第15話家族の再会
ジュリアが三曲めを吹き終わった時、魔物と戦った方角からアシュリーの家族を探しに行っていたユリア達が帰って来た。馬に乗ったお母さんと幼い弟、それともう一頭の馬の手綱を引いているのはお父さんだった。
「お母さんとお父さんだ」
アシュリーはそう言って、お父さんの方に走って行った。
「アシュリー、無事でよかった」
お父さんはそう言って、アシュリーを優しく抱いてくれた。ふと彼はアシュリーの足に血がベットリと付いているのに気が付いた。
「アシュリー、足から血が出ている。
大丈夫なのか?」
「あのね、マリサお姉ちゃんが魔法で治してくれたんだよ」
「そうか、それは良かったな」
彼は安心をして、馬から降りてきたお母さんの方にそっと背中を押してあげた。彼女は走って、お母さんと抱かれている小さな弟に近寄った。
お母さんは娘と再開できた喜びで目からは涙が溢れており、アシュリーを抱き寄せて優しく彼女を抱いてくれた。アシュリーも再開できた喜びで、涙を流しながらお母さんの抱擁にしっかりと抱き返していた。
お父さんが愛達の近くに寄って来た。彼は疲れ果てた様子だったけれど、喜びを噛み締めながら話し始めた。
「娘を助けて頂いて、本当にありがとうございました。
魔物に襲われた時、私一人では家族全員を守りきれなくて、いつしかアシュリーが居なくなっていたのです。
慌てて辺りを探したのですが見つからなくて、途方にくれていました。その時に、ユリア王子が私達を探し出してくれて、娘さんは無事だよって言って下さったんです。
半分娘を諦めかけていた私達夫婦は、飛び跳ねるほどに喜びました。
私はホーテン商会の会長の三男、ジェラルド・ホーテンと言います。家内はマリア、息子はトムです。
次期王妃様のデオラルド伯爵家のジュリアお嬢様、デオラルド伯爵家のマリサお嬢様、そして、橘愛様。本当にありがとうございました。
デオラルド伯爵様には父が大変お世話になっております。この様な形でお嬢様方とお目にかかるとは夢にも思いませんでした」
ジェラルドは、言った後に深くお辞儀をした。
ジュリアが、今回最も活躍したナイトを紹介をした。
「こちらこそ、父がお世話になっております。
それで、今回最も活躍したのが愛の飼っている猫のナイトなんですよ。最初に異変に気付いてお嬢さんの所に行って、彼女を魔物から守っていたんです。
それと、お嬢様がお腹が空いているのを見抜いたのもナイトで、お嬢様の家族の為に海老を捕まえたのもナイトなんです」
ジェラルドは驚きの目でナイト見た。
猫が人を助けたのを聞いた事がなかった。それも、真っ先に行って娘を魔物から守っていてくれていた。
しかも、お腹を空かせた娘の為に海老を捕まえたとは。
ジェラルドはナイトにお礼を言った。
「ナイト。娘を助けてくれて、有難うございました。
このご恩は一生忘れません」
そう言うとジェラルドは、深々と頭を下げた。
「ニャーー」
「ナイトが私に答えてくれたんですか?」
「ニャ」
ナイトは鳴いたら海老の方を向いて、食べ頃だよと教えていた。
「えーと、なんと答えていいものやら」
ジェラルドが困っているので、愛がジェラルドの助け舟を出した。
「ナイトは、ジェラルドさんがお腹を空かしている様なので、ご家族の分の食べ頃の海老はいかかですかと言っています」
「愛さんは、猫語が分かるんですか?」
「よくわからない時が多いいのですが、今回は何となくそうかなと思うくらいですね。
お昼ご飯ご一緒にどうですか?
ナイトが、ジェラルドさんのご家族の分の海老を取ったんですよ」
アシュリーがお父さんに近寄って、ナイトが海老を取る様子を話し出した。
「あのね、お父さん。ナイトね。川に行ったら水しぶきを上げて、あっという間に海老を4匹川岸に投げ飛ばしたんだよ。わたし、ビックリしちゃった。
お父さんも海老食べようよ。私お腹が空いてきちゃった」
「そうか、ナイトの好意に答えなければ、バチが当たるよね」
「お母さん呼んでくるね」
そう言って、アシュリーはお母さんを呼びに行った。
ジュリアがジェラルドにコーヒーを進めた。
「コーヒーはいかがですか?
私達が作った新しい飲み物なんですよ」
「コーヒーですか?
あの、眠気覚ましにかじって食べる?」
「はい。それを炒って、紅茶の様に入れて飲むんですよ。
ジェラルドさんは甘いのがお好きですか?
それと、ミルクを入れると飲みやすいので入れましょうか?」
「甘いのは好きですが、ミルクは少しでお願いします」
ジェラルドは疑うかの様にコーヒーを入れるのを見ていた。
コーヒーからいい香りがしてくると、驚きで目が見開いてきた。
ジュリアからコーヒーを受け取ると、香りを嗅いで一口飲んだ。
「これがあのコーヒーですか?
とても信じられません。まるで奇跡を見ているかの様です。
あの不味いコーヒーの豆が、この様に美味しい飲み物になるなんて。
ああ、今日はなんて日だろうか。
諦めかけていた娘はデオラルド家のお嬢さん方と猫のナイトに助けられた。そして、このコーヒーだ。
このコーヒーの販売権を私に譲ってくれませんか?
唐突で困惑するかもしれませんね。
実は、父からアリーナの店を任されていたのですが、魔物の影響で赤字続きになってしまっていたのです。父に相談したら、そちらの店を畳んで王都に戻り、新たに何かの商売を始めたらいいのでは、と言われていたのです。
それでこのコーヒーです。これは商売になります。でも、私利私欲の様に聞こえるかもしれません。でもこれは、心を安らかにする飲み物だと思うのです。この香り、この味、精神的に疲弊した時には、必ずこのコーヒーが一服の清涼剤となるのは間違いないと思います。今の私がそうだった様に。
こんな今の世の中ですから、人々に少しでも幸せになって欲しいのが父の願いなのです」
「実は、このコーヒーは愛の発案なんです。そのコーヒーは彼女が四種類のコーヒーをブレンドしたもので、彼女で無ければ出来ない事ですね。もし商売をお考えなら料理師の愛を抜きにしては難しいと思いますよ」
愛は、突然自分の名前を言ったジュリアの顔を見た。ジュリアは愛が見ていると気付くとウインクして合図を送った。しかし、愛は何の合図か分からず益々困惑していった。
「商品の維持には愛様が欠かせないと言う訳ですね。
それでは共同オーナーと言うのは如何でしょうか?店を出す資金面の手配や人を雇うのは私がやりますから、コーヒーの品質の維持、商品開発や関連製品の開発をしていただけるだけでいいのですが」
「私達の今回の旅がまさに、関連商品の開発の為なんです。この焼き菓子をコーヒーに浸して食べて下さい」
そう言ってジュリアは、私物入れの中から焼き菓子を出してジェラルドに渡した。
彼は黙って受け取ると、真剣な表情で焼き菓子をコーヒーに浸して食べた。
「これは素晴らしい。これも愛様がお考えになったのですか?」
「はい、彼女しかこの様な事は考えつきませんからね。
実は、騎士団の夜警の為に、・・・」
ジュリアが詳しく、コーヒーが出来た経過を説明しようとした時に、アシュリーがお母さんに手を繋がれて戻ってきた。
「ジェラルドさん、食後の後にお話ししましょう。ナイトの好意を無駄にできないので」
「そうですね。今は、美味しそうな海老を食べるのが優先ですね。
そう言えば、私もお腹が空いてきました」
みんなが集まると、昼食が再開された。
アシュリーは、こんなに美味しい海老を食べた事がないと言って、とても喜んでいた。
昼食後、アシュリーがトニーの様に、ナイトが海老を捕まえる様子を、大げさにお母さんに手振りも交えて話をしていた。みんなは彼女を見て、とても幸せな気分になっていった。
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