第37話 魔法の迷路の森
「行こう、悩んでいても仕方ない。
愛のお母さん達はここを抜けて、シャスタ山に登ったんだ!」
ユリアが力強く言って、仲間の士気を盛り上げた。
ジュリアがそれに直ぐに反応した。
「行きましょう。ユリアの言う通りだわ。
私達だってきっと出来るわよ!」
「お弁当も持っているし、迷子になってもお腹が空くことはないしね」
アンドリューが言って、みんなを笑わせた。
言ったアンドリューは、本気でそれを言ったのに、何んで、みんな笑うんだろうと不思議がっていた。
こうして六人と猫一匹は魔法の迷路の森に入る事に決心をして、更に森の奥へと進んで行った。
前方に立て札があって、“ここから先、魔法の迷路の森につき入るべからず”と書かれてあった。その森は今まで来た森と違って鬱蒼と植物が茂っており、太陽の光が全く地面に届かない程だった。生えている植物も奇妙なものが多く、長くくねらせた様な枝を四方にのばしていた。道は狭く、一人が通るのがやっとで、横から出ている枝を払わなければ通れない程だった。地面は苔で覆われてジメジメしており、更に大小の石が地表に出ていて、とても歩きにくそうに見えた。
愛は、困惑をしていた。
魔法の迷路の森から、無数の視線を感じたからだった。明らかに彼らは愛達の行動を監視していると思った。しかし、その視線の主が何なのかはハッキリとは分からず、たった一つだけ分かった視線があった。
「百合の妖精のリリが私達を見ています。
その他の無数の視線は誰なのか分かりません」
愛が言った途端にみんなが振り向いて、次の言葉を待った。
「でも、見ているだけで、何もしない感じですね」
ユリアが言った。
「観察をしているんだ。僕達がどういう人間かを」
「悩んでも仕方ないのなら、前に進もうよ」
そう言ったのはアンドリューで、先頭を切って魔法の迷路の森に入っていった。そして、見えない視線の主に笑顔で手を振って歩いて行った。
ジュリアが追いかけるように入って行って、歩きながらアンドリューに言った。
「アンドリュー、どうして手を振っているの?」
「明日になれば友達になっている気がしてさ。最初の挨拶だよ」
「本当にアンドリューて変なの」
ジュリアはそう言いながらも同じく手を振って、魔法の迷路の森に入って行った。
姉のジュリアが入って行ったので、マリサも同じく後に続いて入って行った。マリサが入ると、当然後からトニーが入って行って、マリサに遅れないように先に進んだ。
残されたのはユリアとナイトと愛だけになって、ユリアが愛に言った。
「僕が一番最後に行くよ」
「分かったわ」
そう言って、愛とナイト、そしてユリアが最後に魔法の迷路の森に入っていたのだった。
アンドリューが手を振ってから、視線の中から笑いが伝わって来ているのを愛は感じていた。もしかして、上手く行くかもしれないと内心思っていると、ユリアが言った。
「森の入り口が塞がった。もう後には戻れない!」
緊張感のある声でユリアが言ったので、全員が後ろを振り向いて確認をした。さっきまであった入り口は既になく、そこには木々が鬱蒼と茂っているだけだった。
しばらくは何の変化もなく、ただひたすら森の中を歩いた。と言っても枝が道まで出ていたので、それを手で避けながら、更に、足元も平らでないので早く歩く事が出来なかった。
先頭を歩いていたアンドリューが突然言った。
「分かれ道だ!」
そこはかなり広く、中心には池があって太陽の光が降り注いでいた。池の周りには季節に関係なく、色とりどりの花々が咲き乱れていて、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
花々を取り囲むように道があり、そこから八方に狭い道が続いていて、愛達はその中の一つの道からここに出て来たのだった。
木の丸太が周りの道の横に点々と転がっていて、それを見ながらアンドリューは言った。
「疲れたら、ここでお弁当をするといいね」
「アンドリュー!それは後でもいいでしょう。
それより、ここは今の季節に咲いているはずのない花が咲いている。この森の中は季節が無いんだわ。それに、朝なのに、真上から太陽の光が差し込んでいるわ」
ジュリアが花々を見ながら言った。
「とにかく、先に進もう!」
ユリアが少し焦った口調で話したので、アンドリューが諌めるように言った。
「ユリア、少し落ち着けよ。
さっき会った腰の曲がった老人の話を思い出しなよ。どの道を進んでも分かれ道に戻って来ると言っていただろう。つまり、どの道を進んでも、いずれはここに戻って来るって事だと思うんだよね」
「そうですが、兄上。
このままここにいても、何も進展がないのも、事実ではないでしょうか?」
「ま、それはそうかもしれないけれどさ。こんな時こそ焦って先に進むよりも、気楽に考えた方が良いと思うんだよね。
そうだ、愛が言っていた無数の視線の主達に音楽を送るよ。その後、どの道に行くか決めるといいよ」
「分かりました。兄上の言う事も一理あると思うので」
「ジュリア、ここで演奏会するよ。例の“花々の幸せ”を奏でようよ」
「分かりました。
今、焦っても仕方ないのは事実なので、一曲奏でて、心を落ち着けた方が良いですよね」
二人は横笛を取り出すと、目線で合図をして“花々の幸せ”を奏で始めた。
愛は始めて聞くジュリアとアンドリューの、この曲の演奏に心を打たれた。
地上に出ている花の華麗さと、地中に根をはる難しさを、二つの横笛が交互に奏でる様は、まさに命の輝きそのものだった。
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