第24話 ドラゴンの妖精
死闘の後、みんな順調に回復していて、愛も筋肉痛が殆ど無くなってきていた。
そして、今夜はバルガス伯爵主催の晩餐会が開かれることになった。
「愛、このディナードレスどう思う?」
バルガス伯爵の屋敷は大きとはいえ、各自に個室を与えてもらえる程は大きくはなく、部屋数が限られていた。愛が今まで寝ていた部屋は病気になった時に治療をする為の部屋だったので、元気になった愛は昨日からジュリアとマリサが泊まっている部屋に移動をしていた。
「凄く良いですね。
紫を基調とした色に、黄色の小さな花を散りばめていて」
「本当に?
あいがとう愛、貴女に言われると自信がつくわ」
「マリサも凄く良いと思いますよ。
カラフルな色の花がマリサの髪の色と合っていると思いますよ」
「本当に?
少し派手ではないかと思っていたんですが、ジュリアお姉さんが似合うよって言ってくれたので。
愛も、その黒のドレス以外に、王都に帰ったら新しいドレスを作れば良いと思いますよ」
「私、そんなにドレスを買えるほど、お金を持っていないので」
愛が言った後、姉妹が顔を見合わせて、ジュリアが済まなさそうな顔で言った。
「愛、言い忘れていたわ。
レッドドラゴンを私達が倒したので、それが高値で売れて大金が入ったのよ」
愛は、ジュリアの顔を不思議そうに見た。
「どうしてレッドドラゴンが高値で売れるんですか?」
「あ、そっか。愛は知らなかったんだよね。
ドラゴン種は色々な部分が高値で取引されているのよ。例えば心臓などの内臓は凄く高級な薬として売られているし、鱗や皮などを使っている防具は最高級品になるので、それこそ目から鱗が飛び出るほどの値段で取引されているわ。骨、爪とかも高値で売れるし、お肉もとても美味しいので、これも高級品として干し肉にして売られている。目玉などは魔物避けになって、これも高く売れるわ。あとは、そうね、火炎の元の液体は使い道が色々とあって、特に武器として重宝されている。つまり、愛が想像もつかない様な大金が私達の物になったのよ」
ジュリアは大金が入ったのを、とても喜んでいた。
しかし、愛は別の見方をしていた。
それは、レッドドラゴンは人間に操られて今回彼女達を襲って来たけれど、もし、彼女達を襲わなかったら、どこかでまだ生きていた筈だ。
ドラゴンが積極的に人間を襲うのは、決まって人間の悪者が歴史上現れて彼らを操っていたからで、普通なら人間を襲わないとジュリアが言っていた。自分の名声を得る為に、ドラゴンに戦いを挑む人間がどの時代にも常に居るので、大多数の人達はドラゴンが襲って来て反撃したと勘違いしていると、これはマリサが言っていた。
そう考えると、人間を襲わないドラゴンを、自分の欲望の為に利用している悪の大魔導士に強い怒りを覚えた。ドラゴンを売って大金が入って来ても、素直には喜べなかった。
更に、別の見方をすれば、不味い貧弱のスープを飲まなければならない人達が大勢いるのに、贅沢にドレスを買っていいのかと思って、寄付を考えた。
彼女は姉妹に、思っている事を全て言って、新しいドレスは買わないで寄付をしたいと言ったら、マリサが少し考えて別の見方を話し始めた。
「愛の言っているのは正論だと思います。贅沢をしない事はある意味、この時代では良い事の様に思えます。しかし、国の経済や文化の方から見るとマイナスになると思うんです。
何故なら、この国の人達が新しいドレスを誰も買わなくなったら、それを作っている人達の職が失われて、負の連鎖が起きてしまう事なんです。
それと、一度失われた技術は戻って来ないので、文化の面から見ても大きな損失にると思うんです。
あと、物を売り買いする時には必ず税金を徴収しています。この税金で福祉の方にもお金が出て行っているので、貧しい人達を見捨てている訳では無いのです。
つまり、入ったお金は使った方が国の経済が活性化するので、結果的に貧しい人達の数が減ります。ですから、そちらの方が良いのではと私は思うんです」
愛は成る程と思った。
マリサは執事になる為に経済の勉強もしてきて、別の見方から国のあり方を教えてくれて、彼女は凄く参考になった。
「マリサ、ありがとう。
今まで、そんな見方で人を見たことが無かった。王都に帰ったら新しいドレスを買います。
それで、どれくらいのお金が入ったのですか?」
「六等分したから、一人当り普通の家が買えるくらいのお金かな」
「家を買えるんですか?
それに、六等分ですか?」
「そうよ、ナイトの分も勿論入っているわ。ユリアが言っていたでしょう、ナイトは仲間だって。だから愛が受け取るお金は、二人分になるわね」
「ニャーーー」
「あははは、ナイトが喜んでいるわよ」
「えーー、そんなにお金が入ったんですか?
えーー、どうしよう、何を買ったらいいのか分からないーー」
愛は、今までそんな大金を持った事がなく、当然、大金の使い方も知らなかった。マリサがお金を使った方が良いと言っていたので、大金をどう使うか、彼女は一時的にパニックになっていったのだった。
バルガス伯爵の晩餐会は何事もなく無事に終わろうとしていた。
最後のデザートと一緒にコーヒーも出された。バルガス伯爵は初めてコーヒーを飲んだ。
「これは美味しい飲み物だ。えーと何と言ったかな、この飲み物を」
「父上、コーヒーですよ。
こちらの愛様が考えたのだそうです」
「そうか。
出来るのなら、もっと欲しいのだがいいだろうか?」
先を読むのが得意なマリサは、バルガス伯爵に今度王都に帰ったら愛が始めるコーヒーの店について話してくれた。
「そうか。それならば、その店から買えばいいのだな。
それとだな、愛様。出来ればここに支店を作ってくれぬか?
これだけ美味しい飲み物だと、噂を聞いて人が地方から飲みたくて集まってくる。そうすると、他の物も売れるし、雇用も増えてくる。まさに一石二鳥、いや、三鳥の効果も期待できる」
愛は、マリサが言っていた経済が活性化するのを、具体的に聞いた気がした。大金が入ったので、共同オーナーのジェラルド・ホーテンに相談して、ここにも支店を出す様に進言してみようと思った。
「バルガス伯爵様、王都に帰りましたら共同オーナーのジェラルド・ホーテン様と相談をしまして、ここにも支店を出してもらうように話し合います。もし決まりましたら、その時はよろしくお願いします」
「そうか。それは楽しみだ。
こちらこそ宜しく頼むよ」
隣にいたジュリアが、小声で愛に悪戯っぽく言った。
「愛、今度は家が十軒ぐらい買えるかもよ」
「その時は、別の町にコーヒーの店を出すので、大丈夫です」
愛も、小声でジュリアに答えた。
ジュリアは、愛がまた小さなパニックになると思って言ったけれど、彼女が冷静に答えたので、倍返しで反撃された気分になった。
ーーーー
その夜、愛は不思議な夢を見た。
それはバルガス伯爵の屋敷を出て、古い由緒ある町の通りを通ったら広大な麦畑が広がっていた。人々は笑顔で愛に手を振っていた。
更に行くと、今度は山腹にアーモンドの木が数え切れないほど植えられており、魔物が既に居なくなっていたので、女性と子供たちがアーモンドの収穫をしていて、こちらに気がつくと、同じく笑顔で手を振っていた。
更に進むと森の中に入って行った。森の中では年を取った人達が野生のキノコ類を器用に見つけては、背負っていたカゴに入れていた。愛に気がつくと、同じく笑顔で手を振ってくれた。
森を抜けると、今度は急な崖が目の前にそびえ立っており、そこには道幅の狭い山道が山頂まで続いていた。その道を行くと山側に、少し広い場所があった。山側に光に照らされた少しへこんだ場所が有って、そこを押すと岩の扉が開き、中が洞窟になっているのが見えた。
中に入ってしばらく行くと、その先には天井から光が差し込んでいる広い空間があっり、そこに愛が入って行くと、周りが次第に明るくなっていった。
洞窟の奥から宙に浮いた光輝く生物が近づいて来ていて、よく見るとそれは小さな青色のドラゴンで、翼を使ってこちらに飛んで来ているのが分かった。そしてそのドラゴンは愛の前で止まって、悲しい口調で愛に話し出した。
「私はドラゴンの妖精フィアー。ドラゴンを統べる者であり、人間の良き理解者でもあります。私達は人間とは戦いたくは無いのです。
愛、私達を助けて下さい。貴女しかこの苦難を取り除いてくれる人はいません。
ドラゴン族は今まで人間を襲わず、別の土地で幸せに暮らしていました。しかし、大魔導士と名乗る魔法使いが現れ、私達を支配下に置いたのです。私達は抵抗しましたが、彼の魔法は強力で、最後には屈服してしまいました。
このシャスタ山に来て、私と直接会って下さい。
愛、必ず、必ずシャスタ山に貴女の仲間たちと来て下さい。人類の未来にも関わる重要な事なのです」
話はそこで終わって、ドラゴンの妖精のフィアーは突然消えた。そして、今まで見てた夢も突然終わった。
愛はその後直ぐに目が覚め、さっき見た夢は余りにも現実的で、夢だとは信じられないくらいだった。
窓の外を見ると、少し明るくなって来ており、もうすぐ夜明けだと分かった。ふと姉妹を見ると同じ様に窓の外を見ていた。
三人が夜明け前に同時に起きて窓を見る事はまず無いので、もしかしたらと思って問いかけた。
「ジュリアとマリサ、それにナイト、もしかして、ドラゴンの妖精の夢を見ていましたか」
「えー、愛もそうなの」
「ニャー」
ジュリアとナイトが言った後で、マリサが口を押さえて驚いた顔になった。
ジュリアがマリサに言った。
「マリサも見たんだね」
「不思議な夢でした。
まるでそこに自分がいる様な感覚だったので。
でも、小さなドラゴンが何を言っているのか、全然判りませんでしたけれど」
「私の夢の中のドラゴンは話をしました」
「え、本当に?
聞かせてください」
マリサが言って、ジュリアも頷いた。
コンコン
ドアを誰かがノックしていた。
夜明け前なので、寝ていたら気がつかない様な小さな音で。
コンコン
また、同じようにノックしていた。
愛が言った。
「ユリアとトニーですね。
二人が同じ夢を同時に見たので、もしかしたら私達も見たかもしれないと思って聞きに来たんだと思います。私が出ます」
愛はガウンを来て、ドアを開けたら、そこにはユリアと後ろにはトニーが居た。
ユリアは愛を見たら少し視線が動いて、直ぐに後ろを向いた。
何で直ぐに後ろを向いたのか分からない彼女は、ユリアが動いた視線の先を確認したら、ジュリアがくれたネグリジェだったので、下着が少し透けて見えていた。
「キャー」
愛は小さな悲鳴を上げて、直ぐに後ろを向いた。彼女の顔が段々と赤くなって行くのが自分でも分かる程だった。
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