第33話 9匹

 私を神輿のように担いだままの状態で動くことなくとどまっていた。

 邪魔になるのかいつの間にか、スライムの魔核の入った袋は私の腹の上に置かれていた。

 揺れるたびに突き破り出てくる気持ちの悪いワームはすでに6匹となっていたのだ。




 氷の魔法でパキパキっとはいかないのだろうか。

 そんなことを考えているとジークが口を開いた。

「……どうしたらいいと思う?」

 まさかのどうしよう宣言。

「こっちには気がついてないみたいだな」

 ジークが話し出したのに攻撃するそぶりを見せないワームにフォルトも話し始める。

「でも、僕たちから攻撃しかけてこっちに来たらお荷物がいるから最悪だよ……」

 シオンがはっきりと私をお荷物宣言する、まぁ現に担がれている……抱えられている? からそうなのだけれど。

「私達のことを見えてないようだし、話しても大丈夫ということは声も感知しないわね。これってなんて魔物なのかしら? 弱点とか4人いるわけだし誰か知らないの?」

 そんなことを話していると、もう1匹現れた。

 これでワームは計7匹となった。


 そして、完全にわれわれは囲まれている。

 



 水路の水はすっかり黒く濁り異臭を放っていた。

「ワーム系の魔物のようだが、妙だ奴らは音で感知するから私達の足音に反応して襲いかかってきてもおかしくないのに、話しているのに襲ってこない。知っている魔物とは違うようだ。フォルトはどうだ?」

「俺もわからない。それにしても強烈な臭いだ。この水の中には絶対に入りたくない」

「水の中に入りたくないのは僕も同感……。なんかの感染症とかもらいそう。足にけがはないけれどできれば入りたくない」

「あっ、いいことを思いつきましたわ。スライムには水の浄化作用があるのですよね。ここにこれだけ魔核があるのですから数匹出して水をきれいにしてもらったらどうでしょう。臭いはマシになるのではないでしょうか」

「……あいつ刺激することになんないそれ?」

 私の思いつきにシオンが冷静に突っ込む。

「でも、ほらこんなに話していても気がつかないですし。ところで魔核からスライムにするのってどうするんですか?」

「絶対止めておいたほうがいい気がするぞ」

 フォルトが強く止める。

「魔核に魔力を込めて、水系の魔物だから水の中に核を入れてやればスライムになると思うが、レーナ今は絶対にやらないように」

 ジークは律儀にやり方を教えてくれるが、教えたくせにやるなという念押しの矛盾である。

 こんなことを聞いたら試してみたくなる。



 そんなことを話している間にさらに2引きのワームが地面を突き破り出てきた。

 魔法省の人達は一体何をしているのだろうか……。

 できる集団なのだからさっさと討伐してしまってほしい。


「6、7,8,……9」

 フォルトが何かに気がついたようでワームを数え始める。

「僕にも9匹に見えるよ」

「私も9匹だと思うわ!」

「……9匹だ。まさかだとは思うが……魔法省がてこずっている理由がこれなら説明がつく」

 ジークとフォルトは何か解ったようだ。

「ちょっと、二人してなんなのさ? 何がわかったの」

 シオンが自分がわからないことが気に入らないようで二人にグイグイと聞く。



「普通のワームなら魔法省の面々がとっくに始末しているのだと思う。ワームの出現している場所も私達を中心にしてそんなに離れてないだろう。おそらく推測だが、この9匹は一つの身体につながっている可能性が高い」

「9つの頭……ってこんな気持ち悪いヒュドラ型の魔物とか誰得……。水蛇じゃなくてどうみてもワーム……」

 ついつい余計なことを私は口走ってしまう。

「レーナ君も何かわかっているじゃないか」

 私の突っ込みにジークが困った顔で肯定した。



「この黒い臭い液は……」

 そうヒュドラといえば毒はセットである。

「おそらく何らかの毒物の可能性がたかいと思う。揮発性のあるものだったら死んでたな」

 フォルトもまじめに答えた。

「まってまって、今私達の横を流れている水って本来飲料水ですよね? このままにしておいて万が一誰か飲むとまずいのでは?」

「こんな臭いの飲まないでしょ。こっちだって喉はからからだけど、絶対にこんなの飲もうとは思わないもん」

 私の疑問はシオンにバッサリとやられる。




「とにかく、このワームがここに突き出してるってことは真下に魔法省の職員がいるんでしょ。いつまでも僕たち此処にいて大丈夫なの?」

「確かに、学生のジークでさえでかい氷を飛ばしていましたものね。あんなかんじで天井に向かって攻撃して崩落でもしたら大変」

 私がそういったのがまるでフラグのように地面が揺れた。先ほどよりも地鳴りのように地面が振動する。

 本当に崩落するかもしれない。


 地面がゆっくりと沈んだのがわかる。

 ジークは怪我をしてるってことが頭に真っ先によぎった。

 私は知っててもシオンとフォルトはそのことを知らない。

 シオンもフォルトも崩落に巻き込まれないように私のことはフォローしてもきっとジークのことはフォローに回らない。


「シオン、ジークを」

「はぁ?」

 真っ先に私を抱えようとしていたシオンの口から何を言っているんだと言わんばかりの声が上がるが、シオンの身体は私の命令に従い私からはなれジークのもとへと移動する。


 シオンが私を抱えないことを理解したフォルトに抱き上げてもらってすぐだった。

 急激に地面が崩落し始めたのだ。

 これはヤバいと魔核の入った袋を落とさないように握りしめ、さらにフォルトにしっかりとしがみついた。

 フォルトの身体が強化され先ほどいた場所から離れ始める。フォルトの背越しにみたのは、ジークが身体強化を使えないことに気付いたシオンが慌ててジークを背負い崩落が始まった場所から離れる姿だった。


 初動が遅れたことと、自分よりも体格のいいジークを抱えることになったので、崩落に巻き込まれないことを優先した結果。

 ジークとシオンは私とフォルトと反対側へと行く形になってしまった。

 最初は5mほどの規模の崩落だったけれど、下の支柱などの関係か次々と崩落していくものだから、最終的には崩落の範囲は広く、姿は見えるけれど、向こう側まで15m……いやもっとありそう。

 途中シオンが振りかえり私のことを視線で殺すんじゃないかくらい睨みつけていたけれど。

 今は二人が向こう岸に立っているのはわかるけれど、表情まではわからない。

 とにかく水路で二人とまた合流することは難しいだろう。

 こんなことなら合流してすぐにジークの怪我を治してもらっておくべきだったと考えても後の祭りだ。




 崩落した個所からは2層の灯りがはいり、先ほどとは比べ物にならない異臭が立ち込めた。

 ぼっかりと空いたそこには、ワームもいなければ、ワームがつながってるだろう本体も魔法省の人も誰もいなかった。


 推測になるけれど、地下で何かあってワームが移動するために、1層に顔を出していたのをすべてひっこめた結果崩落したのかもしれない。


「うっ」

 あまりの臭いに思わず口元を押さえて、フォルトはいい匂いがするんだったと思いだした私は抱えてもらっているフォルトの肩口に顔をうずめた。

「大丈夫か?」

 心配そうにフォルトが私に声をかける。

「大丈夫、ただ臭いが」

「……ごめん。半日以上水路にいたから。俺は鼻が麻痺しててちょっとそのわかってなくて。今すぐに下ろしてやりたいところなんだが。何かあった時にレーナ嬢は身体強化が出来ないから、臭いが気になるかも知れないけれど我慢して……」

 小さな声で恥ずかしそうにフォルトがそう言った。

 いい匂いを補充のつもりで私はフォルトを使ったけれど、フォルトにしたら匂いを嗅がれて臭いと指摘されたと感じたようだ。


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