プロローグ その十 魔法騎士団

コーヒーと焼き菓子を持って、やっと魔法騎士団の宿舎に着いた。宿舎の中の食堂に入って行くと、十人ぐらいの人達が談話をしていた。

彼女達が入って行くと、誰かがそれに気づいて声を掛けて来た。


「ジュリアじゃないか。どうしたんだい?」

「みんなをギャフンと言わせてやろうと思ってさ、差し入れを持って来たよ」

「へ—,珍しい事があるもんだな。どれどれ」


そう言うと、そこにいた全員がジュリアの周りに集まって来た。


「なんかさ、いい香りがするんだけど、その飲み物かい?」

「ええそうよ。

アンは甘いのが好きだったよね」

「ああ、そうだけど」

「ちょっと待ってて」


ジュリアはアンの好みに合うように、コーヒーに黒砂糖とミルクを入れて渡してあげた。


「ハイどうぞ」

「香ばしい、いい香りがする」


そう言うとアンはコーヒーを一口飲んだ。


「これ美味しいよ。

なんだいこれは?」

「今は、内緒。

焼き菓子をこれに浸して食べて。柔らかくなって焼き菓子がもっと美味しくなるから。

次に飲みたい人は誰?」


他の人達も、ジュリアと愛にそれぞれの好みを言って、コーヒーを作ってもらった。

そこにいた全員がコーヒーが美味しいと言い、焼き菓子もそのまま食べるよりも、はるかに美味しくなっていると口々に言っていた。

誰かが他の団員も呼びに行って、食堂には四十名ぐらい集まって来た。


「ジュリア、この飲み物は一体なんだい」


最初に飲んだアンがもう一回聞いてきた。


「そうだね、そろそろ言いますかね。

これはコーヒーの豆を炒って、それを粉にして、後は紅茶の要領で入れたんだけど」

「え〜〜、本当かよ?

これが、あのコーヒー?」

「ええ、そうよ。

美味しいでしょう」


食堂に集まって来た人全員が驚いて、大騒ぎになった。


「うるさいね。

どうしたんだ?」


食堂に入って来たのは、ジュリアの姉のリサだった。


「リサもこれを飲んでごらんよ」

「何の飲み物だい?」

「それは内緒」


みんながクスクスと笑っている。


「どうも、怪しいね。

おや、ジュリアと、えーと確か愛さんだったよね。

どうしてここへ?」

「私達がこの飲みもを持って来て、みんなに飲んでもらっている所。

リサお姉さんも飲みます?」

「そうだね、丁度喉が渇いていたし」


ジュリアはリサの好みを知っていたので、黒砂糖少なめでミルク多めでコーヒーを入れてあげた。

リサは受け取ると、胡散臭そうに一口だけ飲んだ。


「これ、何だい?

やけに美味しいね。

それに、香ばしいいい香りもするし」


「リサお姉さんの大好きな、あのコーヒーよ」

「嘘だろ、あの不味いコーヒー豆がこんなに美味しくなるなんて」

「それと、この焼き菓子を浸して食べてみて」

「これ嫌いなんだよね。硬いから」


文句を言って、焼き菓子を浸して食べたらリサの表情が変わった。


「びっくりだね。

柔らかくなって、とても美味しいよ。

これ、ジュリアが考えたのかい?」

「はい、と言いたい所だけど、考えたのは愛さんなんだ」

「へー、凄いもんだね。

昨日の事件と言い、今回のことと言い、大活躍じゃないか」


愛は少し照れながら言った。


「皆さんに喜んでもらえて嬉しいです。

今回のコーヒーは試作段階なので、色々な種類のコーヒーを作って、紅茶の様に皆さんに楽しんでもらえたらと思います」

「そうかい。それだと夜警の楽しみができるね。

こいつらときたら夜警の当番の時、居眠りをするのがいてね。

かといって、不味いコーヒーの豆を沢山食べれないし、少し困っていた所なんだよ。

これで少しは改善されるよ」

「ありがとうございます。

それと焼き菓子も、コーヒーにあった専用のビスコッティを今後作って行く予定なので、出来上がったら試食をお願いします」

「このコーヒーに合った焼き菓子かい?」

「はいそうです。

ビスコッティは卵とナッツなども入れるので食事として代用できますし、二度焼きするので保存性も高まって携帯するにいいと思います」

「まじかい?

それだったら戦闘の合間にコーヒーとそれで短い時間で食事が取れる。

団長は今遠征だけど、彼の喜ぶ顔が目に浮かぶよ。

じゃ、それもよろしく頼むよ。

ほら、お前らも愛さんに挨拶しろよ」


周りで聞いていた団員達もリサに促されて、愛とジュリアにコーヒーとビスコッティを宜しくと言っていた。

その中の、若い独身団員の一人が愛に質問をした。


「愛さんは独身ですか?」


その質問に興味を持ったのか、独身の男性が全員愛の返答に注目した。


「え、あのー。独身です」

「彼氏はいるの?」


愛はその質問に、ドキっとした。


「今は、あのう、いませんけれど」

「じゃ、俺。立候補してもいいかな?」


いきなりリサが、今言った男性団員の後ろから頭を叩いた。


「痛い」

「あのなー、ジョウダン。

愛さん、困っているだろう。

彼女はユリア王子の知り合いの方だ。

それに、今、会ったばかりでいきなり過ぎるだろう?」

「いやー、でも。

綺麗な方なので、お近づきになれたらと」

「おまえには、十年早いよ!!」


リサが強くそう言うと、食堂中が笑いに包まれた。

















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