第17話 カロリー

 私との結婚……

 フォルトは私との結婚は望まず自分の力で勝ち取りたいということをこの前言っていた。

 そんなことを思いだしていると扉がノックされた。



 いつもであれば、ジークの従者であるカミルが対応するのに、今日はそれをジークが制止してドアを開けた。

 扉の前にいたのはメイドだった。

 ジークは扉の外にわざわざでて、ドアを閉めた。


「何かあったのかしら」

 いつもと違うジークの対応に不安になってシオンとリオンのほうをみる。

 ジークのホテルにアンナを招き入れて時間がそれほどたっていない。

 タイミング的にアンナを招き入れたことと無関係とは思えない。


「あったんだろうね」

 シオンはそういうと、テーブルの上の菓子を一つつまんで口に含む。

「何もないのが一番でしょうが……あまりにもできすぎたタイミングですからね」

 リオンもそういうと、テーブルの上の菓子をつまむ。

「その割には、二人してなぜお菓子を……口に。確かにおいしいけれど緊張感にかけるというか」

 二人に便乗してついつい私もお菓子を口に運ぶ。



「レーナ様、頭残念だからなぁ」

 そういいながら、ポンっとシオンは口にもう一つ菓子を運ぶ。

「ちょっ、なぜ私の悪口を今言うのよ!?」

 頭残念と言って終わらせるシオンの代わりにリオンが説明をしてくれる。

「レーナ様、私たちは今ただお菓子を食べているのではないのです。私もシオンも聖魔法の使い手なのはご存じですね。私達は魔法での攻撃手段を持ちません。身体に触れることができれば別ですが、普通は戦闘中に相手に触れることは困難です。ましてや害することを目的とした相手の魔力線に干渉するようなことは集中力が求められまして……」

 なるほどだ。

 戦闘するところはあまり見たことはないけれど、シオンが敵をなぎ倒すときなど確かにすごい運動量だと思う。



「魔法での攻撃手段が劣る分を身体能力の向上でカバーしてんの。ようは動いたら腹が減るわけ。僕らは、足を切り落とされても、肉を殺がれても治して立ちあがるでしょ。普通は経験しないだろうけれど、何回も治癒をしながら動くとすごいお腹すくんだよね」

「減りますね……カロリーはいわば身体を動かすためのエネルギーですから。シオンが何をしているか詮索はしませんが。もう少し食べるか、動くのを控えないと、身体の成長に必要な分が足りなくて身長が伸びませんよ。身長が伸びないと体格が悪い分を補うために動くので悪循環です。自炊を覚えたらどうです?」

「僕の身長があんまり伸びないのってやっぱり栄養的な問題? 自炊はさぁ……したほうが安くつくのはわかってるんだけど。リオンみたいに料理うまく作れる気がしないし。たまに分けてよ。あのレーナ様に時々あげてるめっちゃカロリーとれるクッキー」

 ん? カロリーの高いクッキー……心当たりがあるわよあれ。めちゃくちゃおいしいけど、1キロ太ったやつ。

 シオンの口から何気に出た言葉にハッとした。

 まってまってまって、あれカロリーとるために作られていたやつだったの?



「譲るのはかまいませんが、お菓子よりちゃんとした食事をとったほうがいいですよ……」

 身長が伸びないことに対してリオンが心配そうにシオンに言う。

「ねぇ、ちょっと待ってめっちゃカロリーのとれるクッキーって……」

「レーナ様がお茶をしに来られるときにたまに出すものですね。何かあったときに私が口にするように作ったものですが、ずいぶんと気に入られていたようでしたので……あっ、お気になさらず。また作ればいいだけですので」

 やっぱり……リオンのお菓子はおいしいけど太ると思っていたけど、あえてカロリー高くしてる物があるだなんて思わないじゃない。

 また作ればいいとかの問題ではない、カロリーが普通のうまいお菓子を作ってよもう。せめて、食べる前にそれ凄くカロリーありますって言って!?



「シオン、とりあえず食費が足りないなら言ってくれれば補てんします」

「普通はあれだけもらってれば足りるんだよ。誰かが、毎晩毎晩なんでか部屋を抜け出したりとかしなくて、厄介事に巻き込まれて僕が動くことになれなければね」

 シオンはすごくいい笑顔で私のほうを見つめた。

 心当たりがありすぎた私はそっと視線をそらした。

「それに関しては申し訳ないなと思っております」

「思うだけはいつもするみたいだけど、行動が伴ってないからね」



 そんなやりとりをしていると、ドアが開いてジークが部屋に戻ってきた。

 そして、テーブルの上に1枚の招待状を置いたのだ。



 宛名はもちろん、レーナ・アーヴァインとなっている。

「君の友人に見張りがつけられていたようだね。せっかく攫ってレーナをかくまっていたのが台無しだ。ここにレーナがいるはずだの一点張りでね。レーナと婚約解消をしてすぐに、元婚約者のご学友に手を出すような不名誉な噂が立つのは流石にということで、受け取ってしまったようでね」

「なんの招待状でしょう」

「なんのかは問題じゃない。ダンスを踊らないといけない場に君と私を引きずりだすことが目的なんだろうね。私とレーナが婚約を解消したことを正式な場で知らしめたいんだろう。婚約者ではない者とは正式な場でのダンスは1曲しか踊れない。レーナの家では婚約しているとはったりで君をかばったが……2曲目が踊れないからパーティーなど開かれてはばれてしまう」

「どちらかがパーティーに出なければ、一緒にダンスを踊らないからばれないのでは」

「招待状を私宛にも受け取っている。アンバーにわざわざいるのに、婚約者だとすれば、エスコートしないわけにはいかない」



「では、2曲以上一緒に踊ればいいではありませんか」

 私がそういうと、ジークだけではなく、リオンもシオンも控えているカミルまでポカンっとなる。

 2曲踊ったっていいじゃないの別に、死ぬわけでもないし。

「……また私と婚約をすると? 今更君はそう言うのかい? 確かに事態を収束させるにはそれが一番簡単だろうが……」

 口元に手を当てるいつもの考察ポーズでジークがそういう。

「いえ、婚約はせずに2曲踊っては駄目なのでしょうか?」

「ダメでしょ、アンタ馬鹿なの? ジーク様は今回の件に個人的にご協力くださってんの。また婚約するならともかく、そうじゃないってことは、クライスト領を巻き込んで嘘をつくってことになるんだよ。庶民のカップルみたいに、簡単にくっつりたり離れたりできるわけないじゃん」


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