第21話 私達がやりました

 お茶がおいしくない原因がわかったし、ミリーにお水を出してもらうといつも通りのお茶が楽しめることもわかった。

 今度ごちそうして恩を売っておこう。



 学園は私達の訴えをうけ、学園内に入る際の身分証の提示を厳重かしたようだ。それによって、学園に入れず引き返すやつがいたそうだから問題なのである。

 今日は入れなかったけれど、これまで貴族の子供がいる場に関係のない人物が入ってきたということに他ならない。


 リオンのほうは、実力もあることから先生方や出入り業者のお偉いさんを交えた会議に出席したそう。

 不審者を入れる手引きをした形になった業者のお偉いさんは、自分のところの部下がそのようなことに手を貸してることを知らなかったようであったが、トップである以上知りませんでしたは通用せず手痛い処遇が下されたそうだ。


 学園の生徒が出入りする表の門には、要請を受けた騎士が配置され。筋肉質のイケメンが拝めるようになったし。

 今回の手引きで侵入を許した業者の出入り口となる裏門のほうは、一見糸目のポヤーっとした門番のようだけれど、あれは魔法省から派遣されてるとこっそり教えてもらった。

 不審な動きをすれば、生徒を守ることを目的としてる騎士と違い怪しいやつを制圧することが目的のため。レーナ様であっても捕縛される可能性があると念押しされた。



 くわばらである。

 マリアのほうはうろちょろしていた不審者が消えたことでほっとしているようだった。

 ただ、人員は寮のほうへはあまり割けなかったそう。というか、貴族の方たちは一見メイドや従者に扮してる護衛がいたりするから、必要ないと判断されたのかもしれない。



 執拗に街の小さな店まで探っているようだけれど、すでにリオンは魔法省の所属だが外の人間。しかも、やらかしての左遷状態……地位だけは降格されてないそうだが、これ以上探っても難しいかもと言われてしまう。

「小さな商店までくまなく一般人にまぎれて視察を定期的にしているようなので、噂を集めるだけではなく、何か品物が売られてないかなどの調査なのかもしれません。あくまで私の推測ですが……」

 時間を割いたのに、リオンの報告は進展がなかった。

 どうしたものかと、あてもなく学園内をうろうろする。

 怪しい人物の一人でもいれば目をつけるものの、そんな人物と都合よく会えるはずもなく、私は部屋に帰ってきたのだけれど、私の部屋には神妙な面持ちをしたメンバーがそろっていた。



 部屋の主である私が座る席だけぽっかりと開けられて。

 上座にフォルトとジークが下座にはシオンとホンの数時間前話したばかりのリオンが座っていた。

 挨拶もそこそこに私は席に着く。

「皆さんお揃いでいかがいたしまして?」



「私のほうで何か情報が得られないか探ってみたんだ」

 にっこりを笑みを浮かべていることから、ジークは探ったことで成果が得られたと……。

 それにしてもなぜこのメンツなのか。いつものメンツといえばいつものメンツだけれど、アンナとミリーは除外されている。

「レーナ嬢も来たのだからそろそろ話してくれてもいいだろ?」

 フォルトがジークに話の続きを促す。



「特定保護魔物を知っているかい?」

「レーナ様が授業をきちんと聞いていたか怪しいので、僕が補足しとくけれど、街にとって有益であるため、街として保護している特定の魔物だよね。それぞれの街で指定されてる魔物の種類が違い。不当な乱獲などを防ぐために何がこの街の特定保護魔物であるかは一部の人間にのみ周知される。って説明でいいかな?」

 シオンはさらりと特定保護魔物が何か解説してくれた。



「クラエスとして学園都市で少しやりたいことがあって知ったことなのだが。この街の特定保護魔物が何か知らされる一部になる条件はこの街で商売をすることだったんだ」

 ジークはそういう。それと私たちに何の関係があるのだろうか。

 私が知らないだけで、父は何かしらの事業を展開してるとか? 私は知らなくてもフォルトはそのことを知っている?


「なるほど、魔法省の職員が小さな商店にまで視察に入ったのはジーク様が今言われている特定保護魔物に関係がある……ということでよろしいでしょうか?」

 リオンがいち早くジークが言わんとすることとの結びつきに気が付き始める。



「私が言いたいことは何かというと。この街で指定されている特定保護魔物が何かを教えることはできないが。君たちはここ最近特定の魔物をこの街の特定の場所で駆逐したりはしていないだろうね?」

 ジークの質問に、フォルト、シオン、リオンの視線が一瞬すべて私のほうを向いた。

 スライムに関しては根絶やしにした心当たりがある。

 でも、あのスライムである。

 スライムと言えばゲームではおなじみの序盤に登場するザコの代表みたいなもんだ。

 私では倒すことは難しかったけれど……まぁ、熱石があれば狩ることができるし。たった数日で1匹残らず3人で狩れる程度の弱さだ。



「皆の反応で大体わかったよ」

 皆の視線が一瞬私のほうを向いたのをジークは見逃さなかった。


 部屋がシーンと静まる。

 ジークは席から立ち上がると、私のほうにむけて微笑みながら歩いてきた。

「3人の様子からして、特定保護魔物の成体だけでなく、水路の水の中に潜む小さな幼体すらも狩りつくし、ご丁寧に再生させることもできないように魔核をすべて回収したのは君の指示かい?」

 完全に心当たりがある……。

「ジーク様、ちょっとまずは4人で一度状況を整理するために話をしたいので、席をはずしていただけますか? 後で必ずお呼びするので……」

 私が神妙な面持ちでお願いすると、ジークにしては珍しくあっさりとその場を引いてくれて別室に移動してくれた。



「えっと、心当たりのある方は挙手してください……成体を倒した人」

 私を含めて全員の手が上がる。

「水の中の幼体もきれいに倒した心当たりがある人」

 フォルトがおずおずと手を挙げた、そう言えば水の中に入って一瞬何かしたと思えば終わったとか言ってたよ……。

「次はえっと……魔……魔核の回収に心当たりがある人」

「あらあらっと3人で拾った後、金になるのかなと思って、念入りに一つもとりこぼしがないように拾ったのは……僕」

 3人の手が挙がったけれど、とりこぼしが一つもないようにきっちりご丁寧に拾ったのはシオンだったようだ。

「なるほど……もう結構です」

「もう一つ大事な質問忘れてるよ、この中でピンポイントでスライムに狙いを定めて狩ろうと決めたのは誰?」

 シオンがニッコリほほ笑む。

 私は挙手した。



 私達がヤリマシタ……。




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