までにない早口でフィアーは言った。
「みんな、鱗に捕まって。
これからヒドラと戦うので、急降下すると、グラウンド・ビッグ・マザーは言っています!」
彼等は、フィアーの言葉通りに、少しだけ持ち上がる鱗に手を差し入れて体を固定した。
そして、直ぐに急降下が始まったのだった。
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