第21話死闘 その三 第二王子ユリア

 トニーがドラゴンに飛ばされて戻ってこなかったのでユリアは心配したけれど、後ろを向く余裕が無かった。彼はマリサに任せて、目の前のレッドドラゴンを何とかしなければと思っていると、愛が彼が居なくなった場所に来て、薙刀でレッドドラゴンと戦い始めた。

 彼女はレッドドラゴンの攻撃を受けるのではなくて、全て受け流し、火炎はウインドの魔法を使って、全て上空に吹き飛ばしていた。

 彼女は彼と違って、流れるような戦い方をしていた。レッドドラゴンの攻撃が予め分かるのか、余裕すら感じられた。

 彼女がここまで強く、予想よりも遥かに超えた実力の持ち主だと分かって、非常に驚いた。


 レッドドラゴンは新手の敵に翻弄された。

 火炎は全て上空に吹き飛ばされ、両腕の爪による攻撃も流れるようにかわし、その後直ぐに、最も弱い目に反撃をしてきた。尻尾も予め来るのが分かるのか、余裕を持って飛んだり屈んだりしていた。


 ジュリアは愛が参戦した事で、ドラゴンの動きが変わった事が分かった。明らかに彼女に翻弄されており、一つ一つの動きが遅くなっていき、遂に待ち望んだ隙が生じた。その一瞬の隙をついて彼女は絶対零度の魔法を発動した。

 ジュリアの手から十センチぐらいの銀色の球が、ドラゴンめがけて飛んでいった。ブリザードの魔法と違って絶対零度の魔法はドラゴンに当たるまで、銀色の球に触れる全ての空気中の水分が完全に凍って、ダイアモンドダストとなりキラキラと輝いていた。


 ユリアは突然冷気を感じたかと思ったら、ジュリアの方からレッドドラゴンに向かって一直線にダイアモンドダストが光り輝いていたのが見えた。

 今までの経験からして、ブリザードの魔法が当たった場所に氷が出来るのが常だった。しかし、今回は全く違って、先程のダメージの上が真っ白になっていて、急速に冷やされた感じに見えた。しかも、その場所が急速に冷やされていたので、触れた空気の中の水分が白くなって下に流れていた。そしてレッドドラゴンは、その箇所が冷たくなりすぎた為に、痛みを感じ無くなったみたいだった。

 またしてもジュリアは、彼の予想を遥かに上回る魔法を発動したのは明らかで、この魔法によってレッドドラゴンの鱗は完全に脆くなっているのは明らかだった。

 彼は、白くなった箇所に攻撃をすると、氷の様に脆く鱗が砕けていったのを確認した。レッドドラゴンは痛みを感じないのか、それに対する反応は少しもなく、自分の鱗の硬さを信じているみたいだった。

 愛もそれに気付いて、二人で同じ箇所を何度も何度も攻撃を繰り返した。凍った鱗が無くなると、今度は凍った肉片を削っていた。鱗の下の肉も凍っているのを見たユリアは、更に驚いた。

 どれだけジュリアの魔法の威力が凄いのか、もはや呆れ返るほどだった。


 そして、そして、遂にそこから大量の血が流れ出し、レッドドラゴンは急に苦しみ出した。

 今に置いてチャンスは二度と来ないとユリアは悟ると盾をすてた。両手で剣を握ると最後の戦いに命をかけた。

 腕輪に仕込まれた防御魔法は三回。それを全て使ってでも、レッドドラゴンに深手を負わす為に彼は、残る全ての力で血が出ている所を剣で深く刺した。


 レッドドラゴンは、いきなりの激痛に耐えきれなくてユリアを振りほどこうと、暴れ馬の如く動き出した。


 ユリアは、ここで振り落とされては、全ては元の木阿弥になるので、全身全霊を込めて剣を両手で握り、振り落とされない様に神経を研ぎ澄まし、より深く剣を沈めていった。


 レッドドラゴンは更なる激痛に動くのを止めて、今度は前足の鋭い爪と尻尾でユリアを攻撃してきた。しかし、愛に邪魔されて上手くいかなかった。

 レッドドラゴンは今度は火炎を使って愛に吹きかけ、同時にユリアに攻撃をした。


 ユリアはレッドドラゴンの攻撃のパターンが変わったのに気が付いたが、もはや後戻りは出来なかった。彼は、剣を握っている手を離したら、メンバー全員が全滅するのは間違いないと悟った。

 彼は自分の命を諦めて、レッドドラゴンからの攻撃は一切無視し、更に剣を深く、より深く刺していった。


 一度目、愛の防御を掻い潜ってユリアに前足の爪の攻撃が直撃した。しかし、ブレスレットに仕込まれた防御魔法によって防御出来た。


 二度目、同じく愛の防御を掻い潜って、直撃を受けたが、同じく魔法で防御出来た。


 三回目、愛は必死になってユリアへの攻撃を防いでいたが、火炎がどうしても邪魔をして、レッドドラゴンの攻撃を又しても許してしまった。

 愛は泣きたかった。自分の限界を知り、これ以上どうする事も出来なかった。もう一度レッドドラゴンからの攻撃をユリアが受けると、防御魔法は既に全部発動していたので、直撃を受けるのは間違いがなかった。


 四回目、遂に愛が最も恐れていた事態になった。

 それこそ彼女は死に物狂いで頑張ったけれども、今回も火炎でユリアへの攻撃を守る事が出来ずに、彼はレッドドラゴンの手の爪の直撃を受けて地面に叩き落とされた。そして彼は直後に、レッドドラゴンからの尻尾での直撃を受けて飛ばされた。

 愛は直ぐにでもユリアの元に行きたかった。しかし、目の前のレッドドラゴンを放って置いて行ける状況では無く、彼女がここを離れると全滅するのが分かっていたので、限界を超えた戦いを続けていた。


 マリサは直ぐにユリアの所に駆けつけた。

 レッドドラゴンの爪痕から血が流れ落ちているのを、強力な治癒魔法を発動して治した。

 爪痕は塞がって治った。しかし、ユリアは目覚めなかった。

 彼女は、彼の心臓が動いているのかを確かめると、彼の心臓が完全止まっているのが分かって、最も恐れていた事が目の前で起きて、どうする事も出来ない自分の無力さを嘆いた。

 ふと、図書館で愛と話した事を思い出した。心臓が止まった時はサンダーの魔法が有効だと彼女が言っていた。


 しかし、マリサはサンダーの魔法が使えなかった。









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