第43話清浄の光 その一
「ニャーー」
ナイトが静寂を破って、決意をするかの如く鳴いた。
愛の方を向くと、目線が合ってもう一度鳴いた。そしてイメージで愛に最近起きた事を伝えた。
愛は、ナイトからイメージを受け取ると、驚きのあまり両手で口を押さえてしまっていた。それは、最近ナイトに彼女が出来たのだけれども、三角関係からもう一匹の雄猫に大怪我を負わせたのだった。猫同士が争うのは珍しく、更に、相手に怪我をさせてまで争うのは稀だった。ナイトの彼女は昔からナイトが好きで、怪我を負わせた雄猫はストカーに近い関係だった。結果、ストカー猫を撃退した形になった。けれど、相手の雄猫は怪我の後遺症から、半身不随に近い状態になったのだった。ナイトにとっては、それが唯一気になる事だったけれど、清浄の光の中を通る決心をしたと、最後のメッセージの中で彼女に伝えて来た。もしこれが原因で、清浄の光に焼かれる事があっても、悔いはないし、愛に会えて本当に幸せだったと。
仲間が見ている中、ナイトが最初に、清浄の光の方に、ゆっくりと歩きながら進んだ。
張り詰めた緊張が、辺り一面の空気に流れると、ナイトはまさに今、光の中を通り抜けようとした。仲間は緊張の為に、身動き一つ出来ないで、ナイトを凝視したのだった。ナイトが光の中に入って行くと、清浄の光がナイトに吸収されていった。その後直ぐにナイトが一瞬光輝いて、何事もなかったかの様にすぐに元に戻っていった。
ナイトは、清浄の光を浴びている時、百合の妖精リリを見た朝日の感覚を感じた。しかし、今回はそれよりも何十倍も強い光で、一瞬、体が溶けるのではと思ったほどだった。儀式を済ませたナイトは、清浄の光の場所からゆっくりと歩いて向こう側に移動をした。
「ニャーーー」
力強く鳴いたナイトは、仲間を励まして、清浄の光の中を通る決心を促していた。
愛達は、ナイトが向こう側に行って安心をした。しかしそれもつかの間で、今度は自分達の番だと、緊張感が更に増していったのだった。
愛が、次に行く決心を決めていた。
学生時代に愛は、同級生の女の子達から、必要以上に虐められていた。当時の彼女は、母から教わっていた橘流薙刀の稽古が面白かった。その為、多くの男の子から告白されていても、全く興味がなかった。彼女は文武両道で、成績は常にトップクラス。体育のスポーツでは、彼女の右に出るものはいない程、運動神経がずば抜けていた。そしてミス中学、高校と、常に三位に入っている程だった。同級生の女の子達とは話が全く合わず、男の子の話をされても、無視する事が多かった。その為、女の子達から嫉妬の対象になり、事あるごとに、愛に何かしらの悪戯をしていた。その悪戯に対して彼女は過剰防衛をしてしまい、相手に怪我を負わせた事が多々あった。ドッジボールの授業中に、後ろから反則を犯して至近距離から投げたボールをあっさりと彼女は受け止めた。彼女が反射的に思いっきりその子に投げ返したら、その子は後ろにひっくり返って脳震盪を起こして、救急車を呼んだ事もあった。バスケの試合中でも、相手がわざと彼女を転ばそうとしたら、過剰防衛で相手の子を突き飛ばしてしまい、捻挫をさせた事もあった。彼女が高校を卒業する頃には、そんな事が二桁にもなっていて、嫉妬する女の子達からは恐れられていた。彼女に手を出したら怪我をするよと。
愛は、相手の意思はどうあれ、今まで人を傷つけた事には変わりないので、もしかしたら、清浄の光に焼かれるのではと、本気で心配をしていた。しかし、いずれもが悪意でやった訳でないので、フィアーの言っていた、心の中に闇があるはずは無いと自分を信じて、清浄の光の儀式をする事に決めた。
愛がゆっくりと清浄の光の方に歩いて行くと、仲間は彼女を凝視した。
再び張り詰めた緊張が辺りを覆った。
清浄の光の中に入って行った愛は、余りにも強い光なので、身も心も焼かれるのではと思った。ふと、マリサが言っていた光の攻撃魔法は、まさにこの清浄の光そのものではないかと思った。この光を魔法で発動すれば、間違いなく魔物に大ダメージを与える事が出来る。しかし、どうやって? そう考えていたら、清浄の光は愛の中に吸収され、彼女の一部分となって体が光始めた。そして、それは直ぐに終わったのだった。
これで儀式が終わったと思った愛は、再びゆっくりとナイトが待っている前方に進んだ。
仲間からは、安堵のため息が漏れていた。
「今度は私達が一緒に行きましょう。
もし私が焼かれても、貴方が私の横に居てくれるなら悔いはないわ」
そう言ったのはジュリアで、アンドリューの目を見つめて、真剣な眼差しで言ったのだった。
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