第32話 ワーム

 なんであんなに夢中になって応援してたんだろうという私の考察は、地面が揺れたことによって中断した。

 ふらついた私の身体をジークが支えた。

「地震?」

「わからない……」

 彼の周りの空気がピーンと張り詰めた気がする。周囲に気を配っているようだ。



 どうしたものかと思っていると声が聞こえた。

「1層に逃げられたら復旧にどれだけ時間がかかるかわからないぞ。ここで食い止めろ」

 あたりを見渡すけれど人の姿はない。

「レーナ走れ」

 突如ジークが私の手を引いて走り出す。

「何事?」

「先ほど声が聞こえたのは、風魔法に乗せて声を飛ばしたからだ。おそらくだが、私達の真下、それも近い場所で何が起こっている可能性が高い」

 ジークは身体強化を使わない。普通に歩いて会話していたけれど怪我をしていた実感がわく。




「嘘でしょ…………」

 ジークのではない聞きなれた声に私たちは足を止めた。

 私を指差しワナワナとしていたのはシオンだった。

「なんで、わざわざ地上に置いてきたのにここにいるんだよ!」

 ツカツカと歩いてきてシオンは私の胸ぐらを掴んだ。

「落ち着ついて、ほら、ね? これには事情があるのです」

「はぁ? しっかりジーク様連れてきておいてそれが通じるとでも?」

 捕まれて少し苦しい。

 流石に見かねたのかジークとフォルトが仲裁にはいる。



「そうやって二人が甘やかすから、こんな時に現場にホイホイ出てきちゃうんだよ。少しでも大事に思ってるんならこんなとこにこないようにしてよ。何かあったらどうすんのさ」

 口調こそは悪いがシオンの口からは私が巻き込まれないようにという配慮が伝わる。



 不可抗力でと弁解しようとしたときまた揺れた。

「皆怪我は?」

 揺れは収まったと同時にジークが確認してかきた。

 怪我はないかの確認していると麻痺していた鼻が再び強烈な香りを感知した。

「うっ、何この」

 臭いと続けようとした口許を3人がかりで押さえられる。




 三人の視線が同じ方向に向いていることに気がついた私は三人と同じ方向を向いた。



 水路の石の地面を突き破りそいつはいた。

 ワーム系の魔物だ。

 直径は30センチ以上はあると思う。地面を突き破り見えている範囲では120-130センチはある。

 大きく開かれた口からはグジュリと黒い汁がポタポタと垂れる。

 この臭いの原因はこいつだと一目でわかった。


 ぐにゃぐにゃと動くその姿は、家で黒い悪魔のゴキブリと出会ったときの比ではない恐怖を私に植え付けるには十分だった。

 本能的に叫びそうになるけれど、三人がかりで口を押さえられるているからなんとか踏みとどまれている。



 これまで経験してきたのと別の意味での恐怖が私の呼吸を荒くする。


 ワームはこちらを認識してないのか、突き出したまじゅるじゅると音をたてながら黒い汁を落とす。

 汁が落ちると透き通っていた水が濁る。




 目がそらせない、見たくないけど目をそらしたときにどうなるかが怖くてそらせない。

 そんなとき私の足が持ち上げられた。

 私の口はジークによって押さえられたまま。

 右側シオン、左側フォルトがそれぞれ片手を私の背に回し、膝下にそれぞれ手を入れて持ち上げ打ち合わせなしにジリジリと後ろに後退し始めた。




 気づいてない今のうちに逃げる。



 たった一つの目標のために、打ち合わせなしに行われた三人の動きは、練習の賜物かもしれない。

 私は余計なことをしないのが一番と判断してなるべく皆さんに迷惑をかけないようにと逆らわず黙っている。



 目はワームからそらせない。

 ようやく少し離れて広い通路にでたそのときだ。

「一本突き破っているぞ、こっちから対象しろ」

 二層から風魔法を使った声が聞こえた。

 するとワームが勢いよく伸びた。



 悲鳴をあげそうになる口をジークがきつく押さえる。

 ダメだとわかっても息が荒くなる。



 下で戦闘が始まったのかまた地面が揺れ、三人の足が止まった。

 早く離れてと運んでいただいてる分際で思うのもだけど、動かない理由がわかり固まった。


 丁度挟み込む形で後ろにもう一匹現れたのだ。

 どうするの? 三人の顔を見た。

 三人とも目でどうするか打ち合わせしているようだ。

 しかし動かない、いや動けないのか。

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