第73話 草原の戦い

 翌日の昼には、大草原に愛達は身を潜めていて、フィアーから細かな情報を手に入れていた。

 地上からでも見えるぐらい、北西の空は魔物だらけで、その同じ数くらいの魔物が地上を移動していた。


「そろそろ予定の地点ね」

「分かったわ、フィアー」


 リサがそう言うと、近くに居た五人の部隊員が立ち上がった。

 既に、猛禽類の妖精達には見張りのカラスを襲うように指示をしており、魔物側はメクラ同然になっていた。


 リサの利き腕の右側には、アンドリューと、ジョウダン、そしてジュリアが居た。愛の利き腕の右側には、リリアが居て、集合魔法の準備を進めた。この魔法は、三人の魔法で王都の火災を消した方法と同じだった。

 今回は竜巻を二箇所で発生させて、互いをぶつける事で、更に殺傷力を高めようとする狙いがあった。ただ、愛の魔力が高すぎるので、バランスを取る為に二対四の配置をした。


 ーーーー


 ノルドは、突然カラスからの情報が途絶えたので、警戒を強めた。

 しかし、時すでに遅く、彼は罠とは知らずに愛達が待ち受ける場所に魔物達を進めていた。


 ーーーー


「愛、行くわよ!」

「はい!」


 リサが愛に号令を掛けると、彼女は力強く返事をして、リリアに合図を送った。


 リサと愛が同時に巨大な竜巻を発生させた。

 リサの竜巻は一箇所に固定をして、愛の竜巻をフィアーの細かな情報を元に、効率の良い場所に移動させた。

 突然の巨大竜巻に、地上を移動していた魔物達は上空に持ち上げられ、なすすべもなく地上に叩きつけられていた。ドラゴンなどは、二つの巨大竜巻の回転で、何度も味方同士ぶつかって重傷を負った。ドラゴンよりも弱い空飛ぶ魔物達は絶命していた。

 ドラゴンの殆どが翼を痛めて空を飛べなくなり、地上に落下していった。


「今だ! 総攻撃開始!」


 リサの号令とともに、部隊員達は一斉に魔物に襲いかかって行った。

 愛は、人間の気配を右前方に感じた。近くにユリアが居た。


「ユリア、右前方に人間が居る。援護をお願い」

「分かった」


 ユリアは短く返事をすると、愛の後を追った。


 前方に傷ついたドラゴンが一頭居て、翼が折れてもがき苦しんでいた。

 愛がユリアに目線で合図をすると、彼が暗器で心臓近くに真空魔法と同時に投げた。暗器は鱗を突き抜けて、内臓にまで達した。ドラゴンは更に苦しんだ。

 愛は、彼が暗器で開けた穴めがけて、サンダーを発動した。ドラゴンが絶命の最期の雄叫びを上げると動かなくなり、地面に虚しく崩れ落ちた。


 愛とユリアは更に進むと、前方に傷ついたノルドがフラつきながら立っていた。


「おのれ〜、よくも俺の魔物達を!」


 ノルドは傷つきながらも、彼の得意なファイアを、愛目掛けて放った。愛はそれをウインドウの魔法で上空にそらし、薙刀で切りかかった。ユリアも反対側から切りかかっており、ノルドの防御魔法が何回か発動したけれど、最後には使い切って深手を負った。


「クッソー、クッソー、クッソー、!!」


 ノルドは何度も言って悔しがったけれど、既に勝敗は決していた。戦場を見渡すと、戦いは殆ど終わっており、掃討戦に入っていた。もう一人の幹部エッジは死体で発見されて、部隊の初陣は成功を収めた。

 しかし、味方には負傷者も出ており、今後の課題も残された。


 昼頃になって、昼食を調達に行っていた人達が返って来た。それは、ベリー類や川エビ、川魚、そして沢山の種類の蠢くものだった。

 キャンプファイアを数カ所作って、ベリー類以外を焼き始めた。芳ばしい、いい香りが周りに漂うと、お腹を空かせた部隊員達が集まり始めた。


 お腹が空いてきた愛も、芳ばしい、いい香りに釣られてキャンプファイアに行った。

 既に食べ始めていた人達もいて、ジュリアの姿も有った。ジュリアが盛んに手招きをしていて、愛を呼んだ。


「これ、とっても美味しいわよ」


 ジュリアの横に座った愛に、ジュリアはコンガリと焼けて、芳ばしい香りのする蠢くものを手渡してくれた。

 いつもなら、ここで拒否反応が起きる愛だったけれど、今回はそれが起きなかったので、とても不思議だった。

 匂いを嗅いでみると、あまりにも美味しそうな芳ばしい、いい香りがするので、思わず一口噛んで食べた。

 自分でも驚くくらい抵抗もなく食べれて、間を入れずに、二口目が口の中に入っていった。


 “すごく美味しい”


 そう思うと、始めて彼女は一匹丸々食べ終わった。

 これを食べれたのは、この世界に馴染んできたかもしれないと思い、もう一匹こんがり焼けている蠢くものを手にとって食べ始めた。

 妖精達には悪いけれど、この世界の美味しい物を食べ尽くしたいな〜〜と、彼女は思い始めていた。

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