第63話 会議

 日没前に、指定された会議室に行く途中の廊下で、顔見知りの警備員の人達が立っていた。

 愛とナイトが会議室のドアの所に行くと、執事にしばらくお待ち下さいと言われた。ここにも警備の人が二人、ドアの両脇に立っていた。

 しばらくして愛達が室内に通されると、アンドリュー第一王子と、ユリア第二王子が居た。

 ユリアが椅子から立ち上がって、心配そうに話しかけて来た。


「愛とナイトが一番乗りだね。足の具合はどう?」

「マリサの治癒魔法が良かったみたいで、順調に回復しています」

「それは何よりだね。

 ところで、愛……、そのう……、明日のお昼に、ホーテン商会の会長をお招きすると聞いたんだけれど?」

「え……? あ、はい。そうです。

 よくご存知ですね」

「王宮中の噂になっているよ。

 愛が、忌み嫌われ物のタコとイカを、ホーテン商会の会長に食べさすんだって。

 それで、勝算はあるのかい?」


 ユリアが、この様な事を言ったので、愛は少し驚いた。


「もちろん有ります。

 でも、どうしてユリアが気になさるんですか?」

「父上が亡くなったので、僕と兄上に、国中の情報が集まって来ているんだよ。

 昨夜の魔物の襲撃で経済が更に疲弊していてね。少しでも経済を活発化させないと、国が成り立たなくなって来ているんだ。それに、食料の自給率も減って来ていて、こちらも何とかしたいと思っていた所だったんだ。

 忌み嫌われ物が、ホーテン商会の会長に気に入られたら、経済効果に加えて、食料の自給率が上が上向く。

 そして、それに携わる人達が増えて失業率が減るし、今まで捨てていた物を食べるから、先行投資も少なくて済む。そして税収が増えて、国の経済も上向く。

 先程から兄上と二人で、これに関しての経済効果を試算していたんだよ」


 今回の事が思わぬ方向に行っているので、愛は何度も瞬きをして、ユリアを見ていた。

 彼女の、調理師としての熱い思いが、そこまで国を変える事になるとは思っても見なかった。


 ユリアは更に加えて言った。


「それで相談なんだけれど、招待客を増やしてもいいかい?」

「問題無いですが、何人招待するのでしょうか?」

「漁師の長と、陶芸師の長。宰相と僕たち二人にジュリアの六人かな?」

「その人数でしたら問題ないです。

 でも……、会長が気に入らない場合もあると思うのですが、その時は、……、そのう……」

「その時は、今の状態が続くだけで、愛に責任は無いよ。

 今まで通り、楽しんで料理を作ってくれるだけで良いんだよ」

「分かりました」


 返事をした愛は、後ろから、覚えのある気配を感じた。

 ゆっくりと振り向くと、フィアーが空中に浮かんでいて、何かを要求する目付きになっていた。


「フィアー……? 何か言いたいのでは?」

「さすがは愛ね。

 明日のお昼なんだけれど……、余分に作れる?」

「明日の昼は、イカとタコの料理だけれど、フィアーは食べれるんですか?」

「長いこと生きているけれど、イカとタコは、そのう……、まだ食べて無いのよね。だから食べたいなー、なんて思っている訳」


 最後にフィアーと別れる前は、タコの妖精に言いづらいと悩んでいたのに、今は食べたくて仕方ないと言った表情になっていた。


 “感情よりも、お腹に聞け”


 その、変わり身の早さに、ジュリアの言葉を再び思い出していた。

 深いため息を愛がつくと、後ろからユリアが言った。


「フィアーも招待客だったのを忘れていたよ。

 体が小さいので、少ししか食べないからね、つい……」


 それを聞いたフィアーは、ユリアをジッと睨みつけた。

 しかしフィアーは、たくさん食べれる事をユリアに言えないでいた。

 愛の方を向くと、貴女は分かっているわよねと、目線で合図を送って来て確認をしていた。

 再び愛は、深いため息をついていた。


 会議の議案は、参加者全員の一致によって可決された。

 そして、この国の代表としてアンドリュー第一王子が、ドラゴン族を代表してフィアーが契約書にサインをした。

 フィアーは、体より数倍は大きな契約書の紙に、羽を広げて覆い被さりながら、アンドリューよりも一際大きな文字でサインをしていたので、愛は内心とても可愛いと思った。


 会議が終わりに近づいて、アンドリューが何か有るかと全員に訪ねた。

 愛は、精鋭部隊の創設の機が熟したと思って話す事にした。


「私から提案が有るのですが、いいでしょうか?」

「ああ、勿論だよ愛。それで?」

「精鋭部隊の創設を提案したいと思います。

 この部隊は、今回の旅で得た知識を元にした強力な魔法を使い、クゥイントンさんに作って頂いた、対ドラゴン用の武器を扱う部隊になります。部隊長は経験豊富なリサさんにして頂いたらと思っています。

 ただし、隊員達はシャスタ山の清浄の光の儀式を受けてもらいたいと思います。何故なら、内通者が紛れ込む恐れがあるので、儀式によって排除出来ます。更に、妖精達の情報を彼等も入手出来るので、戦いを有利に進める事が出来ます。

 概要は以上です」


 アンドリューが驚きながらも、 知りたい事を聞いた。


「強力な魔法は、ここにいる全員が知っているけれど、対ドラゴン用の武器とは?」


 愛は、持って来た暗器をテーブルの上に置いた。


「これがその武器です。

 レディングに行く途中で、ブラックウルフを遠くから石で当てて殺したのを覚えていますか?

 本来ならば、この武器を投げます。

 これだと、命中率、飛距離、殺傷率が格段に上がります。

 更に、魔法を併用することによって貫通力が飛躍的に高まり、ドラゴンの鱗でも問題無いと思います」


 会議室に居た全員が、驚嘆した。

 フィアーの宝石の様な小さな瞳が、キラキラと渦巻いて輝きを増していった。


 愛の提案で、精鋭部隊の創設が決まった。

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