プロローグ その三 スキル
愛は、マリサが治療してくれた傷口を再度見直した。そして、本当に治っているのか手に触って確かめた。
血が少し付いてはいるものの、ここに切り口が先程まであったとはとても信じられなかった。
「これは、もしかして魔法ですか?」
「ええ、そうですが?」
マリサは、不思議そうに愛をみた。
彼女が、なんでもない魔法に、どうしてこうまで驚くのか不思議だった。
もしかして、今まで魔法を見た事がないのかもしれないなと思って、聞く事にした。
「愛は、初めて魔法を見るのですか?」
「ええ、勿論初めて。
物語の中では知っていたけれども、それはあくまでも空想の世界。
実際に、魔法を見の前で見たのはこれが初めて」
愛は、初めて見た魔法に驚いていた。
魔法の世界に来ていると思うと、不思議な気持ちになっていた。
「他に、どんな魔法があるんですか?」
「先程の魔法は初歩の治療系の魔法で、他には攻撃系の魔法、守護、支援系の魔法。強い思いが魔法となって放出されますので、その他の多くの魔法が存在します」
「この世界の人は、みんな魔法を使えるんですか?」
「簡単な魔法なら皆さん使えます。しかし、高度な魔法を使えるのは、一部のごく限られた訓練を受けた人達しかそのスキルを持っていません。」
「スキルって?」
「えーとですね」
少しマリサは考え込んでから、目の前に自分のスキルの情報を出した。
ガラスの様な透明な板が突然マリサの前に現れ、それを反転させて愛に見えるように向きを変えた。
そこにはマリサの個人情報が書き込まれていた。
スキル
名前 マリサ デオラルド
階級 王宮副執事
年齢 20
性別 女
職業 治療師
基礎 レベル 12
HP 1343
MP 121
「これがスキルです。
現在の個人のレベルがこれで一目で分かります。
スキルは、見て分かる通り個人の情報なので、愛に見ても差し支えない箇所だけを表示しています。基礎レベルは、その人の能力の総数です。HPの後の数値はその人の体力を示しています。そして、最後のMPの後の数値が、魔法が使える容量を示しています。
本来ならば、経験を積んだスキルのレベルがその後に書き込まれていますが、それは外してあります。」
愛は、再び驚いた。魔法によって、ガラスのような物が愛の目の前に浮いていたからだった。彼女が思わず触ろうとしたけれど、手が素通りしてしまい、それは実体のないものだと分かった。
書かれている文字をよく見ると、日本語でもアルファベットでもないのに、なぜか内容が理解できた。
マリサは、ユリア王子から彼女の基礎レベルを確かめてくれと言われていた。
その為の前段階として、自分のスキルを彼女に見せた。
しかし、スキルは個人情報なので、愛の中を覗き見をするのと同じになるので気が進まない。
でもこれは、この国の将来に関わる大事な事なので、意を決して話しを進めた。
「愛のスキルも出せると思うのですが、どうしますか?」
興味のあった愛は、少し考えてから答えた。
「マリサ、お願いします。」
「分かりました。では、目を閉じて気を楽にして下さい。
そして、心を開く様な感じでお願いします。」
愛は、言われた様に目を閉じ、気を楽にして心を開いた感じにした。
突然、暖かい、愛のこもった感情が流入して来たと思ったら、すぐに終わった。
「終わりました。目を開けてください。」
目を開けると、マリサの様子が先程とは違っていた。
明らかに驚いており、目がパチパチと頻繁に瞬きをしている。
そして、少し大げさなくらいな口調で話し出した。
「これは凄いです。
ここまでの基礎レベルの人は、殆どいないくらいです。」
そう言うとマリサは、スキルを反転させて、愛に見える様にしてくれた。
スキル
名前 愛 橘
階級 平民
年齢 20
性別 女
職業 料理師
基礎 レベル 21
HP 2498
MP 277
該当なし
愛は、表示されたスキルをじっと見た。
マリサが驚いていた事がすぐに分かった。
明らかに、さっき見せてくれた数値より倍ぐらい高かった。
愛は、マリサが重要な役目で自分をもてなしてくれているので、彼女の基礎レベルが平均以上だと思った。そして、その数値よりも自分の方が高いというのが分からなかった。
職業は思っていた通りの料理師になっているのは愛は納得がいった。しかし、魔法の容量が表示されているので、彼女はもしかして自分も魔法が使えるのではと思った。
彼女は最後の該当なしが分からなかったので、マリサに聞いた。
「マリサ。
この、最後の該当なし、はどういう意味か知っていますか?」
「それは私も知らないです。
けれど・・・おそらくですけれど、愛がこちらに来て間がないので、経験を積めば表示されるのでは思います。
それよりも、この基礎レベルの高さです。
このレベルは騎士団員か、魔法騎士団員と同じくらいですよ。」
愛は困惑した。
騎士団員と魔法騎士団員は明らかに戦闘集団で、このスキルを見る限り、彼女の職業は料理師だった。それなのに、どうしてそれらの人達と同じレベルなのか理解できないでいた。
マリサに聞いてみたら分かると思ったので、彼女は再び聞いてみた。
「騎士団と言ったら、屈強な人達の集団ですよね。
どうしてその人達と料理師の私と同じレベルか分からないのだけれど、マリサは何故だかわかりますか?」
「えーと、それは・・・?」
マリサも先程からそれを考えていたけれど、もしかして愛は本当に勇者かもと少し思った。けれど、料理師だったのでそれはないなと否定をした。
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