第54話 一方的な戦い


グラウンド・ビッグ・マザーは、急降下して行き、ヒドラに襲い掛かって行った。グラウンド・ビッグ・マザーが、桁違いに大きいと思っていた愛は、更に認識を新たにした。ヒドラと比べると、大人と赤子ぐらいの差があった。

両足で、ヒドラをいとも簡単に一匹づつ鷲掴みにした。そして、爪がヒドラの鱗にのめり込んで、鮮血が滝の様に流れ落ち出した。

ヒドラは抵抗を試みたものの、力の差は歴然んで、動きが段々と無くなって行った。

そして遂に力尽きて、八つの首が垂れて行った。

ヒドラが死ぬと、グラウンド・ビッグ・マザーは、悲痛の雄叫びをあげた。

まるで、我が子が目の前で死んで、母親が号泣している様な、魂を揺さぶる雄叫びだった。

ドラゴンの雄叫びを聞いてた者の中には、涙を流す者まで現れた。


愛もその中の一人で、余りにも切なすぎる雄叫びに、涙を止める事が出来ずにいた。

ふと、横にいたリサを見ると、目から涙の雫が静かに流れ落ちていた。

リサが、悲しそうな声で言った。


「こんなにも悲しくて、切ない雄叫びを、ドラゴンから聞くとは思わなかったわ。

見て。王都で戦っていた魔物達が引き上げていく」


まだ戦っていた魔物達は、グラウンドビッグマザーの雄叫びに戦意を喪失し、群れを成して一斉に引き上げていた。

王都を見ると、火災が益々猛威を奮っていた。

このままでは、王都の殆どが全焼するかもしれないと、愛は危惧した。もし、雨が降ると火災も収まるのにと思った。

突然、愛の心の中で、繰り返し“雨が降ると”を繰り返していた。けれど、星が見えている今夜は、到底雨が降る天気では無かった。

ジュリア達がグラウンドビッグマザーから降りて来ていた。

見ていた人達は、一様にビックリをしており、彼らに尊敬の眼差しを送っていた。


ふと、愛の中で何かが弾けて、リサとジュリアを交互に見た。

愛は、大きな声でジュリアをこの塔の上に来るように言った。ジュリアは了解の返事をよこしてきた。

リサは、なぜ愛がジュリアをここに呼ぶのか不思議で、愛の顔を見た。


「愛、ジュリアをどうしてここに呼んだの?

私には理解出来ないんだけれど」

「詳しい説明は後でします。

リサとジュリアの魔法をお借りしたいんです」

「魔法を借りる?

そんな話、今まで聞いた事もないわよ!」

「これから王都に雨を降らして、火災の消火をしようと思っています。

それには私だけの魔力では足らない気がして」

「え、それ本当に出来るの?」

「はい。

理論的には出来ます」


ジュリアが息を切らしながら、愛達のいる塔に登って来た。


「はぁー、はぁー。

あ、愛、来たわよ。それで?」

「これから王都に雨を降らします。

その為には、お二人の魔力を借りたいのです」


リサとジュリアはお互いの目を見た。

リサが言った。


「愛とジュリア。

この状況下で、成功するか分からない魔法に、私の魔法を使う訳にはいかないわ」


ジュリアは少し考えて、愛の方を見た。

愛は、ジュリアがリサに、何を言おうとしてる事が分かった。そして、軽く頭を下げて、了解の返事を送った。


「リサお姉さん。これから言う事は、この国の国家機密に当たります。

決して他言しない様にお願いします」


リサは、ジュリアからこの様な言葉を聞くとは思わなくて、息をゆっくりと吸って言った。


「分かったわ。

これからジュリアが言う事は、決して他言しません。

それで?」

ジュリアはリサだけ聞こえる様な小さな声で話し出した。


「リサお姉さんも知っての通り、愛は勇者として、異世界から召喚された。しかし、それは間違いだったと誰もが思っていた。でも、愛は勇者の実の娘だった事が分かったの。

それからは、仲間だけでこれを秘密にして今まで来た。

彼女は、あの幻の最強呪文、サンダーを成功させて、レディングで戦ったドラゴンを倒した。小さな子供に輸血をしたのは実は彼女。それに、リサお姉さんも見たと思うけれど、上空のドラゴンから火災旋風の中、魔法を使ってここまで来たのは、普通では考えられない。でも、彼女が出来ると言ったら、今まで必ず成功して来たわ。

だからリサお姉さん。お願い。愛を信じてあげて」


リサは、ジュリアからの情報に驚きを隠せなく、愛を凝視してしまった。


愛は、リサに訴えかける様に見つめ返した。

今やらなければ、王都は火災によって、被害が拡大するのは、目に見えて分かっていたからだった。


リサはゆっくりと、力強く愛に言った。


「貴方は、旅に出る前と、今では雰囲気が随分と変わったわ。

前は、少しオドオドしていたのに、今は自信のある目つきになっている。

分かったわ。

私の魔法を全て使っていいわ」

「ありがとうございます。

早速ですが、私のブレスレットに二人の手を当ててもらって、合図と共に魔法をブレスレットに流して欲しいのです」


二人が了解の合図をして、愛のブレスレットに手を置いた。

準備が整った愛は、足が痛いのを我慢して、意識を右手の中に集中した。

そして、魔法を発動して、すぐに二人に合図をした。二人は直ぐに魔法を愛のブレスレットに送ったのだった。









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