第四章 精鋭部隊……?

第61話 再建

誰かが愛に近付いて来た。


  「愛さん、その足どうしたんですか?」


 ホーテン商会の会長の三男であるジェラルドと、奥さんのマリア、そして娘のアシュリーだった。レディングに行く旅の途中で、娘のアシュリーが魔物に襲われていたのを、愛達が助けた。その時飲んだコーヒーがとても気に入って、愛を共同オーナーとして店を出す計画を彼は進めていた。


  「それが、そのう。

 ドラゴンから飛び降りたら、骨折をしてしまって」

「え……? もしかして愛さんは、昨夜の巨大なドラゴンに乗っていたのですか?」

「はい。アンドリュー王子達と一緒でした」

「そうですか。

 みんな聞きたがっていたのですが、あの巨大なドラゴンは味方なのですか?」

「味方です。

 これからドラゴン族は、私達人間と協力して戦ってくれると言っていました。

 これ以上詳しい話は出来ないのですけれど、力強い味方を得たと思っています」

「それは何よりですね。

 朗報ついでに、私達にとっても良い話もあったんですよ

 ホーテン商会の会長の父が、えらくコーヒーを気に入りました。それで、この王都だけでなく、各地方都市や他国にも出そうという事になったのです。

 つきましては、コーヒーの焙煎の仕方や入れ方などを、詳しく教えて欲しいのです。既に、王宮近くのお店は確保してあり、焙煎する竃や、ビスコッティーを焼く石窯も出来上がっております。もし明日お時間があるのでしたら、従業員は既に数名雇っていますので、その人達に教えていただいて欲しいのです。

 この王都だけでも、先々、数店舗開店する予定です。それに伴って、新たに人を雇い入れる事が出来るので、王都の再建にも繋がると思うのです」


 ジェラルドと別れてから、そんなに日にちが経っていないのに、話がこんなに大きくなっていたのに愛は驚いていた。


「本当に、とてもいい話です。

 レディングのバルガス伯爵もコーヒーが気に入って、支店を出してくれないかと相談されたのです。レディングには出店の予定はあるのでしょうか?」

「レディングは候補の中に入っていますよ。

 食べ物に関してはうるさいバルガス伯爵が気に入ったのなら、この事業は大成功間違いないですね」


 レディングに居た時に得たお金を、愛は寄付しようとした。マリサから国の経済の事について言われたのを思い出した。マリサが経済が活発化した方が人を雇えて浮浪者の数も減るし、国も栄えると言っていた。

 愛の中で、忌み嫌われ物、飛葬、経済、食物連鎖、の点が線になっていった。

 そして、昨夜と同じく調理師魂に火が付いた。


「ジェラルドさん。

 忌み嫌われ物をご存知ですか?」

「ええ。もちろん知っていますよ。

 タコ、イカ、の二種類ですよね」

「え、イカ!? もなんですか?

 それは知りませんでした」


 タコだけかと思った愛は、更に調理師魂が燃え上がった。


「忌み嫌われ物のイカもタコも、私が生まれ育った国では、人気の食材なんです。捕獲も簡単ですし、イカを炭焼きにして、ジュウジュウと焼くだけでも美味しく頂けます。

 漁師がこれらを捕まえて、人々の口に入るまでには、多くの人達を雇う事が出来ます。

 これらが美味しいと認識されれば、国の再建の手助けになります。

 突拍子も無い事を言っていると思いますが、検討して頂けないでしょうか?」


 ジェラルドは、突然の愛の提案に戸惑った。あの、忌み嫌われ物が食べれて、美味しいとは考えもしなかった。

 彼は、コーヒーの木のタネから美味しい飲み物を考え出した、愛を信頼している。

 しかし、長年の習慣を破るには、それ相当の努力も必要だと思った。


「検討はしてみますが、父を説得するのは、かなり難しいと思うのです。父が納得しないと、私の立場だと、何も出来ないのが現状ですね」

「昨夜、魚と共にタコも降って来て、明日、タコの調理をしようと思っていたんです。

 よろしければ、ジェラルドさんのお父様にも王宮に来て頂いて、実際に食べて頂くわけにはいかないでしょうか?」

「それはいい考えですね。

 知り合いの漁師から、イカが簡単に手に入るので、それを私が持って行きますよ。

 最近、魚の網に常に掛かって、困っていると言っていましたからね。

 でも、父が一旦ダメだと言ったら絶対にダメですから、この提案は実質的に流れる事になります。気を付けて下さい」

「分かりました。

 ジェラルドさんのお父様を説得できるように、美味しい料理を作ります。ジェラルドさんの奥様とアシュリーちゃんも、どうぞお越しください」


 近くで二人の会話を聞いていたアシュリーは、目を輝かせて言った。


「私も王宮に行っていいの?

 ほんと? ほんとに? ありがとう、愛お姉ちゃん」


 アシュリーは溢れんばかりの笑みを浮かべた。


「どういたしまして」


 その後、ジェラルドと愛は細かな打ち合わせをして別れた。


 そういえば、フィアーが言っていた事を、愛は思い出していた。

 これから人間がタコを食べる事を、タコの妖精に伝えるのを言い出しにくいと。今回のジェラルドとの話で、イカも追加された。

 当然、イカの妖精も居るはずだ。フィアーに何て言おうかと、愛は思い悩み始めていた。

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