第三章 王都炎上
第47話 王都とお弁当
「それは本当なのか?」
「へえ、間違いない情報でさ。
レディングでランディが殺され、操っていたレッドドラゴンも殺されたとか」
「ん〜、そうか」
トリッガーはニヤッと笑って、幹部の中での地位を上げるチャンスだと思った。
彼は悪の魔導士の幹部の中では一番下で、ランディが死んだ事によって、一挙に上位に上がる機会が訪れた事を確信した。
「おい!
明日の明朝。ウィーラント国の王都に俺の支配下の魔物達に襲わせる。
それの準備をしておけ」
「え、ちょっと待って下さいよ。今からですか?
あそこまで、かなりの距離があって、空を飛べる魔物しか行けませんよ」
「当たり前だろうが。アホ!
それに、騎士団が遠征に出かけている情報を昨日入手したばかりだ。こんな好機はねえな」
「でも、何でわざわざ遠くの王都を襲うんですか?
俺には意味が分からないんですけれど」
「ま、それは、幹部の中での権力のバランスの問題だな。
ここでウィーラント国の王都を襲って成功するとだな、俺がその国を支配する権利を得るんだよ。そうするとだな、幹部の力のバランスが変わって、俺様が上の方に行けるって寸法よ」
「そ、そ、それって。もしかして失敗すると、首が飛ぶって事ですか?」
「いいか。人間の一生の内で、こんな好機が多く訪れるものでは無いんだよ。多少のリスクは負わないと、このまま最下位の幹部のままだ」
「でも、それは越権行為で、魔導士様はそれを、お許しになりますかね」
「結果が良ければ、逆に褒めてくださる事間違いなしさ。
おい、偵察用のカラスの数を増やしておけよ。それと、お前も行くんだ、分かったな」
「えー、またですか。
ヒドラに乗ると、飛ぶ時の上下が激しくて。だから俺はいつも船酔いみたいになって、何度も吐くんですけれど」
「今から何も食わなければ吐くことも無くなるさ」
部下のジュンは少し考えた。
「そうすると、お弁当を持って、向こうで王都が燃えるのを見ながら食べるって事ですけれど、それでいいんですかね?」
「お前、たまにはいい事を言うな。
出発までに、二人分の弁当とワインを忘れるなよ」
「本当ですか?
弁当だけでなくて、ワインもいいんですか。もしかして、あの取って置きのワインですか?」
「そうだなー、前祝いで飲めるし、それを忘れるなよ」
「はい、もちろんでさ」
ジュンは笑顔で、配下の翼のある魔物達に命令を下すべく、トリッガーの部屋を後にしたのだった。
ーーーー
一人一人の顔を見ながら、ゆっくりとフィアーが言った。
「重要な情報をこれから言うけれど、決して心を乱さないで。
王都が、ヒドラを筆頭にして、多数の魔物の攻撃に晒されようとしている。
これから、グラウンド・ビッグ・マザーに乗って行っても、間に合わない。
……それでも、行く? それとも……」
ヒドラは、小型のドラゴンながら、九つの頭を持っており、強力な火炎攻撃が得意だった。しかも空を飛べて、常に魔法騎士団、騎士団、弓矢隊などが苦戦を強いられる強敵だった。
アンドリューはすぐに答えた。
「お願いします。
間に合わなくても、何かの役に立てると思うのです」
他の仲間達も頷いて、賛同の意思を示した。
「分かったわ。
一つだけいい忘れていたけれど、シャスタ山のこの中は魔力で満たされている。ここに居るだけで直ぐに魔力が元に戻るわ。もちろん、あなた達のブレスレットの宝石も含めてね。既に、元に戻っているはずだけれど?」
フィアーの問いに、彼らは頷いた。
愛は、殆ど空に近かった体の中の魔法が、元に戻っているのに驚いた。しかも、腕輪の宝石も魔法で満たされていたのだった。ジュリア達が言っていた、シャスタ山は魔法が集まる場所の意味が、今更ながら分かったのだった。
「それでは、愛達は洞窟の外で待っていて、私がグラウンド・ビッグ・マザーを呼んだ来るわ」
言った途端に、フィアーは空中で回りながら上昇して、消えて行った。
「さあ、行こう。
何が起こるか分からないけれど、きっと僕達でも役に立てる事があるはずだ!」
アンドリューが先頭に立って、洞窟を戻り始めた。ジュリアが直ぐに追いかけてきて彼に言った。
「ええ、私達でも役に立てる。
でも、朝から色々あり過ぎて、お腹が空いてきたわ」
「ジュリアー、今はそんな時では……? 本当だね」
後ろで聞いていたマリサが言った。
「ジュリアお姉さん、そしてアンドリューまで。
これから大変な事が起きると言うのに、もう!」
「マリサ、そんなに怒らないで。ここでお弁当を食べるとは言っていないわ。食べる所は決まっているでしょう?」
マリサは、ジュリアお姉さんが何を言っているのか分からなかった。
トニーは、ジュリアの言っている事が分かったので、横からマリサに小さな声で耳打ちした。
「ドラゴンの背中だよ。多分ね」
マリサは、そんな事が出来るのかと、トニーを見つめ返した。
そして、ドラゴンの背中でお弁当を食べるのを想像したら、彼女は腰が抜けそうになった。
「ほ、本気で、グラウンド・ビッグ・マザーの背中でお弁当を食べる気なのですか?」
「そうよマリサ。王都に着くまで時間があるし、ドラゴンの背中に乗っていても、何もする事がない。それよりも、お腹を一杯にして、来るべき事態に備えるのが賢明だと思うんだけれど?」
「でも、でも、ドラゴンの背中で、お弁当だなんて……。この間ドラゴンを殺したばかりなのに……」
「マリサ、これは感情よりも、お腹に聞けよ!
向こうに着けば休む暇がなく、動きづめになるのは明らかだわ。その時、お腹が空いていたら頭が働かなくなってしまうし、体も同じ。
だ・か・ら、
時間がある時に、食べなくてはならないのよ。分かったかしら?」
ジュリアお姉さんの言うのが理屈に合っていたので、再び腰を抜かす所だったマリサは、半分諦めて言った。
「わ、分かったわ。お姉さん。
ドラゴンの背中でお弁当を広げたら、笑い者にされそうです。けれど、それが理屈に合っているので、私も食べます」
「マリサも大げさね、誰も笑わないわ。
それよりも、歴史に名を残すわよきっと。ドラゴンの背中で、お弁当を食べた勇気ある人達って」
「もう、お姉さんたら。そんな事にはならないわよ」
「うふふ、それは後の世の人が決める事だから分からないわよね。今は私達はやらなければならない事をするだけだわ。それは、ドラゴンの背中の上で、お弁当を食べる事よ!」
「それはそうだけれども……。
ジュリアお姉さんって、時々、突拍子も無い事を言っていると思うんだけれど。
でも、全て理屈に合っているので納得するしかないわ」
マリサは深い、深〜いため息をついたのだった。
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