第12話 手際いい
フォルトは次の日、私が起きるよりも先に帰ったとジークがいっていた。
結局私はそれ以上フォルトに聞くことはしなかったけれど。
シオンを盟約を使って半ば脅して聞きとりをしないとは言っていない。
でも、シオンも私が盟約を使えることを知っているものだから一向に、聞きだせそうなチャンスは与えてくれない。
意図的に私と二人きりになるのを避けられてしまっている。
あの夜からたった3日後。シオンのかき氷屋さんはオープンした。
白い砂浜の上にグランピングのような大きなテントが張られ、その中にかき氷のお店は作られた。
テントの中はジークが空調も兼ねているようでなかなか快適である。
炎天下の砂浜の上で長時間の勤務は辛いと思っていたので、作業現場がひんやりとしているのはありがたい。
テントの周辺には、地面に棒を4本突き刺し布を縛っただけの簡易なこじんまりとした天幕がいくつかと、椅子とテーブルが用意されていた。
江戸切子のような彫り細工がされた美しいガラスの器。
5色のガラスでできた口当たりのいいスプーン。
大きな透明のガラス瓶に中が見えるように入れられた色とりどりのシロップ。
飾り切りされたフルーツ達。
めっちゃ手際よくフルーツを飾り切りしているリオン……私の下僕なのに普通に私抜きで借りだされてしまっているし。
集中するためなのか、空調も兼ねてしまっているせいか珍しく笑顔がなく、氷をバラの形にする宴会芸を無駄に会得してしまったジーク。
久しく見ていなかった天使モードのシオンがそこにはいた。
可愛らしい白地の木でできた看板には、1杯銀貨3枚というかなりのぼったくり価格。
「この価格帯では庶民層に売れないのでは?」
とジークが助言していたけれど。
「安い値段で何杯も作るとか大変じゃん、僕たちのかき氷が食べたい人からお金もらったほうが楽じゃん。その分数を出すつもりがあるなら別に僕は値段を下げてもかまいませんけど」
の一言で、ジークは口をつぐんだ。
本当に、シオンの学費がねん出できるだけ販売されるのかジークは心配しているようだったけれど、それは余計な心配だった。
私はというと、アンクレットを久々につけて、茶色の髪と瞳のエレーナに久々になっていた。
完全に見世物状態のジークがオーダーが入れば、女性の目の前で美しいバラの形のこぶし大の氷を作りだす。
そして、容器の上に移動させると、パラパラと細かくまでしてくれる。
氷が美しく細工されるまで1分にもみたないが、自分のためだけに美しい氷細工を作ってくれることを軽く考えていた。
ぼったくり価格だというのに、すぐに列ができた。
リオンの笑顔はぎこちないけど、シオンはしっかり商売人だった。
かき氷を女性に手渡した後、その手にわざわざもう一度手を添えるサービスを行っていた。
「落とさないでね、食べ終わった器は悪いけど、ここまで返却に来てね」
銀貨3枚もの価格帯にも関わらず、かき氷は飛ぶように売れた。
そのせいで、ジークは結局氷細工を500個近くつくるハメとなり。
飾り切り担当のリオンもかなりの数のめんどうな飾り切りを休憩をはさむ暇もなくつくるはめとなり。
シロップと盛りつけかかりの私もてんやわんやだった。
「お母さんあたしも食べたい……」
泣きだす子供、でもかき氷は気軽に買える値段ではない。
「シオン、ああいうのはどうするの?」
「正規の客だけでパンク寸前なのに対応できるわけないじゃん。あれは親が対応すればいいの、レーナ様対応できる余力があるならしたら?」
「私が今対応は無理ってことはみたらわかるわよね?」
3つのかき氷を現在同時進行でフルーツ盛りつけている私にその余力などない。
今にも店先で泣きだしそうな子供……どうするとリオンをみると、サッと目線をそらされる。
ジークをみると、バラの形の氷細工を出した後ため息を軽くついた後に、子供のほうに人差し指を向けた。
子供の顔の前に2cmほどのハートの形の氷が現れる。
女の子はぽーっとした顔でジークに手を振って親に引っ張られてかえっていった。
ジークに新しい小ネタが誕生した。
その後客足は途絶えることはなく、こちらのシロップとフルーツが尽きたことで、我々はようやく解放された。
いくら儲かったのか……ただ、たっぷりもうかったことだけはわかる。
そして、きっと、私がへろへろで尋問できないことも思惑どおりなのだと思う。
リオンが来ているのも、おそらく私の護衛を考えると一番適任だったから傍に連れてくるために、無理やりかき氷計画に巻き込まれたと推測される。
「もう、これだけ売れたら学費たまったんじゃなくって?」
「レーナ様、お金ってないと困るけど、あっても困ることってないんだよ。明日も朝からよろしくお願いします」
「嘘でしょ、無理無理」
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