第22話 でっ?

「レーナ様、特定保護魔物って知っててスライム狩ってた?」

 笑顔でシオン話しかけてきたけれど怒っているのがわかる。

「レーナ孃、流石に理由を聞かずにはもう無理だ……。俺たちが何をやらかしたか解ってるだろ」

 あの優しいフォルトですら厳しい表情である。



 恥を言わねばいけない時が来てしまったようだ。

「始まりはアルバイト斡旋所でした……」

「……冒頭からさ、ほーーーーーんと一人にしておくと碌なことしないね」

 アルバイト斡旋と言っただけでこれである。

「シオンその辺で、話を聞くことが最優先だ」



 これダメなやつだ。騙されましたって言ったら大変なことになりそう。

「怒らずに聞いてくださいね。私は実は街でアルバイトをしておりました」

「「「は!?」」」

 三人がハモった。

「ちょっと待って、お金ならもう十分あるよね? 何やってんのさアンタ」

「怒らず聞いてくださいと最初にいったでしょう! えー、私は食堂で主に生ビールやツマミを運んでました。シフトは週三で……」

 シオンはワナワナと震え、フォルトは信じられないものを見るような目で私を見つめ、リオンは真っ青になっていた。




「週三食堂でバイトする公爵令嬢とかどこにいるんだよ」

「残念ながら此処に。これでも看板娘の座にまで上り詰めたんですからね」

「看板娘って……。そりゃそんだけ金掛けて容姿維持してりゃ町娘より頭一つはとびぬけるでしょうよ。なんでバイトなのさ。やるんだったら大人しく部屋で刺繍の一つでもしてなよ! なんで飲食店で生運ぼうと思ったのさ」

 シオンの突っ込みは今日もキレッキレである。

「私も流石に今回の行動は軽率だと思います」

 リオンもシオンの意見に賛同した。

「14歳で酒を出すような場で働いていたのか……」

 フォルトは愕然としていた。それくらい私が街で生ビールを運んでいたことは本来あり得ないことなんだろう。



「ちょっともう、ジーク様呼んでくる。あの冷やかな目で存分に見つめてもらえばいいと思うよ。よかったね、レーナ様のお好きな顔面偏差値の高い方にたっぷりと見つめられて」

「ちょっと……ジーク様はやめておきましょう? シオンもザクザク言葉で私の心のHPを削ってきますが、それが二人になったら私死んでしまうかも……」

「大丈夫、心をそれくらいで病むような人は公爵令嬢って身分にも関わらず街で生運んでないよ」





 先ほどのアルバイトの下りをジークの前でも話すこととなった。はい、冷やかです。笑顔でいらっしゃるのに、吹雪の中にいるかのよう。

 座席も私が下座で皆が上座で尋問される形になった。


「へぇ~。それは愉快な活動だね」

 そんなこと微塵も思っていないだろう。

「社会勉強になりまして……よ。ホホホ」

 私も内容だけ聞くと普通だが実に冷やかな言葉に対してごまかして笑う。

「それで?」

 顔は笑顔なのだ、それはもう優雅なのだ。公爵家の嫡男として生まれてからずっと絶対的な地位にいた彼の尋問は突き刺さる。



「お酒が入りますと皆さま口が軽くなりまして……。その中でアルバイト斡旋所でカモにされた話を聞いたのです」

 本当は私が騙されてから、周りの話しを聞いて定期的にカモられる人がいることを知ったのだけれど。

私がこの話を客から聞いたのは事実。私が騙されたことはしれっとなかったことにした。

「一応、仕事の斡旋業者は国とまでは行かなくても、街の管轄だ。その話が本当であれば大問題だ」

 フォルトはそう答える。



「アルバイト斡旋所に水路の清掃というバイトが募集されているのです。これが、他のバイトよりホンの少し報酬がいいのです。でも、実際の水路を清掃するだけでは報告しても水路は綺麗になってないと言われ報酬は支払われません。あちらもスライムのことはハッキリと言ってきませんが、そこでようやく斡旋所で以来された水路の清掃の真の意味を知るのです。意味さえ知って冷静に依頼書をみれば、その依頼書だけ紙の色が変わるほど古くから張り出されているものでずいぶんと長い間知らずに引き受けたカモからお金を巻き上げたのだと思われます」

 私がそう話すと皆頭を抱え出した。


「水路には数えきれないほどのスライムがおりまして……。アルバイト斡旋所で仕事を受けるような者が狩りきれる数ではありません。依頼が達成されないとなると平民にとってはかなりの額を達成できなかったペナルティーとして斡旋所に納めないといけないのです」

 水路を普通に掃除しただけでは、綺麗になってないと報酬は払われない。スライムを倒せとは一言も言われないけれど。普通に清掃しただけでは駄目ということはそういうことなのだ。



 平民がそのペナルティーを払うとすれば、バイト漬けになって、小銭がないか地面をみて歩く癖ができるくらいの事態となる。

「ちょっと、待って……だから一人で水路でスライム狩ってたの? 緑の魔法じゃ狩れないから、あのバカでかい熱石を振りまわして」

「一人で水路でスライムを狩る……レーナが? シオンどういうことだい?」

 シオンの発言により、一人で水路にこもりスライム狩りしていたことがばれた。



 次々と秘密にしていたことがばれていく。婚約解消しておいてよかった、きっと婚約者のままだったら自分にも影響がでたかもと大きな雷を落とされてしまったかもしれない。


「とにかく……そんなわけで。スライムがいなくなればアルバイト斡旋業者も水路の清掃が終わってないなどと言えなくなるし。第二、第三の騙される方もいなくなるしと思って……。軽い気持ちで3人にお願いしたらその、今の事態に」

 三人もジークから目をサッとそらす、理由をあえて聞かず行動に移してしまった負い目があるのだ。




「はぁーーーー」

 ジークは今まで見たことがないくらい長い溜息を一つ吐いた。

 怒っているだろうか? とチラリと様子をうかがう。

「スライムは水の浄化のために放たれていたんだ……。繁殖も水路の規模に合わせてスライム自身が調整して増えるからとても便利な魔物なんだ。ただ、たまにスライムを討伐する輩もいる。でもスライムの数が膨大だからほんの少し狩られた程度では、自然繁殖で補える。……まさか1匹残らず狩りつくされて、ご丁寧に再生できないように魔核をすべて回収し、店に1つたりとも売りに出されていない。そんな大事にはさすがに関与してないと思ったのだが……」

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