第18話 攻防戦
「まぁ、マリア様のことをエドガー様にだけ話そうとしたことを怒っていらっしゃいます?」
前回同様マリアのことを引き合いにだして、うやむやにする作戦は一瞬で終わった。
ジークはため息をついた後取り乱すことなく話しだす。
「君はそんなことで私が怒るとは本当は露ほども思っていないよね。なのにその話題を出してきたということは、よほど公爵様に報告されてはまずいことをしているのではないかな?」
むしろ、逆にレーナの父親に話してもいいんだよ? とやんわり脅してきやがった。
「まずいことなどしておりませんよ。それに、私が個人的にエドガー様に肩入れして何が悪いのです? それとも、元婚約者に原因となった女との恋を応援しろとおっしゃるのですか?」
下手な否定はせず、ニッコリと受け止めて、残酷なことをお望みですねとジークの攻撃を打ち返す。
ジークはまたため息をつくと、片膝を折って私の手を取った。
「君に誤解をさせるようなことをしてしまい。すまなかった。婚約者としてあるまじき振る舞いだった」
何をするかと思えば、ジークは大人の対応で非を全面的に認め、あっさりと謝罪をしてきたのだ。しかし、ここで許してしまえばマリアを利用したジークを追っ払う手が使えなくなってしまう。
「たった一言の謝罪で許せるようなことではございません」
きっぱりと拒否をするとジークがとてもいい笑顔で私を見つめてきた。あっ、これ勝算があるような顔してるぞ……。
「もう、婚約は解消してしまったけれど。今度は私が 君 を 追 い か け よ う」
ジークはひざまづいた姿勢のまま、特に後半聞き間違いなどしないようにハッキリと言い切った。
前回の婚約中はレーナが追いかけてくれたけれど、今後は私が君のことを追いかけるからってものすごく甘く、小説のようなセリフなのに私には別の言葉に聞こえた。
『君の周りを私がうろうろしてもいいんだよ? 君にただ会いに来るだけで周りはどう思うだろうね?』 と。
ジークは私のことを追いかけると言っただけでそこに愛があるとは一つも言っていないのだ。
冗談じゃない、ただでさえジークが元婚約者であることが私の婚活に対して大きく足を引っ張っていると言うのに。婚約解消後もジークが諦めておらず未練たらたらな体で追い回されてみろ。
公爵家より身分の低い人物はそれだけで敵に回してはと最初から私と恋の土俵には上らない。
公爵家なんて両の手とちょっとほどしかいないそうだし、ましてや私と歳が近いとなればかなり絞られる……。
たった一言で私の今後が大きく変わるとゾッとする。
「おや? 真っ青な顔をしているよ。具合が悪いのかいレーナ」
ジークは立ち上がり、自分が原因と知っている癖に甘い声で私にそう語りかけ私の頬に触れる。
「ご……御冗談を」
一瞬で思い描いた私の未来予想図のせいで、やっと絞りだせたのはそれだけだった。
「心配位するだろう。婚約は解消したとしても、私は君のことを親しい友人くらいには思っているのだからね。君が怪しいことに首を突っ込んでいるとなれば、心配で心配で頻繁に君の様子を見に顔を出しに行ってしまうと思うよ」
この脅しは、父親に告げ口するよよりも効果があるとわかってしまったのだろう。
私は友人としてとても心配しているつもりだけれど、周りからはどんなふうに見えるのだろうねと念押しされたのだ。
思わず、令嬢にあるまじきやり込められた悔しさから奥歯をギリギリと噛みしめてしまう。
「駄目だよ。そんな顔をしては。変な癖になる」
噛みしめてる奥歯を緩めるようにと頬をさすられる、誰のせいでこうなってるかわかってるでしょもう。
どうやってごまかそうかと思っていたら、リビングの扉をノックされたのだ。
でかしたわメイド。ナイスタイミング。これで少しは考える時間ができる。
「どうぞ~」
扉を開ける許可を出す。
「レーナ様。リオン様がお話したいことがあるそうで面会の許可を頂きたいそうです」
リオンがこの時間に……。
「このような時間に彼がくるだなんてよほどのことだろう。入ってもらおう」
私よりも先にジークが入室を勧める、でも日を改めずに来るということは、よほどの事態で間違いないだろう。
婚約を解消してるため、さすがに今回はジークの一言では動かず、メイドが私の返事を待つ。
「通して。ジーク様は席をはず……」
席をはずしてくださいと言おうとしたところ、ジークの目線がメイドにいきもう一度私に戻ってくる。
メイドの前で何を言えば効果的かな? と言わんばかりである。
「ぐっ」
思わず言葉に詰まる。
「どうしたんだい?」
いつも通りの柔らかな声が私にかけられる、わかっている癖にこの野郎。
「ジーク様もそのままで結構です」
私は観念した。
入室を許可すると、リオンが何やら書類の束を持って入ってきた。
リオンの様子からしてよほどの事態のようだ。メイドがリオンのお茶の準備と私達のお茶の準備をしようとするけれど下がらせる。
「レーナ様、大変にございます」
「そのようね」
「お話をしても?」
チラっとジークに視線を送ると私にそう質問してくる。
「不本意ですが……どうぞ」
「追い出しますか?」
物騒なことをさらっとリオンがジークに対して言う。
でも、ジークは慌てることはなく、ニッコリとそうすればどうなるかわかっているよね 君は? と言わんばかりだ。
「いえ、このままで結構です。一体どうしたのです」
「先日忠告された噂について気になりまして調べてみたのですが、ここ数日魔法省の人間が普段では考えられないほど学園都市を出入りしていることがわかりました」
マジでヤバい展開じゃないの。どうしてこういつもいつも……。
思わず頭を抱えたくなる。
「ちょっと、まって今回は私は何もしていなくてよ」
先にリオンとジークに本当のことなのだからとそう告げている。
「わかっております、お嬢さま一人の捕縛でしたらこんなに人数を割く必要はありませんから……。こちらの資料をご確認ください」
リオンはテーブルに資料を並べる。
どうやら、魔法省の職員がどこに出入りしているか調べたもののようだ。
学園だけではなく、街のあちこちの店に匿名でがさ入れが行われているようだ。
うわ~完全にきな臭くなってきてる。
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