第46話ドラゴンの妖精フィアーの、霊妙な話 その二

「昔は居たのよね、人間の精霊が。

 彼女は人間に恋をして、どうしても人間になりたいと、清浄の光の中で七日七晩祈ったのよ。すると、神様の悪戯だと思うんだけれど、本当に人間になったのよね。

 更に驚いた事に、それまで魔法が使えるのが精霊だけだったのに、人間と結婚して生まれた子供達も魔法が使えるようになった。だから、今の人間が強力な魔法が使えるのは、精霊の血を直接受け継いでいるからなのよ。

 それから長い年月をかけて、他の種族にも魔法を使えるのが現れて来たわ。最悪なのが、魔物の中にも魔法を使う者まで現れて、世界は混沌として行った。しかも、人間の中に、強力な魔の魔法を操る者が現れた。世界の均衡が大きく破れたのは、今回で二度目。

 一度目は、ご存知の様に貴女のお母さんと仲間達が魔に侵された人間を退治してくれたので、その後はある程度均衡が戻って行った。

 でも、今、再び均衡が大きく破れている!

 生物の中では最強を誇るドラゴン族でも、奴には逆らえなかった。約四分の一のドラゴンが、奴の支配下に 強制的に入らされているわ。他のドラゴンは、奴から逃げるように身を潜めているのが現状ね。

 このままだと、ドラゴン族どころか、人間の世界も彼の支配下に入ってしまう。そこで、以前の様に人間と協力をする必要性が出てきた。人間達の中で戦闘能力が高くて、魔に侵されない強い心を持った人達を私達は探していたのよ。

 そして数日前に、最強の部類のレッドドラゴンを、たった五人と一匹で倒したと聞いたので、それから色々とあなた達の事を調べたわ」


 そう言った後で、アンドリューの前にゆっくりと飛んで来て、、諦めた様な顔にフィアーの顔がなって行った。


「この国の第一王子のアンドリューね。

 魔法の迷路の森で、色々と罠を仕掛けて、あなた達を試そうと思っていた。しかし、貴方とジュリアの横笛で、それも全て無駄になってしまったわ。貴方達二人の、あの素晴らしい音色を奏で始めたら、感動して涙さえ流す精霊が大勢いた。演奏が終わっていたら、多くの精霊の心を貴方は鷲掴みにしてしまっていたのよ。

 だから、演奏が終わって森の外に直ぐに出られた分けよ。さすが、時期国王だと思ったわ。多くの者を瞬時に捉える能力は桁違いね」


 今度はユリアの方に飛んで行った。


「この国の第二王子のユリアね。

 今や貴方は、英雄の一人として国中に噂が広まっている。仲間の為に自分の防御を無視して、レッドドラゴンに深く剣を刺すなんて、誰にでも出来ることではないわ」


 ジュリアの前に来て、じっと瞳を見つめた。ジュリアも見つめ返して、宝石にも引けを取らない神秘的なフィアーの目を見つめていた。


「貴女は物怖じしないし、強力な魔法の使い手。

 これ程の能力を秘めた魔法使いは歴史上でも稀だわね」


 今度はトニーの方に飛んで行って、考えるように顔を傾げた。


「貴方の能力は未知数ね。これからの努力次第では、屈指の剣術使いになれるかも知れない。でも、既に、揺るぎのない国を思う心は誰にも負けていないわ」


 フィアーに言われて、トニーはニコッと笑った。

 フィアーは今度は、ナイトの所に行って、なんと、猫語で語りかけたのだった。


「ニャーーー」

「ニャー

「ニャ、ニャー」

「ニャー、ニャー、ニャー」

「分かったわ。貴方も頑張って」


 愛にも分からない様な、素早いイメージのやり取りで、フィアーとナイトが何を話しているのかほとんんど分からなかった。ただ、ナイトはこのまま、愛達と旅を続ける意思があるとしか理解出来なかった。

 フィアーは、再び愛の所に戻って来て言った。



「愛の能力は、私では計り知れない数多くの物を持っている。貴女のお母さんも同じだったけれど、これからが楽しみ。

 さて、話を先に進めて、最後の大事な情報の前に、いくつか言っておきたい事があるの。それは、基本的には私達はあなた達と共闘して悪の魔導士を倒すけれど、精霊は前線では戦えない。つまり、情報は教えるけれども、攻撃魔法などは使えないので、直接戦うのは愛達になるわ。

 ドラゴンは戦えるけれども、ドラゴンがドラゴンを殺せない。余程の理由がない限りはね。何故なら、百合の妖精のリリの迷わす匂いの体験で、愛達にも分かるはず。その為に、私がリリに頼んだ事だったのよ」


 愛達は何故あの時、リリが迷わす匂いを振りまいたかの、その理由が今初めて分かったのだった。


「その顔は、分かったって感じね。

 それと、断崖絶壁で愛達を助けたレッドドラゴンは、ドラゴンの中で最も長生きをしている。ドラゴンの仲間からはグラウンド・ビッグ・マザーと呼ばれているわ。愛達も彼女をそう呼べばいいと思う。それで、彼女の子供達や孫、ひ孫などは数多く生まれているのだけれど、向こう側に強制的入らされている者が数多くいる。その為、彼女の怒りは相当なもので、本来ならば、罪もないドラゴンを殺して来た人間とは共闘したくないのを、今回は積極的に共闘を申し出てくれた。これは、愛達にとっては、千の味方を得たのと同じになる。

 最後に重要な情報を言う前に、何か質問はあるかしら?」


 マリサが、グラウンド・ビッグ・マザーが共闘してくれる、具体的な行動が分からなかったので聞いた。


「グラウンド・ビッグ・マザーが私達と共闘してくれると言われたのですが、具体的にはどの様な事なのでしょうか?」

「いい質問ね。

 それは、彼女に乗って移動出来る。

 そして、時と場合によるけれど、前線で一緒に戦ってくれるそうよ」


 愛達の予想を遥かに上回る共闘に、開いた口が塞がらなかったのだった。

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