第68話 初日の朝
今朝は、いつもよりも早く目覚めた。
東の空が少し明るくなり始めた頃に、ほんのりと明るくなった海を愛は眺めていた。
ジュリアはベッドで寝ており、寝息をたてながら時折寝返りをうっていた。
愛は、昨日のジュリアの話を思い出してした。
「本当に驚いたわ!
清浄の光の儀式に、誰もが問題なく通る事が出来ると思っていた。
でも、魔法騎士団員のアマンダが、清浄の光の中に入ると、突然彼女が燃え出したのよ。遠くに居ても分かるほどの高温で焼かれた彼女は、跡形もなく燃え尽きた!
後に控えていた人達が、驚いたのなんのって! しばらくは、騒然としていたわ。
リサに後から聞いたんだけれど、アマンダは以前からから少し行動がおかしかったと言っていた。もしかしたらアマンダがあちら側の人間かと思って、リサはわざと清浄の光の試練を受けさせたと言っていたわ。
リサの直感が、当たったって訳ね」
愛は、今度の部隊の部隊長に、リサを推薦して正解だったと思った。
長年の魔法騎士団の経験に加えて、人を見る目は確かだと。
誰かが、ドアをノックする音が聞こえた。
気配で、マリサだと分かった愛は、返事をした。
三人分の朝食を持って、マリサが部屋に入って来た。
「ジュリアお姉さん、まだ寝ているの?」
「昨夜遅くまで、ジュリアはアンドリュー王子達と会議があったみたい。この部屋に帰って来るなり、直ぐに寝ていましたね。余程、疲れたんだと思いますよ」
「お姉さんも立場上、大変なのね。
でも、今日は大切な日! 部隊の初訓練の日! お姉さんを、無理にでも起こさないと。
ジュリアお姉さん、起・き・て!」
マリサが、ジュリアを揺さぶりながら声を掛けても、起きる気配が全く無かった。
「もう! どうしたら起きるの?」
「マリサ、いい考えがあるわ」
愛はそう言って、マリサが持って来た菓子パンを一個取り、下をファイヤで少しだけ焼いた。芳ばしい香りがしてきて、その香りをウインドの魔法で、ジュリアの顔の方にゆっくりと流した。
「ん〜〜。芳ばしくて、いい香り」
ジュリアは、そう言って目を覚ました。
マリサは、とても信じられない光景を目の当たりにした。
「マリサ……?
なんで、呆気に取られた様な顔をしているの?」
マリサは、少し顔を振って、ため息をついた。
「何でもないわ。
それよりも、今朝の朝ごはんは菓子パンにオムレツ、それと野菜炒めよ」
「芳ばしい、いい香りは菓子パンだったんだ。
お腹が空いたから早速食べるわよ」
ジュリアはベッドから起き出してきて、朝食の置いてあるテーブルの方に移動した。
「ほら二人とも、今日は大事な日なんだから、早く!」
マリサは諦めた表情で、無言でジュリアの隣に座った。
三人で、朝食を食べ始めると、ジュリアがマリサに真剣な表情で言い始めた。
「マリサ、トニーをしっかりと捕まえておかないと、彼を失う事になるから気を付けて」
「え、ジュリアお姉さん。何を言っているの?」
「トニーに恋をしている女性が居るのよ、今回の部隊に」
「え……? え〜〜〜〜。
そ、それ、本当なの?」
「間違いないわ。
その人が、トニーを見つめる眼差しは、間違いなく恋をしている目だったわ」
「い、一体誰なの、その女性は?」
「リリアよ!」
「リリア……? そんな……」
「間違いないわ。
幸い、トニーはまだ気が付いていないから、今の所は大丈夫ね。
愛は、二人の男性から、熱烈にアプローチされそうね」
突然話が愛に来たので、少し大きめの野菜が喉の詰まりそうになった。
胸を少し叩いて、やっと収まった。
「それって、本当なんですかジュリア?」
菓子パンを鼻の近くまで持って来て、芳ばしい香りを堪能しながらジュリアが言った。
「ん〜〜ん。菓子パンって、とってもいい匂いね。
そうよ愛。
ジョウダンとジャックが話しているのを聞いたわ。
どうやったら愛と親しく出来るか。どちらが先に愛の彼氏になれるかってね。
良かったわね、愛」
「そ、それは困ります。
私は他に……、何でもないです」
そう言って愛は、ジュリアから目線をそらした。
目線をそらした愛は、しまったと思っても、既に遅かった。
こうゆう事には、めっぽう鋭いジュリアは、ピ〜〜ンときた。
「愛ィ〜〜〜〜。
聞いたわよ〜〜。この耳でしっかりと。
それで、思っている人は誰なの?」
愛は、顔が段々と赤くなって行くのを止められなかった。
初日の朝なのに、何でこうなるの? 初日の朝なのに、何でこうなるの? と、何度も何度も心の中で繰り返していた。
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