第40話 断崖絶壁 その三
その後も小さなトラブルがあったけれど、順調に愛達は上へと登って行った。
先頭を歩いていたナイトが、みんなに聞こえるように鳴いた。
「ニャーーーー」
ジュリがすぐ後を歩いていたので、ナイトが何故鳴いたのかが直ぐに分かって、みんなにそれを興奮しながら伝えた。
「この先に、夢で見た広い場所があるわ!
そうすぐよみんな。頑張って!」
それを聞いた愛達はとても喜んんだけれど、その後、 とてつもない事が起きてしまった。
そこは既に山頂に近く、下を見ると、遥か彼方に地面があった。あんなに大きかった魔法の迷路の森の木々が、爪楊枝の様にとても小さく見えていた。
風も強くて時々突風が吹き、吹き飛ばされないように山側に這い蹲ってかろうじて凌いでいた。
再び突風が吹いて来たのでアンドリューは、山側に這い蹲って風邪をやり過ごそうと思って手を伸ばした。伸ばした先の岩が予想を裏切って、脆くなって崩れ堕ちて来た。その岩が道に激突をして、アンドリューが歩いていた道の周辺が衝撃で崩れ堕ちてしまって、そのまアンドリューも落ちて行った。
見ていたユリアがとっさに手を差し伸べて彼の手を握り、堕ちる寸前でかろうじて止める事が出来た。
しかし、ユリアが支えていた道も脆かったので、二人を支えきれずに彼の足元の岩が不気味な音を立て始めた。
「ユリア、手を離せ!
このままだと二人とも堕ちてしまう!」
「今離したら、自分を一生許す事が出来ないので、それは無理です!」
「バカヤロー!!
俺の気持ちも考えろー!!」
そう言った途端に、ユリアの足元の道も二人の体重に耐えきれなくて崩れ堕ち、彼らはなすすべも無く同時に堕ちて行った。
その時、愛が猛スピードで彼らを追いかけて来て、大声で言った。
「二人とも、私の足に捕まって!」
二人は愛が追いかけて来たのでビックリすると共に、愛が言っている意味が分からなかった。
けれど、今まで通り愛を信じて二人が愛の足を掴んだ。
愛は、断崖絶壁を登る前から考えていた事を実行しようとしていた。
それは、落ちている人が彼女の足を掴んでもらって、両手からジェット噴射のようにウインドの魔法を発動する事だった。
彼女の両足にしっかりと握った感覚を確認した彼女は、両手を斜めに下に向けて、考えていた事を実行に移した。
彼女の手からジェット噴射のように風が起こり、三人は少しずつ落ちるスピードが遅くなって行った。しかし、愛の努力も虚しく、下を見るともうすぐ地表で、激突は避けられなかった。
その時、横から何かが急速に接近をして来て、三人を地上の少し上で拾って再び舞い上がって行った。
愛は、突然の出来事に何が起きたのかを理解出来なかった。
心を落ち着けて、今乗っている物をよく観察をしたら、翼を持った生物だと分かった。
三人を乗せても、ゆうゆうと空を飛べる程大きくて、皮膚はまるで、まるで、ドラゴン?
「ドラゴンに乗っている!」
愛は非常に驚いて、二人を見た。同じく驚いているみたいで、ユリアが言った。
「俺たち、ドラゴンの背に乗って飛んでいるんだ。
しかも、今まで見たドラゴンの数倍の大きさのレッドドラゴンだ!」
アンドリューがドラゴンの進行方向を見て言った。
「このドラゴン、ジュリア達の方に向かっている。俺たちを、送る届けてくれるのか?」
驚きのあまり彼等はそれ以上言葉にならなかった。
ジュリア達は、彼らが落ちるのを一部始終見ていて、自分の事のようにハラハラドキドキしていた。
巨大なドラゴンが彼らを拾ってこちらに向かって来ていて、ジュリア達は着陸地点に急いだ。
そこはさっき言っていた場所で、ジュリアが着いた時には愛達はドラゴンから降りており、再びドラゴンは断崖絶壁から飛び立っていた。三人はドラゴンを見送るように見ていて、ジュリアが声をかけるまでジュリア達が近くに行っても気が付かないでいた。
ジュリアが三人に言った。
「あのドラゴンは何なの?」
三人が振り向くと、アンドリューが言った。
「それがよく分からないんだよ。
ジュリア達が見た夢の中の、フィアーに関係しているとは思うんだけれどね。
死ぬ思いはしたけれども、目的地について良かったよ。ここがジュリアが言っていた場所だろう?」
「ええ、ここよ。
でも、本当にあなた達が死ぬのではないかと、凄く心配したのよ」
「愛が助けに来なかったら、ドラゴンが飛んで来ても間に合わなかったよ。
ウインドの魔法を、あの様に使うとは驚いたよ。あれだったら空を飛べるよね」
「ウインドの魔法で魔物を飛ばされるので、逆に利用出来るのではと思ってやってみました。けれど、三人は重すぎて上手く行きませんでした。少し、無鉄砲でしたよね」
「それは言えているよ愛。あの状況で直ぐに断崖絶壁から自らダイビングするんだもの、誰にも真似は出来ないし、凄いと思うよ。
でも、今までやった事がないのに実行に移すなんて、助けられて言えた義理ではないんだけれどさ、もう少し自分を大切にしてよ。
ユリアもそうだよ。手を離せば、一人は確実に落ちなくて良かったのに。
あーあ、どうしてこの仲間達は自分の事よりも他人を大切にするの? 不思議だよね」
ジュリアがアンドリューに言った。
「私達は、死闘をくぐり抜けた本当の友達同士だからよ。
アンドリューだって、チックモックに襲われた男の子を助ける為に、自分を犠牲にしたわ。男の子に自分の血を与えるのは、命の危険を伴う危険な事だったのよ。知っていたでしょう?」
「え、そうなの・・・ ? 知らなかった。そうなんだ。ええ〜〜!!」
「アンドリュー、今更驚かないでよ。この世界の常識よ!
本当に貴方って変わっているわ。でも、そこが貴方の魅力の一つかもね。
愛・・・・・? どうしたの?」
「ーーそうだったんですか?
私も知りませんでした。ごめんなさい、アンドリューを危険な目に会わせて」
「ええーー! 愛も知らずにやったの?
元いた世界で、輸血をやった事が有るのかと思っていたわ」
「血をあげた事はあるのですが、輸血をやった事は一度も、そのう、ないです」
「愛! いくら魔法の世界だからって、いきなりやらないで!
今回だって、三人一度に死んでいたかもしれないのよ!」
「は、はい。今度からは気をつけます」
ジュリアに言われて愛は反省をして、これからは、いきなり新しい魔法を本番で使わない事を心に誓ったのだった。
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