第14話 魔物と女の子
昼ご飯を食べている途中、ナイトが頭を持ち上げて川上の方を向いた。
何だろうと愛が思っていると、突然ナイトが威嚇の姿勢をとった。
「フー!!」
「ナイト、何か居るの?」
「ニャーーー」
「ナイトが何かを見つけたみたい。でも、あまりいい感じのいい生き物で・・・」
愛が最後まで言い終わらない内に、ナイトは川上の方に走っていった。
愛も直ぐに反応して立ち上がり、馬にあった薙刀を素早く取って鞘を外し、ナイトの後を疾風の如く全速力で追っていった。
残された四人は、一瞬何が起きているのか皆目見当がつかなった。
けれど、ジュリアが愛の能力を知っていたので、何かあると思って直ぐに追い始めた。その後はユリア、トニー、最後にマリサがそれぞれの武器を馬まで取りに行って愛の後を追っていった。
「キャー、キャー」
小さな女の子の悲鳴が、愛の走る前方方向から聞こえてきた。
ナイトは草むらの中を移動して、不自然に動いている草に飛びかかりながら、声のする方に走っていっている。
周りを見ると、妙な生き物が群れをなして一方方向に移動をしていた。
移動先をよく見ると、小さな女の子が一生懸命に走って、その生き物達から逃れようとしていた。
愛は予備知識で、これがアンティだと分かった。彼女は一目散に女の子の方に走って、最初のアンティを一刀両断した。本で読んだ通りに防御力は弱く、思っていた以上に弱い魔物だと分かった。始めて魔物を切って血生臭匂いがすると、料理実習で始めて捌いた鶏の血生臭さを思い出し少し気分が悪くなった。けれど、女の子の事を思って次のアンティに襲いかかっていった。
アンティを薙刀で一刀両断しながら女の子に近づいて行くと、既にナイトが女の子の近くにいて、魔物がそれ以上近くに来ない様に、アンティに威嚇をしていた。
愛が近くに行って女の子をよく見ると、右足に怪我をしていて血が流れていた。八才ぐらいの女の子で、泣きながらこちらを見た。
「もう大丈夫よ。その猫はお姉ちゃんが飼っている猫だから、怖くないわ」
「お姉ちゃーん」
余程怖かったのか、女の子は泣きながら愛に抱きついてきた。
愛達の周りにはまだアンティが居たけれど、追いついたジュリアが手当たり次第に魔法で倒していった。その魔法は、ウインドの最強魔法でもある生き物を切り裂く魔法だった。アンティは防御力が極端に弱いので、ジュリアは魔力を最低限に抑えて、数多く切り裂く魔法を発動し、殆どのアンティは一回で血を流しながら死んでいった。
しばらくして、後から来た三人が追いついた。
愛達の周りにはアンティの死骸が沢山あり、三人は驚きながらも、周りに更にアンティが居ないかを確認した。
ユリアは、女の子が助かって安堵したのも束の間で、少しの時間でこれだけのアンティが、通常では考えられない殺され方だったので、更に驚いた。
爪でやられたアンティ達は、明らかにナイトが殺った。その殺傷能力は、かなり高いものだった。
それ以上に凄いのは、アンティを一刀両断したのは愛の薙刀だと分かった。これも並みの騎士団ではなし得ぬ技で、騎士団の大柄なジャッククラスでないと出来ない荒技だった。
更に、周りを取り囲んで死んでいるアンティ達はジュリアの魔法によるものだけれども、彼はこの様に魔法で切り裂いて魔物が殺されているのを初めて見た。その鋭利な刃物で切った様な魔法の切れ味に、彼女の底知れぬ魔法のセンスを感じた。
「マリサ、この子怪我をしているので、治療をお願い」
「はい」
マリサは短く返事をすると、駆け足で女の子に近寄って治療を開始した。
痛みが収まった女の子は泣くのをやめて、家族を探す為に辺りをキョロキョロ見始めた。
それに気づいたユリアは女の子に聞いた。
「家族を探しているのかい?」
身なりのきちんとした服装は、少なくとも孤児ではないと判断をして彼はそう言った。
「お母さんとお父さんと弟なんです。
お昼ご飯を食べに川に近づいたら、魔物が襲って来て、それで、それで」
涙声になり、それ以上何も言えずに、再び愛に抱きついてきた。
ユリアがジュリアに言った。
「僕とトニーで、この子の家族を探してくるよ。
ジュリア達は元の場所に戻って、そこで待っていてくれ」
「分かったわ」
ジュリアがそう言うと、直ぐにユリアとトニーは女の子の家族を探す為に、魔物が来たであろう方向に走って行った。
「愛、その子を抱いて歩ける?
ここだと血なまぐさいので、その子も落ち着かないわ」
「ええ、大丈夫よ」
「だ、大丈夫です。
私、ちゃんと歩けますから」
女の子はそう言うと抱くのをやめて、愛の手をしっかりと握った。
直ぐに血生臭い場所から移動すると、女の子は少し元気になったみたいだった。
歩きながらジュリアが名前を聞いた。
「名前を聞かせてくれる?
貴女の手を握っているのが、愛お姉ちゃん。私はジュリアお姉ちゃんで、怪我の治療をしたのがマリサお姉ちゃんよ」
「アシュリーです。
助けてくれて、ありがとうございました」
「どういたしまして。
アシュリー、しっかりと返事ができたね」
「あの〜。この猫ちゃんの名前は?」
「ナイトって言う名前なのよ」
「名前からしてピッタリ。
だって、私の事守ってくれたんだもの」
「ニャー」
アシュリーは、ナイトが返事をするとは思わなくて、立ち止まってナイトをジッと見た。
ナイトも止まってアシュリーの方をみると、もう一回鳴いた。
「ニャーー」
「ナイトが返事をしてくれたわ。
猫に返事をしてもらうのは初めて」
アシュリーは驚きの顔で言った。
ジュリアはどうして私には鳴いてくれないのと再び思って、右手を額に当てた。猫好きのジュリアにとって、初めて会ったナイトに、ユリアとアシュリーが鳴いたので二人に少しジェラシーを感じた。
再びナイトが鳴いて、川の方に走って行った。
「ナイト、川の方に行ったよ。
何でなの、愛お姉ちゃん」
「たぶん、アシュリーがお腹を空かしているのが分かって、海老を取りに行ったのよ」
「本当に?」
「邪魔にならないように、静かに近づいて見ようか?」
「うん」
愛達は、ナイトが行った方に、音がしないように静かに近づいて行った。
ナイトは既に大きな岩の上から川面を見ており、少しづつ移動しながら獲物を探していた。
トニーが言ったように、それは突然起きた。
ナイトの右足が上に上がったと思うと水しぶきが上がり、海老を川岸に次から次へと投げ飛ばしていった。
勝ち誇った様にナイトは川岸に戻ると、海老の所で愛達を待っていた。まだ生きている海老は時々跳ねていて、愛達が近ずくとアシュリーが海老を見て興奮しながら言った。
「ナイト凄いね。あっという間に捕まえたよ」
「ニャー」
「えーとね、一、二、三、四。四匹いる」
愛は、優しくアシュリーに言った。
「それはきっと、アシュリーの家族の分ね。
向こうでキャンプファイアをしているから、そこで海老を焼きながらお母さん達を待とうか?」
「お母さん達大丈夫かな?」
「さっき行ったお兄さん達は凄く強いから、魔物が沢山いても直ぐにお母さん達を助け出して、こちらに来るわ」
「本当に?」
「ええ、本当よ」
「よかった」
「じゃ、海老を焼きに行こうか?」
「うん」
四人はキャンプファイアの場所まで戻ると、海老を上手く焼ける様に置いた。ナイトがアシュリーの横に座って、慰める様に頭で足にすり寄っていった。
「愛お姉ちゃん、どうやって猫を撫でるの?」
「喉を撫でてあげると喜ぶわよ」
「これでいいの?」
「ニャー」
「本当だ、ナイト喜んでいるよ」
アシュリーは初めて猫を撫でて、不安な気持ちは少しは軽減された。しかし、時々来た方を見て家族が来ないかを、不安な表情で見ていた。
ジュリアが女の子の不安な表情を慰めたくて、横笛を吹き始めた。その曲は、最近流行っている“人形は踊るよ”だった。
一曲が終わると、アシュリーはジュリアの横笛に感動していた。
「どうアシュリー、気に入った?
もう一回吹こうか?」
「ジュリアお姉ちゃん、横笛すごく上手だね。
うん、お願いします」
「はい、喜んで。
今度は猫のワルツを吹くわよ」
「本当に?
私の大好きな曲なんだ。ありがとうジュリアお姉ちゃん」
ジュリアは再び横笛を吹き始じめた。
アシュリーはジュリアの横笛で不安が徐々に軽減されていって、にこやかな笑顔が徐々に戻っていった。
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