第23話 ウラミハラサデ

「それで、レーナ……君はこの後どうするつもりだい?」

 ジークはそういって私を見つめた。

 当然、他の三人も私を見つめ出方をうかがっている。


 そんなこと言われても、私はスライムいなくなってこれで第二、第三の被害者がでなくなってよかったわとは思ったけれど。

 学園都市の水の質が低下することになったり、犯人捜しで魔法省が出てきたりする事態になるだなんて依頼を受けた時もスライムを倒してた時もスライムを倒してからも1度も考えたことなどなかった。

 とういうか、次々と一つのことが原因でこんな風になるだなんて誰が想像して行動を起こしたりするものかだ。



「水質の悪化はとても心配です。もちろん私も違和感を感じておりましたが。ジーク様に引き続きアンナとミリーも味が変わったと水の異変を感じ取りました。このままほっておいて飲料水に適さないレベルに達してしまうことは避けねばなりません」

 さり気に、私は飲んでもわからなかった……という事実をなかったことにして、私も気がついたよとしておく。

 

 飲料水に適さなくなる事態は避けねばいけない。



「魔核はこちらにすべてあるので、水質の改善をするだけなら簡単なことでしょう。魔法省にこれを持ち込めばいいのですから。でも、それでは駄目だと思うのです」

「さっさと魔核を持って行って、知らないとはいえごめんなさいして終わっちゃおうよ……」

 シオンがそういう。

「いえ、それではきっとうやむやになってしまいます。アルバイト斡旋所はこのままにはしておけません。ここまで来たらもっと大事にして街の治安もよくしましょう」

 私は思い返していた。

 いつの間にか、銀貨の1枚でも落ちていればと地面をみるようになってしまった自分のことを。

 バイト一つでは到底たりず、かけ持ちするはめになったことを。

 内職を引き受けて、部屋に帰ってからもせっせと小銭を稼ぐはめになったことを。

 お金のことで悩んであまり眠れなくなった夜のことを。



 騙されたと気がついた私に職員が向けた顔を……。

 ものすごく私の中に恨みの感情が渦巻いていた。

 でも、エレーナでは制裁などできない。公爵令嬢のレーナは身分が高いけれど、高いからこそ今回のことで表舞台には出れない。

 だからこそ、魔法省に正規のルートでとっちめてもらう必要があるのだから。



 私は魔核をこのまま保有し続けて様子見するだけ、後のことは魔法省に任せ水路の掃除という名のスライムを討伐しないとお金がもらえない依頼をアルバイト斡旋所が出していたところまでたどり着いてもらう!

 もちろん、水質悪化が顕著になればすぐにでも魔核を引き渡す。


 お茶がおいしくないことに真っ先に気がついたジークは怪訝な顔をしていたけれど。

 ようは、私が出張らず魔核を保有して、どうしようスライムの討伐が俺たちのせいだったらと悩むアルバイト斡旋所職員を悪役令嬢らしくニヤニヤと見守るだけということで皆も了承してくれた。






 次の日私は早速アルバイト斡旋所の様子を探らせるためにリオンを動かした。

 リオンの報告は私に爽やかな笑顔をもたらすはずである。



 ニヤニヤとザマーミロと放課後を機嫌よく過ごしていると私はエドガーに呼び止められた。

 マリアのことで話しておきたいことがあると言われ、エドガーからも恋愛相談! ついに両思い? と思ったけれどエドガーの話は甘い話ではなかった。




 場所をすっかり気に入ったカフェの二階へとうつす。

「レーナ様、なぜマリアの周りに不審者が出ていたのかわかりましたよ」

「そっちだったか……」

 話ってそっちのほうのお話でしたか……、甘い方ではなかった。

「えっ?」

「何でもありません、ホホホ」

 つい口から出てしまった言葉をごまかす。




「では、話を続けます。マリアの周りに不審者が出ていた理由は、今から一月ほど前に突然街に現れた同じ年頃だと思われるエレーナという女のせいでした」

 私は飲んでいたお茶が変なところに入り盛大にむせた。

 あまりにも派手にむせたせいで、エドガーは席を立つと私の横にきて背を撫でてくれるほどひどくむせた。

「どっ…ゴホッ、どういうこと?」

 聞き捨てならない名前の登場にはやく話の続きを聞きたいのに、咳が止まらない。

 エレーナという名前はそれほど珍名ではないはずだ。

 私のことではないと思う。

「おそらく、エレーナというのは偽名だったのでしょう」

 ひゅっと変に息を吸い込んでしまったせいでまたむせた。



 エドガーは私の背を撫でながら話を続けた。

「アルバイト斡旋所という冒険者ギルドとはまた違うところなのですが、えー働きたいものに街での仕事を紹介したりするところなのです。たとえば人手不足の飲食店の店員として働いてほしいとか、この日は忙しいから代わりに届け物をしてほしいとか、子供の子守など様々な街の困りごとなんかを仕事として紹介する場所と言えばいいでしょうか……」

 公爵令嬢の私はそんなところ知らないだろうと、エドガーがそもそもアルバイト斡旋所とは何かを説明してくれた。

 えぇ、そこから仕事をいくつか紹介してもらったので知っておりますとも。


 咳きこんでいるため私が何度かうなづくとエドガーは話を続けた。

「冒険者ギルドでは登録する際に結構しっかり登録する人物の素性が正しいか調べるのですが、アルバイト斡旋所は仕事内容は街での困りごとが主な仕事のためどうも自己申告で案外身分を偽って簡単に仕事を引き受けられたようなのです」

 危なかった……冒険者ギルドだったらすぐに偽名とバレてヤバいことになっていたかもしれない。


「なるほど……続けて」

 ようやく咳きは落ち着いた。

「冒険者ギルドの管轄は国。アルバイト斡旋所の管轄は街となるのですが……どうもアルバイト斡旋所のほうでは新しく登録した人を狙った小遣い稼ぎが行われていたようです。簡単にいいますと、不正をしてお金を巻き上げようとしていたのです」

 エドガーは私が公爵令嬢で知らないだろうと説明が補足される。

「な……なるほど。不正をして新しく登録した人からお金を巻き上げるだなんて許せませんわ」

 ものすごく身に覚えのあることをエドガーが話す。



「新しく登録した人といっても、中には覆面調査員がいる場合があるらしく。他の仕事を引き受けてある程度まじめにやっているか、簡単な討伐などの依頼を受けないか。はめた時に違約金として金の回収見込みのありそうな人物かを見定め狙いを定めていたようですね」

 私のこめかみが怒りでピキピキっとなっているのがわかる。

 確かに、私は掃除の依頼を受ける前に居酒屋のバイトを紹介してもらいまじめに働いていた。

 討伐は私にはできそうにないとバイトを始める前にあらかじめスタッフに相談した。

 見境なく騙すのではなく、しっかりと選んでこいつならいけると私を騙したのだ。

 握りしめた私の拳は苛立ちで震えるほどだった。



「レーナ様どうかいたしましたか?」

「いえ、咳きこんでしまいごめんなさいね。続けてくださる?」

 優雅な笑顔を浮かべてエドガーに続きを話すように促した。



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