第16話 軽率

「私が軽率でした」

 シオンの言葉に反論できることなど何もなくて、私は頭を下げた。

 仲のいい友人ということもあり、冷静な判断ができなくなっていたと思う。


「わかればいいよ」

 シオンはそういってうなづいた。

「アンナのことは、二人の判断に一任します」

「ご留意いただき感謝いたします。」



 いつまでも砂浜にいるわけにいかなくて、私たちはホテルに移動した。

 すっかり暗くなったホテルの前では、ジークが従者を連れて立っていた。

 私たちに気がつくと、ジークが小走りにこちらにやってきた。

「遅かったから心配した。これはいったい何が……いや、ここで話すべきではないな中に入ろう」

 チラリとリオンが抱えたアンナに視線をやると、本当に心配そうな顔をしたジークはそういってホテルの中に入るように促した。

「ジーク様これ、全部レーナ様が軽率だったせいなんで」

 移動中にシオンがすかさずそう言う。



「はぁ、ほんの少しの間にどうしてこうもまぁ……」

 シオンからのチクリをきいて、ジークはため息をつきながらそう言う。

 でも、アンナがいたんだもの。しょうがないじゃないと思ってしまうけど、これまでのこともあって、ジークの言葉に身に覚えのある私は心にサクサクとジークの苦情が突き刺さる。

「毎回だけど、何かあってからじゃまずいんで。もっと、レーナ様の心に響くようにチクチク言ってやってください。これまでも僕が自分の魔力とかできることとか考えろってことで、かなり歯に衣着せずにいってもこのザマなんで」

「ちょっ」

 なんてこと言ってくれてんのよとシオンをにらむけれど。

「事実じゃん……それに、髪と瞳の色をかけるアンクレットを着用してずいぶんと時間がたってるからね。いつ魔力切れになるかわかったもんじゃないんだからね」

 伸びたシオンの手が私の髪に触れる。

 シオンが触れた髪はいつもの金色ではなく、茶色だった。



 そういえばアンクレットをつけっぱなしだった。確かに、もうすでにあたりは暗いし、これだけ長いこと使用したことなどなかった。

 早く取らなきゃ危ない。アンナのことで聞きたいことがいろいろあったものだから、私が外見に魔力を割いていることなどすっかり忘れてしまっていた。

 魔力が切れれば動けなくなるから、本当に危なかった。魔道具ということもあり、一定のペースで吸われているせいか、私に危機感が全然わかなかったことも恐ろしい。



 取り合えず、私はエレベーターに乗ってすぐに、かがんでアンクレットをはずした。

 ふぅ、なんとか魔力切れは回避できたわと一息ついた。

 アンナはジークの部屋のリビングに運ばれ、長椅子に横にされる。

「さて、私がホテルに戻っている間に何があったか聞くとしよう。まず、は?」

 ジークはそういって、ちらりとリオンが長椅子に丁寧においたアンナに視線をやる。

「ジーク様、ではなくです。そうだよね……何この無駄なクオリティって僕も思ったもん。とっさに、誰かわかってほんとよかったよ。僕顔を覚えるの得意なほうでホントよかったよね。この人、信じがたいですがレーナ様のご学友のアンナ様です」

 シオンがジークの言葉を訂正する。

「……すまない。えっと、何がどうなってこうなったかがわからないんだが」

 ジークはお決まりの口元に手をやる考察ポーズをするとそう言った。

「それは、レーナ様しかわかんなくてさ、僕もリオンもどうしてこんなことになってるか聞きたかったんだよね」




「えっとですね。私もよくわからないのですが。発端はフォルトが領主戦を受けたことみたいです。アンナは領主戦が始まったこともあり、家として、静観するように言われたようで私にこれまでのように会うことを避けていたそうです。

 もともと、アンナとミリーは……公爵である父が、私に何か起こらないように見張りという意味合いもあってつけられていたらしくて。アンナは責任感が強いから、私のことが心配になったようで、こんな格好してまで姿を遠目から一目みれたらときてくれたそうです」

「ふむ」

 私の説明にジークがそう言う。



「さて、私もやはり聞かないといけないと思うのです。領主戦とはなんなのか。今フォルトがどういう立場でどうなっているのかを……」

「聞いても君には何もできない。これはフォルトが受けた領主戦だからだ。まだ、行われていないが、いずれ己の力量差を相手に見せるために決闘となるだろう」

「決闘!?」

 さらっと出てきた物騒な言葉に思わず驚いてしまう。

「どちらが領主にふさわしいかを決めるんだ。これが一番はっきりするから周りも納得しやすい。今は落ち着いているが、もし他領と戦うことになったときを皆考えるからね。より強い人物に上に立っていてほしいのさ。そして、周りを納得させる抜群の方法がもつ一つある」


 ジークがまっすぐと私を見つめ口を開いた。

「――――それが、直系である君との結婚だよ」

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