第76話 シャスタ山、再び
シャスタ山に着くと、フィアーが迎え入れてくれた。
リサが部隊員たちに、光の攻撃魔法の事を話し、全員が清浄の光をもう一度浴びて、その魔法を習得したいと言った。誰もが悪を倒すべく強い想いで部隊に志願して来た人達で、強い魔法を欲していた。
「整列!」
部隊員達は、門の前に整列をした。
「これより、清浄の光を再び浴る。
今まで、誰も光の攻撃魔法を習得した者は居ない。習得出来るように、各自頑張ってもらいたい。
では、前列右のジャックから、順に清浄の光を浴びるように」
ジャックは、緊張した面持ちで進んで行った。
彼が清浄の光を浴び始めても、前回と同じ感覚しか分からず、通り過ぎても光の攻撃魔法のイメージさえ全く湧かなかった。
ジョウダン、ジュリア、リリアなどの、魔法の得意な面々もジャックと同じで、光の攻撃魔法のイメージが湧かず、利き腕の中にそれを再現する事が出来ずにいた。
愛の番になった。
少し緊張しながらも、ゆっくりと光の中に入って行った。
彼女は、清浄の光を両手を広げて浴びながら、前回とは違う何かを感じていた。しかし、具体的にそれが何か分からず、あっという間に時間が過ぎて行き、清浄の光から出てきた。
余りにも強すぎる清浄の光の為に、その光の本質的な何かを感じ取る事が出来なかった。
しかし、清浄の光には、その光の本質を示す根本的な何かが有るのが、彼女には分かった。
希望は少しは有ったが、今の彼女でも、光の最強魔法をイメージする事が出来ずにいた。
ジュリアが、愛に近づいてきて、元気の無い声で言った。
「その顔だと、愛もダメだったんだね。
難しいよね、あのとてつもなく強い清浄の光と同じ様な光を、魔法で再現するなんて」
「清浄の光の中で、ある一つの言葉で表される何かがある事が分かったのです。でも……、その何かが分からないんです」
「……、一つの言葉?」
「はい。
たった一つの言葉から清浄の光が成り立っているんです。
この世界が出来た時から、変わらず降り注いでいる一つの言葉。でも、余りにも強すぎるので、それが分からなくて」
「仕方ないわよ。清浄の光はこの世界を作った神の置き土産。それを私達人間が理解するのは、所詮無理なのかもしれないわ。
行きましょう、リサが読んでいるわ」
全員が清浄の光を通った事を確認すると、リサは再び号令を掛けてみんなを集めた。
「ここで昼食をとる。その後、一気にダルダード渓谷に行くことになる。
この後の食事は、戦闘用のビスコッティだけになるので、ダンの作ってくれた弁当を堪能してくれ。以上」
愛とナイトは弁当を受け取ると、いつもの仲間達の輪の中に入って行った。ユリアの横は、当然のように空いていて、彼女はそこに座った。
彼は、愛が元気がなかったので、数回肩を軽く叩いて励ましてくれた。何も彼は言わなかったけれど、いつもの彼の優しさが伝わって来て、彼女は元気を取り戻して行った。
フィアーも、自分用の弁当を小さな体で持って来て、愛とユリアの間に割り込んできた。
「いつもながら、ダンさんのお弁当は美味しいわ」
フィアーは食べながら愛に言った。
いつもの何気ないフィアーの言葉の中に、愛を気遣う感情が込められていた。
それを敏感に感じ取った彼女は、いつもの言葉を返した。
「本当だね。
特に、この芋虫のソースが掛かっているイカの丸焼きは、特別に美味しいですよね」
「そうだけれど……。
愛達のお弁当にはイカが丸々一杯。私のは……、半分しかない……」
「うふふ。少しイカを分けましょうか?
このお弁当、ジュリアやジャックさん達が、お腹いっぱいになる量なので私には多すぎて。それに、イカの料理はジェラルドさん達と、色々と料理法を研究して試食でよく食べるので。
そうだわ。この戦いが終わったら、フィアーにも試食に来てもらって、新しい料理の批評をしてもらうと助かります。お願いできますか?」
フィアーの目がキラリと光った。
「そ、そうね。愛の頼みなら断れないわよね。
私を呼んでくれれば、いつでも飛んで……、でも行くわよ」
「ありがとうございます」
フィアーは、愛からイカをもらって嬉しそうに笑っていた。
元の世界にフィアーを連れて行ったら、食べ物の種類のあまりの多さに、驚くだろうなー、と愛は思った。
いつの日か、フィアーとユリアを元の世界に招待したいな、と愛は思い始めていた。
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