第56話 契約
何か別の生き物が、再び上空から降って来た。
リサとジュリアは、その生物が異様な形をしていたので魔物と思い、戦闘体型を取った。そして、迎撃する為に、二人は右手を伸ばした。しかし、魔法を発動する直前に、愛が止めた。
ジュリアが、憤慨する様に愛を睨みつけた。
「愛、どうして止めるの?
魔物が襲ってこようとしているのよ」
ビタン……ヌルーー……
塔の上に落ち来た生物は、八つの触手がウゴウゴ奇妙に動き出した。
ジュリアとリサは、いつ襲って来るかも知れないこの生物に警戒を続けていた。
それを見ていた愛は、笑いを押さえながら、二人に説明をした。
「こ、これはタコと言って、海の生物なんですよ。
塩茹でにしただけでも美味しいし、酢の物にして、お酒のおつまみにはもってこいですね」
二人は、愛とタコを見て、呼吸が一瞬止まっていた。
ジュリアが、納得して愛に言った。
「タコ……? てっきり魔物だと思った。
漁師から聞いたことがあったけれど、見るのは初めてだわ。
これ本当に食べれるの?
でもこれは、忌み嫌われている生き物よ」
「私がいた国では、これは好んで食べられている食材なんですよ。
簡単に捕獲できるし、調理が簡単なので。
でも、どうして忌み嫌われているんですか?」
「えーと、それは……?
リサお姉さん、訳を知っている?」
「……? 私も知らないわ。多分、形が異様だから?
今までこれを食べた人が居ないから、誰も食べようとはしなかっただけかも」
愛は、空から降って来た副産物の魚とタコを拾おうとした途端に、足に痛みが走った。
「痛い!!」
愛は、たまらずに口にした。
彼女の足が、通常では考えられない方向に曲がっているのに、ジュリアが初めて気が付いた。
「愛……、その足どうしたの!?」
「え、そのう……。上から降下した時に、骨折をしたみたいなんです。
リサに応急手当てはしてもらったのですが、歩けないみたいですね」
「歩けないみたいですねって、愛! 何を呑気な事を言っているの!
マリサか、誰か、治癒の魔法を使える人を直ぐに呼んでくるわ」
ジュリアはそう言って、走って塔の階段を駆け下りて行った。
フィアーが、愛の方に羽ばたいて飛んで来ていたけれど、少しふらついていた。
フィアーが、愛の目の前まで来ると、疲れたように言った。
「はーー。疲れて、お腹が空いたわ。
愛、悪いんだけれど、右手を差し出してくれる?」
愛は、言われるままに、右手を差し出した。
そうすると、フィアーは右手に乗って来た。
「羽を動かすと、結構お腹が空くのよね。
それに、瞬間移動を何度もしたから、もうお腹がペコペコ。
愚痴はそれくらいにして、こちらの方が司令官の人なの?」
「はい。魔法騎士団の副団長でリサと言います。
それに、彼女はジュリアとマリサのお姉さんでもあります」
「そうなの?
本当だわね。二人によく似ている。それだったら、信頼に値するわね。
これからリサと話がしたい。
朝日と同じ清浄の光を彼女に当てるので、それを先に伝えてくれる?」
「はい。分かりました」
愛は、足が痛かったけれど、リサの方に向いて話した。
リサは先程から、愛が再びドラゴンの妖精と話しているだろうと思っていた。
「リサ。フィアーが貴方と話をしたいそうです。
その為に、朝日と同じ清浄の光を、リサの目に当てるそうです。
私の右手に乗っている、フィアーの方を見てくれますか?」
「ドラゴンの妖精と話せるのね。
分かったわ。
これでいいかしら?」
リサは、愛の右手の少し上の方を見つめた。
フィアーは小さ手の中に、朝日と同じくらいの光を作り出して、リサの目に当てた。
「眩しいーー!」
思わずリサは、瞼を閉じた。
そして再び瞼を開けると、愛の右手の上には小さな青色のドラゴンが乗っているのが見えた。
初めて見るドラゴンの妖精に、リサは驚いたけれど、少しだけ眉が動いただけだった。
フィアーは先程とは変わって、ゆっくりと、威厳に満ちた口調で話し始めた。
「初めまして。私はドラゴンの妖精のフィアーです。
こうして貴女と話が出来るのを、光栄に思います。
この二頭のヒドラですが、まだ子供なので、あなた達に渡すのは余りにも悲しいと、グラウンド・ビッグ・マザーの意見です。私も同じ様に思い、ヒドラの亡骸を海に沈める事を決定しました。
その後、彼女はユリア王子とナイトを迎える為に山に向かい、ここに再び戻って来ます。そして、そのまま巣に戻るそうです。
愛達にも伝えましたが、貴女が高位の指揮官なので、正式に口頭でお伝えします。
悪の大魔導士を倒すべく、ドラゴン族は人間と共闘する事を決定しました。しかし、これに関して、人間側からの正式な返事を頂きたいと思っています。
共闘に関して、これから述べる事を守ってもらいたいのです。
第一に、ドラゴンは、魔物ではない事を認識する事。
悪の大魔導士に操られているドラゴンは人間を襲いますが、本来ならば私達は好んで人間を襲ったりはしません。昔から、人間達は、名誉を得る為に、ドラゴンと戦いました。しかし、ドラゴンにとって、それは、あくまでも防衛の為の戦いだったという事を知って欲しいのです。
第二に、基本的にドラゴン族は、ドラゴン族と戦わないので、それは理解して欲しいのです。
戦場で、どうして戦ってくれないのかと思われるかも知れませんが、理性を失った仲間を殺すには、余りにも精神的な負担が大き過ぎるのです。人間が、仲間の人間を喜んで殺せるでしょうか? 愛する家族や、親、兄弟、子供達を殺せるでしょうか?
今回は特別で、ヒドラが子供だったので、このまま長く苦しみながら死ぬのを我慢出来なかったのが真意でした。
ドラゴン族以外なら、私達も人間と協力して、戦線で戦っていきます。
第三に、ドラゴンも感情が有ると、認識を新たにして欲しい事。
私達は、人間と同じ様に感情を持っています。子供が殺されれば、怒り悲しみます。嬉しい事、楽しい事があれば、私達も笑い、幸せな感情が心の中で沸き起こってくるのです。
第四に、向こう側にいるドラゴンは理性を破壊されている為、もはや普通の状態に戻れません。
これらのドラゴンは、人間が倒したら、亡骸を、人間達で処理をして下さい。もし、ドラゴンが近くに居れば、今回の様に海に持って行くかもしれませんが。
第五に、以上の事を人間が守ってくれると返事を頂いたら、ドラゴン族と人間とで、正式に契約を取り交わします。そしてそれを、この国だけでなく、他の国々にも伝えて欲しいのです。
この契約は、長く苦しめられていたドラゴン族が人間達が共闘する反撃の狼煙であり、我々を鼓舞する有効な方法であると思われるからです。
他の国がこの契約に賛同してくれるのならば、その国に赴き、同じ様な契約を交わして行こうと思います。
以上ですが、リサ様から何か質問がありますか?」
リサは、余りにも濃いい内容だったので、ドラゴンに対しての認識を新たにした。
「内容をよく理解いたしました。
近日中に会議を開いて、これらの内容を検討してみたいと思います。
連絡するには、愛に言えばいいのでしょうか?」
「はい、そうです。
私は、この戦いが終わるまで、愛達と常に居るつもりです。何かあれば、今回の様に清浄の光を当てて、貴女と話がいつでも出来ます
「分かりました。
フィアーが、殆ど霞の様に見え始めて、言葉も聞き取りにくくなって来たのは何故でしょうか?」
「それは、清浄の光の……」
リサは、フィアーが完全に視界から消えたので、最後まで聞き取る事が出来なかった。
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