第38話 断崖絶壁 その一


 アンドリューとジュリアの演奏が終わると、一つの小道が明るく光り始めた。まるで、出口はこちらだよと言っているようだった。

 アンドリューが言った。


「みんな行こう。

 きっと出口は、あの小道だよ」


 アンドリューが先頭になって、光っている小道をさっきの順番で入って行った。

 しばらく歩くと小道の先に森の出口が見えて来た。


「おーい。この先に、出口が見えるぞー!」


 それを聞いて、全員が笑顔になっていった。

 ここ数日、魔法迷路の森を抜けるのをみんな悩んでいたのに、こうもアッサリと抜ける事が出来ると誰が予想をしただろうかと。

 全員が森を抜け出ると、目の前にはシャスタ山が見えていた。遠くからでは分からなかった山頂までの山道が、ハッキリと見えだした。

 その山道を見た愛達は、暫くは誰もが言葉を失っていた。


「これって、本当に登れるの?」


 ジュリアが言って、みんなの気持ちを一言で言い当てていた。

 シャスタ山の山道は断崖絶壁に作られていて、細く長い道が山頂まで続いていた。そして、所々風化によって道が遮断されていたのが下からでも見えたのだった。

 マリサが怖がるように言い出した。


「わ、私。高所恐怖症なんです!

 の、の、登れません」


 姉のジュリアがマリサを庇うように言った。


「マリサは幼い頃に、高い所から落ちて大怪我をした事があって、それ以来高い所はその時の事を思い出して足がすくんでしまうのよ。

 でもこの道は、マリサでなくても恐怖を覚えるわね」


 ジュリアがマリサに近づいて、彼女の手を握って説得をするように彼女の目を見つめて言った。


「マリサ、よく聞いて。

 ここで逃げたら、今までの貴女の努力も全て無になるわ。怖いのは分かっている。私だって正直言って怖いわ。それでも先に進まなければならない時があるのよ。

 今、貴女が行くと決断をしない限り、貴女だけをここに置いてみんな登っていけないのよ。貴女一人に登れとは言っていない! 今まで一緒に旅を続けて来た仲間達と一緒に登るのよ!」


 マリサはジュリアに、真剣な眼差しで見つめ返して、ゆっくりと言い始めた。


「分かりました、ジュリアお姉さん。

 死線をくぐり抜けて来た仲間達とだったら、登れる気がしてきました。死ぬ気で頑張ります。

 でも、ジュリアお姉さんが怖いと言ったのを初めて聞きましたよ。ジュリアお姉さんでも怖くなる時があったんですね」


 マリサは言ってから、クスッと笑った。


「あ〜〜、マリサ。私も人間だから怖くなる時もあるわよ。

 そんな風に私を見ていたんだ」

「リサお姉さんとジュリアお姉さんは共に強いので、怖さを知らないのかと今まで思っていたんです」

「良かった。これで登れる・・・・ 、トニー? アンドリュー? ユリア? 三人ともどうしたの?

 まさか、三人とも高い所苦手なの?」



 三人とも下を向いていた。彼等も高い所は苦手で、ジュリアがマリサに言っていた言葉を自分達にも当てはめていた。


「えー! 四人が苦手なの?

 愛は大丈夫よね?」

「苦手では無いですが、これ程危険な山を登った事がないので、はっきり言って自信があまり無いです」

「そうか。そうよね。私と同じね。

 ナイトは大丈夫よね?」

「ニャーーーー」

「そっか。良かった。

 ナイトが自信たっぷりなので安心したわ。それで、どうやって登る愛?

 男どもは頼りないみたいだから」


 男性陣は、ジュリアに言われても何も言い返せないでいた。

 とにかく彼等は、この危険な山を登る為に覚悟を決めて、自分を鼓舞していたのだった。


「この中ではナイトが体重が軽いし、身軽に行動出来るので先に行った方がいいと思うのです。風化している個所を通る時に、体重の重い人が通るよりも、確認をしながら通れるので。ナイト、それでいいよね」

「ニャー」


 ナイトは愛を見て、自信ありげに答えた。


「それでは、その後は私ね。

 道がない箇所は、魔法で道を作って行かないといけないので。愛のブレスレットの中の魔法は昨日全て使って無いしね」

「はい、お願いします。

 それで、私が最後に行きます。何かあったら対処しやすいので」

「何かあったら?」

「えーと、考えたくは無いのですが、もしもの場合、誰かが、そのう、落ちた場合 」


 それを聞いた他の四人は、一斉に愛の方を見た。

 愛は、誰かが落ちると予想していたからだった。


「どうやって対処するの? かなり難しいわよ」

「えーと、自信は無いのですが、ウインドの魔法で何とかなるのではと・・・」


 愛が珍しく自信無さそうに言ったので、四人はもし落ちた場合には、助からないかもしれないと思い始めていたのだった。

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