第45話ドラゴンの妖精フィアーの、霊妙な話 その一

 洞窟を抜けると、そこは大きな空洞になっており、その中を無数の精霊達が所狭しと空を飛んでいた。

 一番近くに居たのは百合の妖精のリリで、百合の香りを放ちながら、愛達に笑顔で手を振っていた。彼らは、こんなにも多くの妖精達を始めて見てとても驚いていた。そして、洞窟の扉から色々な匂いのする元は、これらの精霊からだと分かったのだった。


「みんな、無事に来れたみたいね」


 フィアーが愛達の近くに寄って来て、先ほどの口調とかなり違っていたので、彼らは更に驚いた。


「どうしたの?

 私の顔に何か付いている?」


 ジュリアが、思っている事を、そのまま言った。


「先ほどの威厳のある口調から、普通の会話の口調に変わったので、どうしてかと思って」

「あ、それね。

 そうでもしないと、真剣に考えてくれないと思ったのよ。

 えーと、貴女の名前はジュリアね」

「はい、そうです」

「清浄の光は、精霊が見える光でもあるのよね。

 つまり、精霊が見えるという事は、この世界の情報が手に取るように分かると言う事なのよ。それを与えるからには、深く考えてもらわなければならなかったのよね」


 マリサが、フィアーの言う事の意味が分かって、とても驚いた。

 百合の妖精のリリが言っていた、百合のある所なら、この世界の何処へでも行ける。それは、そこから情報を得る事が出来るのを意味していた。他の精霊に協力を頼めば、この世界のあらゆる場所の、あらゆる情報が手に入る事を。これは、強い力を得たと同じ事を暗示していた。

 マリサが、興奮してフィアーに言った。


「フィアーの言っている事は理解できます。

 情報は、最強の武器になり得るので、それを与えるからには私達に深く考えてもらわなければならなかった事を」


 フィアーは、マリサの前に行って、少し上下しながらマリサを見つめた。


「マリサだよね。

 貴女、私が思っている以上に頭の回転の早い人ね。情報が武器になると理解できる人は少ないわ。この中で、これを理解しているのは貴女と、愛ぐらいかしら?」


 フィアーが、愛の名前を出したので、彼女は目を見開いてフィアーの方を見た。

 彼女は、マリサと同じ様に思っていて、それを言われたのでびっくりをしていた。

 フィアーは今度は愛に近づいて来て、珍しい物でも見るように、小さなフィアーの可愛い目が何度も瞬きをしていた。


「愛。貴女、この世界の人間では無いわね」

「えーと、そうです。異世界から来ました」


 フィアーは驚いた顔になり、羽ばたくのが止まって、下の方に落ちていった。

 地面に当たる寸前に再び羽ばたいて、愛の顔近くまで来た。


「驚いたわ! どうやって来たかは知れないけれど。

 確か。えーと。かなり昔に、もう一人居たけれど」

「その人は私の母です。フィアーに会ったら、宜しく伝えといてと、言っていました」


 再び驚いた顔になったフィアーは、羽ばたくのが止まって、下に落ちていきそうになった。けれど今度は、愛が右手を差し出して、フィアーを受け止めた。そして彼女は、フィアーの乗っている右手を、目の前まで持ち上げた。

 フィアーは、小さな目をパチクリさせながら言った。


「ええ〜〜! それ、本当なの? 信じられない!!

 かなり昔なのに、どうして彼女の娘がここに居るの?」

「それは、こちらの世界と、向こうの世界の時間の進み方が違うからだと思うんです」

「数百万年生きて来たけれど、これ程驚いたのは、三度目になるわ」

「三度目ですか?」

「そうよ。貴女と貴女のお母さんで二度。もう一つは、遥か昔の事。話せば長くなるんだけれど、この話は重要だから話すわ。

 ここにはあらゆる生物の精霊が居るのだけれど、一種類の生物の妖精だけ居ないのよね。それがどの種類か分かる?」

「人間の精霊だけ、ここに居ない感じなのですが?」

「即答したわね。

 貴女は、計り知れない何かを持っているわ」


 フィアーは今度羽ばたいて、左右に揺れながら愛を見ていた。

 周りで聞いている仲間たちは、愛の答えに二つの意味で驚きを隠せなかった。

 一つは、フィアーが愛の能力の未知数に言及した事。そしてもう一つは、人間の精霊がいない事だった。

 フィアーは、何故人間の精霊が居ないかの説明をしてくれた。

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