第49話 ヒドラ

 ダダダダダ……。

 魔法騎士団の宿舎にある、副団長の執務室に向う廊下を、全速力で走るジョウダンの靴音が鳴り響いた。そして、執務室のドアをノックもしないで、いきなりドアを開けて言った。


「リサ、大変だ!

 魔物が襲って来る」


 机に向かって、報告書を書いたいた手を止めたリサは、ジョウダンの言葉に立ち上がって言った。


「歩きながら話そう」


 そう言って、彼女はすぐに執務室を後にした。


「状況はどうなっている」

「先程、見張りをしていたアンから報告がありました。彼女によりますと、東北の山頂近くに、ヒドラを筆頭とした多数の魔物が舞い降りたと言っていました」

「それで?」

「それが、それ以後、魔物の動きが止まったままの様で」

「妙だな。

 普通なら、こちらが警戒態勢を取る前に襲って来るはずだけれど?

 まあそれは、後で分かるだろう。

 ジョウダン、第一警戒態勢を発動する。王都全域に今すぐ出してくれ」

「はい、分かりました。

 復唱します。

 第一警戒態勢を、王都全域に、今すぐ出します」

「よし、すぐ行け」

「はい」


 ジョウダンは、宿舎の横に立っていた見張の塔に走って行った。そして、彼がこれまで登った、最短の時間で登りきった。

 すでに、そこには数人いて、魔物のいる山頂付近を凝視していた。

 ジョウダンは、見張りのアンに正式な敬礼をして、大声で、少し緊張しながら言った。


「リサによって、第一警戒態勢が発動された!

 これより私、ジョウダン・ブラットは、王都全域に知らせる為に、大鐘を鳴らします!」

「了解しました。宜しくお願いします」


 アンがそう返答すると、彼は見張りの塔に据え付けられていた大鐘を連打しだした。


 ガァ〜〜ン、ガァ〜〜ン、ガァ〜〜ン、ガァ〜〜ン、ガァ〜〜ン、ガァ〜〜ン、


 大音響とともに、第一警戒態勢を知れせる大鐘が、王都全域に広がっていった。

 第一警戒態勢とは、魔物が王都を襲っわれそうな時に、騎士団か、魔法騎士団の上位者によって発令出来る。それは都民として、魔物の被害を最小限に抑える為の、義務の行動だった。


 火は全て消す事。

 戦える者は、予め決められた場所に行って、上からの命令を待つ事。

 救護班は、予め決められた場所で待機する事。

 消火班は、王都に火災が発生しないように、巡回を開始する事。

 上記以外の者は、安全な地下や洞窟に逃げる事。


 などが決められていた。


 ーーーー


「チィ、警戒を始めやがった」


 トリッガーは、鐘の鳴る音を聞いた。そして、王都の家から漏れる光が、少なくなっていくのを見て悔しがった。


 しばらくして、後ろからジュンがトリッガーに声をかけてきた。


「トリッガーさん。気分が良くなってきたので、ヒドラ達を奴らにけしかける事が出来ますよ」

「おお、そうか。

 少し遅かったも知れないが、十分間に合うだろう。

 よし、やってくれ」

「お任せあれ」


 ジュンは直ぐに魔法を発動して、魔物達をけしかけた。

 魔物達は、彼の魔法によって、闘争本能が燃え上がっていった。そして、指示された目標に一斉に飛び立っていったのだった。


 ーーーー


 アンが、魔物の異変に気が付いた。

 直ぐに彼女は大声で、下で待機していた伝令係に伝えた。

 彼女が、照明の為の魔法を夜空に向かって放った。

 太陽の光には及ばないものの、魔物の飛んでいる場所がはっきりと分かった。

 先頭を飛んでいるのは予想通りヒドラだった。ヒドラ達は、王宮目掛けて最初の火炎攻撃を、遠距離から放射した。王宮の殆どは石組みで構築されていたので、影響は受けなかった。しかし、部分的に木などの燃えやすい建築機材も使われていたので、数カ所で火災が発生した。


 リサは、王宮の最も高い塔に来ていた。

 ここだと、王都の殆どが見渡せ、戦況が手に取るように分かる場所だった。ヒドラの最初の攻撃に対して、魔法騎士団も反撃を開始していた。

 リサも、ヒドラが有効射程距離に入ると、弱点の薄い飛膜に攻撃を仕掛けた。ヒドラは、火炎攻撃に耐性が高いので、彼女はブリザードの魔法で応戦をした。

 二頭のヒドラの飛膜が、ブリザードの魔法攻撃によって傷つき飛行出来なくなって、王宮の中庭に降りてきた。

 ヒドラ達は怒り狂って、手当たり次第に火炎攻撃を開始した。王宮の窓から火炎が入り込み、中の家具などが燃え上がり、王宮内にいた消火班は多いい出火元に苦慮していた。また、応戦しようとした騎士団達は、余りにも猛火だったので、近く寄ることも出来なかった。魔法騎士団も、攻撃魔法を発動はしているものの、鱗の防御力が高いので、深い傷を負わす事が困難な状況だった。

 王都の方は、その他の魔物の攻撃に晒されて、反撃をしているものの、負傷者の数も増えていっていた。火炎を使う魔物もいて、火災が王都至る所で発生をしていたのだった。

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