第2話 プレゼント その二
今まで石だと思っていたのに、中から出たのは横のピンクダイアモンドの四、五倍の大きさはある、同じピンクダイアモンドだった。
四人がその大きさに驚いた。
ヴィッキーは、それを丁寧に持って、鑑定を始めた。
突然彼女が興奮しながら言った。
「まさにこれは、鑑定師で言われ続けていた伝説のピンクダイアモンド。
でも、何故これを愛が持っているんだね?」
「これは母から譲り受けました。
母は、誰からこれを譲り受けたのかは言いませんでした」
「ん〜〜ん。
ちょと待っておくれよ。
伝説の勇者は黒髪だったと言う言い伝えがある。
もしかしたら愛は、この世界の人間ではないのではないかな?」
「え、それは、そのう」
「いい、いい。言わなくても。
先ほど、ジュリアが一昨日初めて愛が魔法を使ったと言った」
ジュリアは口をすぐに抑えたけれど、ヴィッキーには分かったようだった。
「この世界に在るはずのない、このピンクダイアモンドが語っている。
これはあくまでも推測した話だけど、伝説の勇者は元いた世界に戻り、愛する王子と結婚して子供を授かった。子供が成長して、心の綺麗な子にこのピンクダイアモンドを渡した。もしかして、向こうの世界に再び危機が訪れる時、その子が召喚された時に必要だからと。
おそらく、愛のお母さんとお父さんは剣術が出来る。そして、お父さんは黒髪ではなくて、ここの住人と同じ髪の色ではないかな?」
愛も、ヴィッキーの質問で確信に変わった。
「はい、おっしゃる通りです。
母は日本人で、私と同じ髪の毛の色をしており、父はここの住人と同じ髪の毛の色をしています。
母は橘流薙刀の総帥をしています。薙刀は棒術の一種で、橘流薙刀は橘家に代々伝わっており、母が二十三代目の総帥だと聞いています。
父は剣道、こちらでは剣術ですが、子供達に教えています。
父は子供の私が言うのも変なのですが、気品があり、時には威厳さえ感じていました。
そして、言いにくいのですが、ユリア王子に対して父と同じ様な気品と威厳を感じたのです」
「そうかい、やはりね。
この事は、この四人の秘密にしないといけないよ。たとえ国王でも言ってはいけない。何故なら、王宮には既に向こうの手下が紛れ込んでいる可能性が高いからね。もしこの事が向こうに伝わったら、今の愛では簡単に殺されてしまう」
これを聞いた愛は、思わず口元を右手で押さえた。
「今まで通りの生活を続けて、ジュリアに魔法を教えてもらうといい。
でも、人前では全力を出してはダメだよ。常に五分の一の力でやるんだ。でないと疑われる。
異世界からこの世界に愛が来た事は、既に筒抜けになっているはずだからね」
マリサは勇者について考えていた。疑問が出てきたけれど、答えが解らなかったのでヴィッキーに質問をした。
「ヴィッキーおばさん、質問があるのですがいいですか?」
「ああ、もちろんだよ。それで、何だい?」
「伝説の勇者は男性と聞いていたのですが?」
「ああ、それは私も今までそう思っていたよ。
でも考えてごらん、どこにも男とは書いてない。勇者としか書いていないのでは?」
マリサは勇者に関する本を、接待の為に全て読んだ。ヴィッキーの言う通り、どこにも勇者が男とは書かれていなかった。
「マリサも分かったみたいだね。これは丁度いいかもしれないね。
もしかして、愛がこちらに来た時に、失敗したと思われたのではないかな?」
「はい、その通りです。
来てすぐに、失敗したと言われました」
「ハハハ、これはこれは。
失敗どころか大成功なのにねー。
でも、これを逆手にとって向こうにそう思わせておくのが一番だね。
スキルで職業は何になっているんだね」
「料理師です」
「料理師とは、尚更好都合だね。
表向きはあくまでも料理師として振る舞い、時間がある時に魔法と薙刀とやらを修行するといい。
そうだ、マリサは確か治癒と防御魔法が得意だったような」
マリサはすぐに答えた。自分にも愛の役に立てる魔法を持っているので嬉しくなった。
「はい、そうです。
愛に、それらの魔法を教えます」
「そうかい、そうかい。
それでは、私からも何かしないといけないね」
ヴィッキーはそう言うと立ち上がって、壁に埋め込まれている引き出しを何度も出し入れし、さっきの椅子に座った。
「ふう、どこに何を入れたか覚えていたつもりだったけど、やっと目当ての物が見つかったよ。
これらを見ておくれ」
ヴィッキーがピンクダイアモンドの横に置いたのは、どれも大きな宝石だった。
中でも一際目立ったのが、ピンクダイアモンドにも引けを取らないほどの大きさのダイアモンドだった。
三人は、その大きさに再び驚いた。
「これらは私からのプレゼントだよ。
おっと、分かっているよ。これらを受け取る訳にはいかないと思っているんだろう?」
愛は軽く頷いて言った。
「はい。
特に、ジュリアが持っている倍ぐらいあるこの大きさのダイアモンドは、凄く高価な物だと分かります。
それをプレゼントとして受け取る訳には」
「それは愛の立場からすれば最もだね。
しかし考えてもご覧よ、悪の大魔導士のせいで世界秩序が乱され、多くの人が殺され、家を焼き払われ、故郷を追われている。
その中で愛が現れた。それは一つの希望で、それに賭けたいのさ。
ま、綺麗事は今言った通りだけれど、私の本心は別の所にある。
最近は宝石の入手が困難になって来て、商売がうまくいっていない。誰か奴を倒して欲しいと思っていた所に愛が現れた。
商売的に言うとこれは先行投資になるんだよ。今のままではどっちにしろ商売を畳むしかない。それよりも、これらの物を愛に渡して奴を倒してくれたら、世界秩序が再び正常に戻って商売も元どおりになる。
分かっているよ。この世界に来たばかりで奴を倒せと言われても自覚がないと思う。
それで良いんだよ。
どちらにしても、これらの宝石は私から離れる運命なんでね」
愛はヴィッキーに言われた後、色々な角度から考えてみた。
ヴィッキーの言う通り、この世界に来て間がないのに悪の大魔導師を倒せと言われても実感が全然湧いてこない。
でも、少しはこの世界の人達の役に立ちたいと思う気持ちはあった。
そして問題なのは、母が古の勇者で私がその娘である事実だ。
さっき聞いたばかりで自分でも驚いたけれど、少なくても勇者としての素質は遺伝的に受け継がれているみたいだった。それは、マリサが見せてくれたスキルの情報で分かる。
これから先、自分がどう変わって行くのか全く予想が出来なかったけれど、一つだけ言えるのは、この世界が好きになって来ている事実だけだ。
「分かりました。
喜んでプレゼントを受け取ります。
ヴィッキーおばさんが言われたように、悪の大魔導師を倒せと言われても、今の私には全く自覚も実感もありません。
この世界を好きになってきているのは事実なのですが。
将来、私がどう変わるのかは今の自分には分かりません。けれど、悪に立ち向かわなければと思う気持ちは少しですが持っています。
受け取る理由としては曖昧ですが、よろしくお願いします」
「そうかい、そうかい。受け取ってくれるかい。
ありがとう、ありがとう。
これから忙しくなるよ。クリスに言ってこれらをブレスレットにしなくてはね。これらの宝石を目立たない様に細工をしてもらわないと、大きすぎて疑われるからね。
ところで、愛の彼氏は誰なんだい?」
予想外のヴィッキーの質問に、愛は完全に思考が固まって思わず背筋が伸びた。
誰もいないのに、何故唐突に言ったのだろうかと。
「おっと。これは、これは。
まだ、自覚できてないんだね。
忘れておくれ」
愛は、ヴィッキーの更なる言葉で、それからどの様にして店を出たのか、後から全く思い出せなかった。
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