第55話 竜巻


 愛は、二人の魔法を、ブレスレットの中にあるピンクダイアモンドに流した。

 普通の魔法使いの、ブレスレットの宝石を使った魔法は、最大でも二倍の魔力しか引き出せない。しかし、これを通す魔法は五倍の魔力を引き出せた。

 更に、三人が協力してピンクダイアモンドを通して魔法を発動すると、単純計算でも十五倍の威力の魔力を発動出来る事になる。

 愛はそれを瞬時に理解をして、二人に協力を求めたのだった。


 この世界では、協力して魔法を発動した人は誰も居なかった。リサにとってこれは、大博打に近かった。

 魔法騎士団員にとって、魔法は命と同じくらい大事だった。魔物まだ多少居るのに、魔法が無くなっていたら、命取りになるからだった。

 愛が発動した魔法はトルネードで、塔から見える海上に向かって魔法を放っていた。

 リサの得意な魔法なので、愛が何を魔法で発動したのかは直ぐに分かった。

 しかし、その規模が余りにも大きいので、リサは度肝を抜かれていた。リサの得意な最大規模のトルネードを発動しても、これに比べると雲泥の差だった。


 愛は、トルネードで、海水を大量に巻き上げていた。そして巻き上げられた海水を、王都に雨が降る様な感じで、細かに微調節しながらトルネードの形状と方向を変えて行った。

 突然、王都に海水の雨が降って来た。

 いや、降って来たのではなく、海水が天から落ちて来たと言った方がいいぐらい、土砂降りの雨が降った。

 王都の火災は見る間に鎮火して行き、塔から見える火災は、数えるぐらいにまでに消えていた。

 王宮も例外でなく、海水の土砂降りの雨が降った。王宮の火事も、同じ様に鎮火して行き、内部の火災だけになっていった。

 彼女は、それらを確認すると、魔法の発動を止めた。

 魔法は思っていた以上には減っていなくて、半分使ったぐらいだった。

 無事に終わった彼女は安堵して、二人の方を向いて笑顔で言った。


「リサとジュリア、お疲れ様でした。

 無事に終わりましたので、手を離しても大丈夫です」


 二人は、これほどのトルネードを今までに見たことがなかった。しかも、海水を吸い上げて、王都に土砂降りの雨を降らすとは、余りにも予想外の展開だった。

 二人は、愛に言われても、ブレスレットに置いた手を、動く事すら出来なかった。


「あのー? リサ? ジュリア?

 大丈夫ですか?

 もしかしたら、魔法を送ってもらって、何か異変が起きたのですか?」


 愛は、二人が全く動こうとしなかったので、体に異変が起きたのかと心配になって来た。


 突然、上空から三人に向かって、何かが落ちて来ていた。

 ジュリアの真上に落ちて来ていて、このままでは直撃する。愛は、とっさにジュリアを突き飛ばした。


 ドサ。ビターン、ビターン、ビターン!


 何かの生き物だと直ぐに分かったけれど、どうしてそれが、ここの塔の上に降って来たのかは愛には分からなかった。まだ動いているそれを見つめて、何故だろうと、彼女は必死に考え出した。


 それを見たリサが、呪縛が解けた様に動きだして、大笑いしながら愛に言った。


「あ、あ、愛。貴女は海水どころか、さ、さ、魚までも巻き上げて、お、王都中に魚の雨を降らしたのよ!」

「え、ま、まさか!? 海水だけだと思った……? 本当に……?」


 ジュリアも、予想外の副産物に、お腹を抱えて笑いだした。


 愛は唖然となった。

 右手で口を押さえて、何も言葉に出来ずに、二人を交互に見るしかなかったのだった。

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