第75話 ナイトの決意

 ユリアからプロポーズを受けた夜、寝泊まりしているジュリアの部屋に愛が戻ると、彼女が突然抱きついてきた。


「愛、おめでとう。

 ユリアから、プロポーズされたんだって!」

「あ、ありがとうございます。

 でも、なんでジュリアが知っているんですか?」

「もう、分からないの?

 ユリアがアンドリューに言って、アンドリューが私に教えてくれたのよ。

 私達、義理の姉妹になるのよ!」


 ジュリアは余程嬉しいみたいで、愛の手を取って踊り出した。

 愛は、ジュリアの顔を見て、どこで真珠の首飾りを見たのか思い出した。


「もしかしたら、ジュリアが持っている真珠の首飾りは、アンドリュー王子からプロポーズの時に受け取ったのではないですか?」

「ええ。そうよ。

 でも……、どうして愛が知っているの?」

「ユリアから、真珠の首飾りを受け取ったんです」

「本当に? 見せてもらえる?」

「もちろんです」


 愛は、衣装箱からユリアから受け取った真珠の首飾りをジュリアに見せた。


「本当だわ。

 アンドリュー達のお母様は、息子達の為にご用意されたみたいね」


 ジュリアの話を聞いて、愛は母さんのメッセージを思い出していた。最初聞いた時は、母さんの愛情深さに涙を流した。

 亡くなられたユリアのお母様も、母さんと同じように、愛情深く優しい人に感じた。


 ーーーー


「ニャーーーーーーーー!!」

「もう、何で分からないの!」


 出発の夜明け前、ナイトと愛は口論をしていた。


「だから、降下と上昇を自力で出来ないナイトには、今回の旅も難しいでしょう!」

「愛、どうしたの? ナイトと喧嘩して?


 寝ていたジュリアが、眠そうに聞いてきた。


「聞いてくださいジュリア。

 ナイトが最期の戦いに参加したいって言うんです。でも、降下と上昇出が自力で出来ないからダメだと言ったら、絶対に行くと言って聞かないんです」

「連れて行ってあげたらいいのに。ナイトは攻撃力が高いから、戦力になるわよ」

「ニャー」

「ジュリア!」

「愛は深く考えすぎよ。

 それに、今回は洞窟の中を行く事になるかも知れない。その時に、夜でもよく見えるナイトに頼らなければいけない状況になるかも知れないわよ」

「……それは、……そうですが」

「私から、リサお姉さんに進言するわ。

 ユリアの命を救ったのは、夜でも見えるナイトのお陰だったんでしょう?」

「分かりました。私の方からリサに言います。今回は、ナイトの目が重要な役目を担うかも知れませんから」

「ニャーー」

「分かったわ、ナイト。

 貴方の言う通りね。もうすぐ出発だから気を付けて」

「ニャーー」


 ナイトは鳴くと、直ぐに部屋から出て行った。


「ナイトはどこに行ったの愛?」

「実は、ナイトの彼女……、奥さんが妊娠をしたんです。

 だから、連れて行きたくなかったんですけれど」

「そうだったんだ。だから愛は反対をしたのね。

 ナイトは、奥さんに別れの挨拶に行ったのね」

「はい、そうなんです」

「そっか。

 でも、それだと尚更、戦いに参加したくなるわよね」

「え、どうしてですか?」

「分かるでしょう。家族を守る気持ちが。

 王都での戦いの時に、かなりの数の猫が死んだみたい。だから、今度生まれてくる子供を守りたいのよ」


 この世界に家族の居ない愛にとって、家族を守る気持ちはすぐには分からなかった。

 母さんからのメッセージ、ユリアのお母様からの真珠のネックレス、そして、ナイトの家族を守る気持ち。どれも深い愛情から来ている。

 父の生まれ育ったこの世界を守りたい、友達を守りたい愛にとって、ナイトの家族を守りたい気持ちが、同じ愛を基にしていると彼女は思った。

 今更ながら、ナイトの家族を愛する気持ちは本物だと思い、頭の下がる思いがした。


 愛は厨房に行き、ナイトもドラゴンに乗って行くので、彼が食べる干し魚をダンさんから頂いた。部隊員達のお昼のお弁当も既に出来ており、美味しい匂いがお弁当から漂っていた。そして、少し小さめのお弁当も有った。これはフィアーのお弁当で、部隊員達の前でも食べれる量に抑えてあった。


 王宮の中庭に愛が行くと、二匹の猫が居た。

 一匹はナイトで、もう一匹は愛の知らない猫だった。

 ナイトより一回り小さくて、真っ白い毛並みの上品そうな感じの猫だった。


「もしかして、貴方がナイトの奥様なんですか?」

「ニャー」

「初めまして。愛です」

「ニャ、ニャーー、ニャーーーー、ニャー、ニャーー」

「大丈夫ですよ。彼は強いですから、必ずここに戻って来ますよ。

 心配しないで下さいね」

「ニャーー、ニャーーー」

「分かりました。

 それと、赤ちゃんが生まれたら、私にも見せてくださいね」

「ニャー」

「ありがとうございます。今からとっても楽しみです」

「ニャー」

「はい。奥様もお元気で」


 その後、ナイトの奥さんはナイトに近づくと、彼の体を撫でるように顔を押し付けた。ナイトもそれに答えるかのように、優しく器用に体を動かして、最期のスキンシップをした。

 ドラゴンが上空から舞い降りてくると、お互いに見つめて、最期に顔と顔を擦り合わせた。

 ナイトはドラゴンによじ登ると、奥さんが見えなくなるまでずっと見ていた。


 愛は、ナイトの決意をヒシヒシと感じていた。

 ナイトには、生きてここに帰ってもらいたいと、彼女は心から願っていた。

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