第44話 清浄の光 その二


「そうだね、一緒に行こう。僕が焼かれても、君が横にいれば、同じく悔いはない!」


 アンドリューは、ジュリアを見つめ返しながら、力強い言葉で言い返した。

 二人は、これで最後かもしれないキスをすると、手をお互いに取って清浄の光の中に進み始めた。

 緊張が、再び辺りの空気を変えさせた。

 二人は清浄の光の中に入ると、お互いに向き合って抱き合った。これが本当に最後かもしれないと思って、ジュリアの目からは大粒の涙が流れ落ちていった。

 三姉妹が十代の頃、彼女達の母が亡くなって、継母が家に来た。けれど、ジュリアはその継母が好きにはなれなかった。三姉妹に対しては表面上優しくしてくれていた。けれど、ジュリアは好きにはなれなかった。継母が、父の地位と財産を狙っているのが分かると、事あるごとの継母に反抗的になり、最後には継母を憎む様になって行ったのだった。それからは、継母に対して悪戯を頻繁にする様になり、彼女の心は段々と荒れて行ったのだった。それを見かねた姉のリサが、当時から得意だった彼女の攻撃呪文のスキルを上げて、魔法騎士団に入るように進めてくれた。元々努力家だったジュリアは、メキメキと実力を付けて行き、晴れて魔法騎士団に入団する事が出来たのだった。

 今でもジュリアは、継母を憎んでいた。その事が心の中の闇となって巣食っているのが本人が一番理解をしていた。今回の清浄の光の儀式でこれが引っかかり、本気で焼かれるのではと思っていたのだった。しかし、それ以上にこの世界を何とかしたい、どうにかならないか、という思いの方が遥かに強いことも彼女は自覚していた。彼女はそれに賭けたのだった。

 体が溶ける様な光を浴びながら、ジュリアはアンドリューを見つめていた。彼を見つめる事が出来るのが最後だと思うと、更に涙が溢れて来て、止まる事なく彼女の頬を伝わって、下に落ちて行ったのだった。

 ふと彼女が気が付くと、アンドリューに導かれて清浄の光の中を抜けて、愛とナイトが待っていた先に進んでいた。余りにも予想外の展開に、彼女はぼう然とそこに立っているだけで精一杯だった。愛が彼女に微笑んでくれたので、やっと状況が把握でき、彼女の顔に少しづつ笑顔が再び戻って来たのだった。


「今度は私達よ、トニー」

「ああ、分かっているよ」


 そう言って、マリサとトニーは手を取りあって、清浄の光の中を歩いて行った。

 姉達が優秀だと、どうしても下の妹は姉に嫉妬を覚える時がある。マリサも例外ではなく、幼い頃から上の二人の姉に嫉妬していた。実の母親から三姉妹は横笛を習っていたけれども、先に生まれた姉達の方が当然上手く吹けていた。彼女がいくら努力しても、姉達も同じ様に努力すれば、差が無くならなくて、常に姉達の方が上手く吹けていた。いつしか彼女は姉達に嫉妬を覚える様になって、姉達がやらなかった編み物をやる様になった。編み物をやると、彼女の母が褒めてくれたので、いつのまにか横笛は吹かなくなってしまったのだった。編み物をすると彼女は優越感に浸ることが出来て、更に内に篭って、ひたすら編み物をする日々が続いていた。

 母が亡くなって継母が家に来ると、状況が一変した。編み物をしても誰も褒めてもらえず、ジュリアお姉さんの様に、反抗的にもなれなかった。その時助言をしてくれたのが、一番上の姉のリサだった。父のビジネスの手伝いを当時からしていた彼女は頭脳明晰で、王宮の執事になる事を進めてくれたのだった。継母から離れたい一心で彼女は努力して、数年前に念願の王宮の副執事の資格を得る事が出来たのだった。

 彼女は当時の様な根深い嫉妬心は無いものの、姉達の行動力を羨ましく思うことは、彼に会うまではよくあったのだった。

 フィアーが言っていた、心の闇はすでに無いものの、それに近いものは、時々彼女の心の中に湧き上がって来ていたのは事実だった。それ故に、もしかしたら、清浄の光に焼かれるのではと、本気で心配をしていた。しかし、彼女は愛を語り合える人が出来たので、以前の様な感情はほとんど湧いて来なかった。たとえ三姉妹でも、歩むべき道は別々で、それぞれの道を、愛する人と一緒に歩めばいいと思うようになっていたのだった。

 強い清浄の光に、体が焼かれると思った次の瞬間には、光が体の一部分になって行くのを感じ取っていた。

 ふと彼女が気がつくと、トニーが笑顔で笑っていた。そこは、愛達が待っていた場所で、無事に儀式を終えて、移動していたのだと分かった。余りにも緊張しすぎて、歩いた記録が全くなかったのだった。

 最後に残ったのはユリアだけになった。

 彼は、清浄の光の方に歩いて行った。王位継承権が二番目なのは、常に心の闇と戦っているのと同じだった。次男に生まれたばかりに、王にはなれないのはよく理解をしていた。しかし、もし兄が亡くなれば自分が王になれると、心の底では常に起こってくる魔の囁きだった。

 しかし、愛と会った事で考えが変わっていった。愛の世界では、誰もが自由に生きていると言っていた。心の自由は、王になるよりも魅力的に最近感じ始めていたのだった。

 清浄の光の中、彼は新たなる旅立ちにも似た感情が起きて来るのを抑えられなかった。彼の心の底にあった魔の囁きは、一片の破片も残る事なく消え、自由に、心の赴くままに生きようと変わっていったのだった。

 儀式が終わっても彼は動こうとしなかったので、仲間が彼を手招きをしていた。彼はそれでやっと気が付いて、無事に終わったのを理解したのだった。


「これでみんな無事に通り過ぎる事が出来たわね。

 さあー、フィアーが待っているこの洞窟の奥に行きましょうよ」


 仲間のみんなが笑顔になり、ジュリアの言葉に頷いていた。それから、彼女を先頭にして、フィアーが待っている洞窟の奥へと移動した。

 洞窟の奥に行くと、予想外の事実が彼らを待ち受けているとは知らずに。

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