第21話 私の希望
「ジーク様との婚約は今はしたくないです。領主戦ですが、私は少なくとも、家にやって来て無理矢理手籠にしようと考えるような人物には領主になってほしくありません」
フォルトが次の領主になることは無理かもしれない、それでもあの男が次の領主になるだなんて私はまっぴらごめんだ。
確かに、領主には力が求められるのかもしれない、それでも、弱者に力で迫り要望を通そうと考える人物には上には絶対に立ってほしくない。
直系にも関わらずレーナは魔力が少ない弱者だからこそ余計にそう思う。
これが、まかり通ってしまえば、次に魔力が少ない子が直系に産まれたら?
父の代だったから、私はそれでも安全に過ごせるようにアンナとミリーを傍につけてもらえた。
でも、ラスティーの子孫は魔力が少ない子をどう扱うのか……力が勝るものは弱者を脅かしていい前例など作っていいはずがない。
「私も、今回の領主戦のことに関しては、眉をひそめている。フォルトはまだ14歳だ。学園で魔力について学び始めたばかりで実戦経験がないことをわかっている相手に実戦経験がものをいう領主戦を挑むなんて考えられない」
ジークも14歳のフォルト相手に領主戦を挑んだことに対してかなり不信感があるようだ。
「ジーク様だったら……フォルトの立場だったら領主戦を受けましたか?」
「馬鹿にされても、煽られても、学園を卒業するまでは断る理由があるのだから……受けるはずもない。負けたら終わり、領主にはなれないのだから……」
ジークが年齢の割に達観しすぎているのだと思う。
私との口喧嘩の時だってそうだ、私に煽られてイライラしても、まだ子供にも関わらずジークは気持ちに折り合いをつけて、一時の感情に流されることはほとんどなく最善の手を取るべく動けるしたたかな男なのだ。
「もし、私達がフォルトを勝たせるために動いたとしたら――フォルトはどう思うと思いますか?」
「余計なことをしたと怒るか……我々が手を出したことに対して恥じるか……」
ジークとはこれまでにないほど、真剣にいろいろ話した。
――にも関わらず、結局どうしたらいいかの結論はでなかった。
ダンスにしてもそうだ。学校ではないから、最初の一曲目は婚約者と踊るというルールはないそうだけれど、私達は婚約していないので2曲は踊れない。
せめて、フォルトと事前に話すことができたらと思うけど、会いに来ることをフォルトが拒絶しているから難しいのではといわれるし。
朝はあっという間にやってきて、クリスティーも朝一でやってきた。
私の読み通り、パーティーが急に決まったというのに、ほぼ仕上がったドレスを持って。
ドレスができているということは、クリスティーは少なくとも父から、パーティーがあっても大丈夫なように準備しろと仰せつかっていたのかもしれないから父側の人間かもしれない。
とにかく、これまで2度パーティーに参加してきたけれど。とにかくパーティー前は時間がかかる。
目覚めたアンナも私にこのような招待状がきていることを告げると、慌てて帰って行った。
男性のジークの打ち合わせは少ないが、女性側の私の打ち合わせが多い。靴の微調整や髪型やアクセサリーなどとにかく決めることが多い。
そんな時だ。私の部屋にリオンが現れたのだ。
「レーナ様、お忙しいところ失礼いたします。少しお時間をよろしいでしょうか?」
そういって、夕食前にリオンが現れたのだ。
私はチラッと控えていたクリスティーを見つめた。
「残りはまた夕食後にいたしましょうか……」
クリスティーはそう言って引いてくれた。
そして、短いながらも私、リオン、ジークで打ち合わせる時間をもらえたのだ。
「お忙しいところ、すみません。明日のパーティーですが、私はいかがいたしましょう? 護衛が必要であれば、領内の者に頼むより私がついたほうが安全かと思いまして」
リオンは気がきく。
「リオンは招待されていないの?」
「私はレーナ様と盟約をしておりますが、身分はそれほど高くありませんし、ましてやアンバーの貴族ではありませんから。万一のとき、お傍にいたほうが……レーナ様に何かあったとき私を止めるための人物も沢山いて被害が少なく済むのではないか……と」
そう、リオンは今回完全に私に手を出したら爆発する核爆弾みたいなものだ。
とりあえず、今回のパーティーに私が用意できるのは。
何をするか具体的に決めてないけれど、協力する気はあるジーク。
爆弾にもなるけれど、爆発するまでは、能力値が抜群に高いリオン。
後は……髪と瞳の色を変えれるアンクレットがあるくらい。
でも、アンクレットは今回役に立たないだろう。
レーナはアンバー領の唯一の直系。貴族だらけの場でアンクレットを使用しても、私の顔でばれてしまう。
つまりは、アンクレットは持ってるだけで使い道としては微妙……
もう時間もないし、まだ決めることも沢山あるし。
今この場の話し合いも時期に切りあげないといけない。どうするどうする……
私が出した結論は……
「リオン……」
「はい、レーナ様いかがいだしましょう? 護衛として同行いたしますか? それとも、会場の近くで待機していれば? もしくは……暴れた時のことを考えアンバー領を離れればいいでしょうか?」
リオンは真剣な顔で聞いてくる。
「これを」
そういって、私はリオンの手に髪と瞳の色を変えるアンクレットをのせた。
「これは……レーナ様の護身用の」
「私の顔は今回のパーティーではばれているので、色を変えたところであまり意味がありません。リオンは魔法省に入れるほどの実力者。それを見込んでこれを託します。これをつけると、今は髪も瞳も茶色に変わるアンクレットです。パーティーに潜入し、私がまずい状況になったとき、これを使ってうまく場の空気を変えてちょうだい。頼んだわよ」
私はそういって、リオンの肩をポンっと手を乗せた。
「え?」
リオンの顔が予想していなかったことを頼まれたから、ん? っと固まった。
「あのね、リオン。実は私とジーク様と昨晩は徹夜でどうしたらいいのか話をしておりましたの。それでもちっとーーーーーーも妙案が浮かびませんでした。私は二日も徹夜したら、パーティー会場で使い物にならない可能性があります。眠らないといけないのです。というか、もう瞼が落ちてきているのです。あなたの実力を見込んで、今回のパーティーをぶっこわ……私にとってうまく終わらせるにはどうしたらいいかをリオン。あなたに任せましたよ」
思わず、ぶっこわしてと言いかけて、やわらかな言葉に訂正する。
「ちょっと、お待ちくださいレーナ様」
リオンが情けない顔でアンクレットを手のひらに乗せたまま言ったその時だ。
「夕食のお時間だそうです、レーナ様。お話はこれにて終わりにしてくださいませ。夕食後はエステとお風呂でもマッサージを受けていただきますから」
そう言ってクリスティーがリオンを強制退場させた。
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