第33話 魔剣は誰のもの?
「レーナ様は魔剣は死蔵しているので、今後も人の目がある場所で魔剣を振るうことはない。魔剣の主は魔剣で傷をつけることができないという特性がありますが。そもそも、魔剣もちと出会うことですらまれ。切りつけられるだなんてこと普通は経験いたしません」
まぁ、魔剣に切りつけられるってことは絶対にろくな場面じゃないから私もまっぴらごめんだけれど、いったいリオンは何を言いたいの?
不思議そうな顔でついリオンを見つめてしまう。
「それでも、公爵様は魔力持ちが入ることをきつく規制されている魔法学園に私をレーナ様の見張り役として傍に置くくらいなんです。魔剣を大勢の人の前で振るうということは、魔剣持ちだと公表するも同じ。意味がご理解できますか?」
リオンは真剣な顔で私を見つめた。
「ようは、魔剣なんか持ってたら、領主戦に負けた後も絶対にフォルト様は次の領主に絶対に縛り付けられる……僕が教会に脅されて従っていたようにねってこと。あんな思いフォルト様にはしてほしくない。今なら負けて領主の資格を失って終わり。領主にはなれないけれど、フォルト様は自由」
シオンはそういって、私の元に歩いてくる。
「アンナ様とミリー様のことは残念だって僕も思う。ただ、今までが運が良すぎたんだよ……レーナ様。」
シオンの言葉がもっともで、私は押し黙った。確かに、フォルトが負けた後のことまでしっかりと考えていなかった。
すでに取り返しのつかないことになってしまった、アンナとミリー。私のわがままはさらにフォルトの今後まで危険にさらすことになる可能性がある……
押し黙った私に、リオンがさらに言葉をかける。
「そして、魔剣はレーナ様にとっても間違いなく切り札です。魔剣を所有していると公言している私は、レーナ様に害をなそうとするとき必ず邪魔となるでしょう。私が故意にレーナ様から遠ざけられるとき、血の盟約を結んでいないフォルト様は、危険を冒してでも魔剣を使いレーナ様を守るのでしょうか?」
魔剣の力は圧巻だった。リオンは貴族としての身分がおそらく低い。
そして魔法省に所属しているからこそ、私の父のような人物が圧力を掛ければ、うまく私から遠ざけられてしまうかもしれない。
その時を何とかするために、魔剣は残しておくべきという意見に私は反論の余地がない。
フォルトは、今回のことはともかく、それまでは今自分が動くべきではないなどうまく判断して退くべき時は退く。
魔剣を譲ったのだから、代わりにレーナ様を守れだなんてこと、できる場面とできない場面があるだろうし。
だからこそ、私を守るために譲るべきではないと二人が言うのか……
「まぁ、僕たち二人はレーナ様の従僕だから、最終的な決定権はないよ。ただ、僕たち二人はフォルト様に渡すことは反対ってだけ。アンナ様とミリー様が学園から退場する可能性のある今、フォルト様は退場させらんない」
まじめな顔で二人が私を見つめた。
「……わかったわ」
私は二人にそういうと。
リオンがホッとした顔になった。
フォルトには勝ってもらいたい。でも、もし負けたときその後もっとひどい目に合うとしたら、これは譲るべきではないのかもと思ったのだ。
「名案が浮かんだって顔してたから、それらしい名案だしとかないと。フォルト様怪しむからそれをどうするかだよね」
「なるほど……シオンの言う通りだわ。でも、大丈夫。魔剣ほどではないけれど。名案はあるのよ」
私はそういって、ネックレスを首から外した。
「ぼられたネックレス外してどうすんの?」
「だから、ぼられてません。全くもう、みんなして……。これは、先ほどジーク様にもお話したのですが、特殊な効果が付いたアイテムなのです。私は他に能力値を底上げする装飾品をいくつか所有しております」
「これ……が?」
リオンが、信じられないという顔で私が持っているラッキーネックレス様をしげしげと眺めた。
あっ、これリオンも口に出してないだけで。私がぼられたと信じてたわね。まったく、何て従僕たちなの。
「装飾品の効果の真偽については、ジーク様のお抱えの鑑定しに任せれば明らかになるそうです。もし、付与された効果がるなら、私、アンナ、ミリーの3人でかなりの数の付与された装飾品を持っているのが使えるかもしれません」
「なるほどね~。まぁ、見た目は相当じゃらじゃらするし、女物だとかいろいろな弊害はあるかもしれないけれど。能力値の底上げが本当にされるとするならば、試してみる価値はあるかもね」
シオンは信じてなさそうではあるけれど、名案として切り出す話にしては合格と判断したようだ。
「では、シオン、レーナ様。魔剣のことはフォルト様にはお話ししない。レーナ様が思いつかれた名案は付与がついた装飾品の貸し出しということでよろしいですね?」
「えぇ」
「僕も異議なし。それじゃ、あまり待たせるのもだから、さっさと出ますか」
こうして、私たちは魔剣のことをフォルトに切り出さないことにした。
ごめんごめん~というシオンの明るい声が部屋に響いた。
ジークは魔剣のことを知っているが、自分から話すのは筋違いだと思っているようで、何も言わなかった。
フォルトはというと、私が得意げにみせたラッキーネックレスをみて、それにそんな効果があるんだなと答えた。
「他にもあるのを取ってきますので、実際に着けてみたら効果を実感できるのではないかしら?」
「レーナ様にしたら、たまにはいいこと思いつくよね~」
とシオンも何事もなかったかのように私の話に乗ってきた。
「はい、では取ってきますわ」
私は立ち上がって、二階のフィッティングルームへと向かう。
「あっ、宝石箱をここへ持ってくるつもりなら、俺に貸してくれるのだろうし俺が持とう」
そう言って、フォルトがやってきた。
「あら、そう?」
私はそれに何の疑問も持たずに、フォルトと共に2階へと上がった。
「結構この箱重いのよ」
私は装飾品が入れられた宝石箱をフォルトに指さす。
「……レーナ嬢。先に一つ装飾品を見せてくれないか?」
「えぇ、構いませんわ」
赤の他人なら宝石箱を目の前にしてそういわれると警戒したかもしれないけれど。フォルトはいいところの坊ちゃん。
私は何の疑問も持たずに、箱を開けると一番上にある確か、魔力量を増やしてくれるとかいうネックレスを掴むと、フォルトに差し出した。
「これは、確か魔力量を少し増やす効果が付いているもののはず」
「レーナ嬢……これは、俺の覚悟だ。そして……すまない」
私から目をそらして、フォルトは寂しそうな顔をして何かに謝罪した。
そして、ネックレスを差し出す私の手首をフォルトが掴んだ。
予想外の動きに驚いて、びくっとして手を引こうとするも、強い力で握られていてそれはかなわない。
華奢なデザインのネックレスがシャランと音を立てて床に落ちた。
フォルトに手首を握られたことはもうどうでもいい。
問題は、手首をつかんでいないほうのフォルトの手が抜身の剣を握っていることだ。
叫ぶ暇もなく、指先に燃えるような熱さと痛みを感じた。
剣があてがわれた場所に、ぷっくりと盛り上がった赤い血に、フォルト片膝を折り唇を寄せた。
2階で起った異変にいち早く気が付いたのだろう、この部屋に向かって走る足音が聞こえた。
衣装室の扉がすぐに開かれたけれど、もう遅かった。
「――あなたを裏切ることあれば、この血が私を蝕みましょう」
こうなるだなんて、誰が予測しただろうか。
生涯でそう何度も聞くことなど叶わない誓いの言葉。
私は3度目のその言葉を聞いたのだ。
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