プロローグ その六 毒

愛の頭の中で、母親の言葉が聞こえてきた。


「一滴の水滴でさえ、硬い岩の形を変える事が出来るのです」


愛は、どうしてこの言葉が今、浮かんだのだろうと不思議に思った。

この焼き菓子は、刺激のある香辛料とは明らかに違う何かが入っている。しかも、危険な味がした。


ユリア王子は、愛の様子が少しおかしいと気付いた。


「愛様、何か気になる事でもありますか?

先程から真剣に考えている様ですが」

「いえ、何でもないんです」

「私はそうは思わないのですが?

些細な事でも構いませんから、遠慮なく話して下さい」


愛は、自分の間違いではと思ったけれど、正直に話す事にした。


「私の勘違いかもしれないのですがこの焼き菓子、昼間食べたのとは違う何かが微量に入っているのです」

「それに心当たりがあるのですか?」

「刺激的な香辛料かなと最初は思ったのですが、たぶん体に良くないものが」

「体に良くない物?」

「長年これを食べると、病気になる気がするのです」


最初にジュリアが反応した


「まさか?

この焼き菓子は王様とアンドリュー王子の大好物で、よく食べている。

もしかして・・・?」


ジュリアは、直ぐに魔法でこれに毒がないか確かめた。

魔法で、焼き菓子が青く光った。

青く光ると、毒が入ってない証拠なので、彼女は安堵しながら言った


「よっかった。青く光ったわ」


ユリア王子は暫く考えてから、給仕係に魔法騎士団長か魔法騎士福団長のどちらかを至急呼びに行かせた

人によってはこの場合、毒を検出できない時もある。念には念を入れて、この国でも一二を争う魔力の持ち主の二人のどちらかに確認してもら事にした。


部屋の中は突然静寂になり、副団長が来るまで誰も話さなかった


突然ドアが、いきよいよく開けられた


「ユリア王子、お呼びでしょうか?

もしかして、また妹のジュリアが何かしたのでしょうか?」


入って来たのは魔法騎士団副長のリサだった。

リサはジュリア達の姉で、この三姉妹はデオラルド伯爵家の美人三姉妹として有名だった。


「いや、今回はジュリアの事ではなく、この焼き菓子の中に体に良くない物が入っている可能性があるのだけれでも、私達では確認できなかった。

リサにそれを確認して欲しくて呼んだのだけれども、お願い出来るだろうか?」

「ユリア王子、それくらいの事でしたら問題なく出来ますので、しばらくの間お待ちください」


そう言うとリサは、焼き菓子を手に持って魔法で確かめた。

それは、先程のジュリアと同じく青く光っていた。

それを見たジュリアは安堵した。

しかし、リサはその青い光を更にジッと観察をした。

しばらく見つめていて、ある物を見つけた。


「これには毒が入っています。

普通の魔力の持ち主では多分見つからないほど微量ですが。

そして、これを長年食べ続けると病気になり、最後には死に至ると思われます」


「失礼します」


そう言うと、ジュリアが慌てて部屋から出て行った

フィアンセの第一王子のアンドリューと、国王がこの焼き菓子を食べるのを止める為に。


ユリア王子は複雑な思いで、色々と考えた。

そして、リサに細かな説明をして、これを作った者を捉えるように指示を出した。

リサはそれを聞くと、踵を返してすぐに部屋から出て行った。

ユリア王子は少し落ち込んでいた。

どうして、今までこれに気が付かなかったのだろうかと。

それにしても、愛様の料理師の能力がこれ程までとは。


「愛様、この度は本当にありがとうございました。

王と兄の病気の原因がこれだとは、誰も想いもつきませんでした。

この事について、これから忙しくなります。

失礼とは思いますが、今夜はこれで退出させていただきたく思います」

「お役に立てれて嬉しく思います。今夜は楽しいディナーでした。

どうもありがとうございました」

「こちらこそ、楽しいディナーを一緒にさせてもらって感謝をしています。

それではこれで、失礼を致します」


ユリア王子は深くお辞儀をして、足早に部屋を後にした。

愛は少し安堵のため息を漏らした。


「ふー」

「愛、お疲れ様でした。

大丈夫でございますか?」

「ええ、何とか。

まさか、あれに毒が入っていたなんて。

今でも少し足が震えているんです」

「私は強く手を握りしめて、少し痺れている感じです」

「マリサも同じね」


二人は、お互いに見て少し笑った。


「ところで。先程の人はマリサのお姉さんなの?

妹のジュリアとか言っていたような?」

「はいそうです。

自慢の姉で、魔法騎士団副団長を勤めています。

魔力だけなら、この国で一番ではと言われているんです。

でも、本当の事は上部の人達しか知らないんですが」

「凄いですね。女性でも男女関係なく魔力の能力は上がるんですね」

「はい、魔法騎士団員の半数弱の人達は女性ですから。

魔力は性別に関係なく、才能があれば上げる事が出来ます」

「そうなんだ」

「愛も、訓練すれば魔法を使えますよ」

「え、私が?」

「はい。

明日、魔法の訓練もしましょう」


愛は、自分が魔法を使えるとは、正直今の今まで確信がなかった。

マリサの言葉に呆然とした。

















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