第26話 疑問とフィアー



「行くにしても、疑問があるわね」


 ジュリアが真剣な口調で続けた。


「このシャスタ山に行くには、魔法の迷路の森を通らないといけない。子供が迷い込んで森の中に入っても、例の青い小さなドラゴンが現れて森の外に導いてくれると言う言い伝えがある。でも、大人は帰って来ないとされているわ」


 ユリアがジュリアの話に対して、別の見方を示した。


「それは考えてみた。

 でも、愛のお母さんがドラゴンの妖精のフィアーと会っているのなら、間違いなく魔法の迷路の森を抜けて、シャスタ山に登ったと思うんだ」

「それは、そうだけれど。でも、どうしてフィアーは直接ここに来ないのかしら?」

「それは、何故だか僕には分からない。

 誰か分かる人がいるかい?」


 マリサがそれを考えていたのか、ユリアの問いに対して自分なりの考えを言った。


「試しているんだと思うんです。私達が信用出来る人間かどうかを。

 何故なら、フィアーが味方になるという事は、まだ支配されていないドラゴン達と協力関係が出来て、私達が力を得る事が出来るからだと思うんです」

「ちょっと待って、マリサ。

 私達はこの間ドラゴンを殺したばかりで、彼らが私達を信用するかしら?」


 ジュリアがドラゴンで得たお金を喜んでいたので、彼らは信用してくれないと彼女は思った。


「だからこそ、私達の真意を試そうとしているんだと思うんです。

 愛は少なくとも信用されていると思っています。何故なら、愛だけが名指しで指名されていたし、フィアーの言葉が分かりましたから」

「信用してくれなかったら、二度と帰って来れないって事よね」

「多分そうなるでしょう。

 でも、愛のお母さんが言っていた、フィアーが悪戯っぽいを、良い方に解釈すると単に遊んでいるだけかもしれませんが」

「マリサ。それって、悪い方に解釈すると殺されるって事よ。私は嫌だわ」


 ユリアが、ジュリアの方を向いて言った。


「人は誰しも、大なり小なり悪い感情を持つ時があるのは周知の事実だけれど、今回はそのレベルでなくて、もっと大きな意味で捉えた方がいいと思う。

 例えば、ドラゴンに命令出来るとしたら何がしたいのか。世界制服か、或いは悪の大魔導士を倒すのに利用するのか」

「それは聞かれるまでもなく、悪の大魔導士を倒したいに決まっているわ」

「それこそが、フィアーが聞きたい事だと思う。ここにいる仲間が同じ思いなのは確認しないまでも、みんなが知っている。でも、フィアーは知らない」


 トニーが静かに話し出した。


「愛が信用されたのは、ナイトと友達になったからだと思うのです。猫は、邪心のある人の飼い猫にはならないとされていますから。それに、ナイトと友達である、ここにいる人達は問題ないと思うのです。こちらに邪心があれば、ナイトはそっぽを向いたままでしょうから」


「ニャー」


「アハハ、早速ナイトが、そうだと返事をくれました。

 それと、レッドドラゴンと戦ったのは、向こうが操られていたからで、こちらから戦いを望んだ訳ではないので、ジュリアが言っていた事を心配する必要はないと思います」

「だと良いんだけれど。愛はどう思う?」


 みんなが愛の言い始めるのを待った。彼女は既に結論は出ていたけれど、今回も全員の賛同が必要だと思って、慎重に話を始めた。


「今回は気になるのが四つあります。

 一つ目は、フィアーが遠く離れたここまで現実的な夢を送って来れたのは、魔法によると思うのです。ドラゴンは魔法が使えませんが、フィアーは間違いなく使えると思うのです。

 二つ目は、フィアーがドラゴンの妖精だと言う事。

 これは私にはよく分からないので、この世界の妖精の存在自体、人間にとってどうなのか誰かに教えて欲しいです。

 三つ目は、魔法の迷路の森をどう考えるかです。

 少なくとも、子供は迷子になっても、無事に森の外に出られているので、悪意のある森ではないのは明らかです。逆に言えば、悪意のある大人が入って行ったら二度と帰って来れない場所であるとう事になると思います。ですから、私達には全く問題が無いと思います。森を出るのに、かなり苦労はしそうですが。

 四つ目は、シャスタ山が魔法の溜まっている場所だと言う事ですが、ここに何か特別な物があるような気がしてならないのです。夢の中で、天井から光が差し込んでいた場所で私達が待っていた、さらに奥からフィアーが出て来ていたので、そこにあるのではと思っています」


 ジュリアが少し考えて話した。


「愛が聞きたいと言っていた妖精だけれども、人間の住んでいる所には既に出て来なくなっているわ。昔の文献では、町中でも見かけたと書かれていたけれど。私が見たのは幼い頃で、別荘のあった山の中の、山百合が沢山咲いていた近くに居たわ。小さな女の子で蝶々の様な羽を持って飛んでいた。会話をした記憶が有るのだけれど、覚えていないのよね。

 他に見た人は?」

「その時の事は少し覚えています」


 マリサがそう言って、昔の記憶を掘り起こそうとして目を閉じて話した。


「ジュリアとそこで遊んでいたら、足元に百合が咲いていたのを気が付かずに踏んでしまった後に、その妖精が現れました。そしてこの様な意味合いの事を言っていました。


“お願い、百合を踏まないで。私達もあなた達と同じ様に生きている。一生懸命今まで生きてきたのに、人は何も考えないで踏みつけてしまう。私達とあなた達とは同じ生き物なのよ”


 これがその時に言った妖精の言葉なのですが、その時は私はごめんなさいと謝って、その妖精と少し遊びました」

「あ、思い出したわ。その後、隠れんぼして楽しく遊んでいたわ」

「それは覚えていなかったです。

 印象としては、妖精は同種の生き物の現実化された魔法の生き物の様な気がします。

 その時、妖精が小さな魔法を使ったのを覚えていますから」

「僕も妖精と会ったことが二度あります」


 そう言ったのはトニーだった。


「幼い頃、川でザリガニを取っていじめていたら、男の子の妖精が現れました。マリサが言ったと同じ様な意味の事を言っていました。たしか、同じ生き物だから、いじめないでと。直ぐにいじめるのは止めて、ザリガニを川に放しました。その時は直ぐに消えたのですが、翌日そこに行くと再び現れて、一緒に遊んでくれました。やはり、魔法を使っていました。」


 皆んながユリアの方に視線を向けた。話していないのは彼だけだったからだ。


「僕は妖精に会ったことが無いんだよ。王宮で生まれて育ったし、外に出ても必ず大人が近くに居たからね。

 そう考えると、小さな子供達だけの時に現れて、同じ意味の事を言っていたんだね。マリサが言った、妖精は同種の生き物の現実化された魔法の生き物で、更に加えるなら、その種を守るために現れる。こう考えると、フィアーがこの時期に現れたのは、ある意味不思議ではないな。

 レッドドラゴンを倒した僕たちの実力と、ナイトと友達である事の二つが重なったから、フィアーが連絡をして来たと考えるのが普通だね。そして、僕たちの真意の確認の為に、シャスタ山まで来て欲しいと」

「それで分かったわ。皆んなで行きましょう。

 森で何が起こるか分からないけれど。

 あと、愛が最後に言っていたシャスタ山に何かがあるかもしれないは、私もそう思った。でも、全然想像もつかないわね」

「シャスタ山に関しては昔からの言い伝えしかなくて、中の様子を書かれた本が無いからね。別の言い伝えでは、この世界が出来る時に最初に光が現れ、光が現れた事によって影が生まれた。光はやがて形を作って山となった。その山がシャスタ山なんだよ。子供でも知っているおとぎ話の一部だけれど」

「私達が見た、天井から光が射していたのは、もしかして、その光?」


 ジュリアがユリアに聞いた。


「んー、分からない。

 シャスタ山は休火山なので、火口から太陽の光が差し込んで、いただけかもしれないからね」


 愛が、光と影について、気になる事をいった。


「父が言っていた中で、少し気になる箇所があるんです。それは、


“光あるところには必ず影があるように、善があれば必ず悪が生まれてくる”


 光がシャスタ山とすれば、影が形を作ったら何になるのでしょうか?」


 愛以外の四人が驚きの表情をして、おとぎ話の続きが示している同じ場所を同時に考えていた。

















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