第18話 日時

「パーティーの日時は」

「明後日……」

 うんざりとした様子で自分の招待状の中身を改めたジークがつぶやく。

「明後日!? いくらなんでも……私を呼べなかったらどうするつもりだったの?」

 いくらなんでも急過ぎる。いや、私が捕まらなかっただけで、パーティーの準備はその前からされていただけか。



「そこなんだ……なぜ私たちをわざわざパーティーに呼び、婚約が破棄されたことを知らしめたいのかが問題だ。

領主戦を決めるだけならば、アンバー領の貴族の面々の前でフォルトと決闘をすればいいだけだ。しかもやるまえから実力的に勝敗はわかりきっている。

君は不穏分子でしかない。万が一その場で君がフォルトと結婚をするなど言われればたまったものじゃないからね」

 ジークは考察ポーズでそういう。

 確かに。

「でも、私がパーティーで「レーナ様、フォルト様と婚約するなんて絶対言わないでね」

 私が言うよりも先にシオンが私に釘をさす。



「なぜ、ジーク様も先ほど私がそれを言えば効果があるようなことを言っていたではありませんか」

「その場は曖昧になっても。正式な婚約など結ばれる前に、どっちか始末すればいいじゃんってなったらどうすんの? ただでさえレーナ様がなびかないってことは存在自体がめざわりなのに。あえて呼ぶってことは意図がありそうだし」

 そういって菓子を一口シオンは口に運ぶ。

「私も、何か意図があってあえてレーナ様を公式の場に呼び出したいのではと感じました」

 リオンもまじめにそういう。




「あれこれ、考えたいが。とにかく明後日のパーティーの準備をしないと。私はともかくレーナ……君はドレスがいる。居場所はばれているようだし、こちらにクリスティーにきてもらって準備を手配してもらったほうがいいだろう。明日でどうにかなればいいが……。とにかく今日はもう寝たほうがいいだろう」

 ジークのほうから解散を促される。

 あれこれ話し合いたいことがあるのに時間がない。ジークが寝ようと言うくらいだから明日は忙しくなりそうだ。



 アンナはまだ目覚めることはなく、ゲストルームに寝かされカミルが見張ることとなった。



 ベッドに入った私は当然眠れず、窓から星を眺めながらパーティーをどうしようかと考えた。

 フォルトとラスティーが戦えば、今の状態だと確実にフォルトが負ける。

 レーナの父が公爵の間はいいけれど、その後私の家に乗り込んでくるような人物に上に立ってほしくない。

 同時に、仕事で忙しいとはいえなぜレーナの父も母もあのようなふるまいを許し静観しているのかと思う。

 なぜ父と母は動かないのか……

 父が唯一動いたことは、ジークを領地に呼んだことだけ。確かにジークがいなければ危なかった。

 もし、屋敷でラスティーに対峙した時にジークが来なくて一線を越えようとしたら、シオンは盟約によって躊躇なく動いたことだろう。



「あっ!」



 私の中に一つの疑惑が浮かぶ。

 レーナの父と母はあえて静観しているのではないか……と。

 そう思ったらいてもたっても居られなかった。

 部屋を飛び出し、メイドのやんわりとした「明日になされては?」という制止も振り切ってジークの部屋の扉をノックした。

 部屋の扉を開けたのは今日はジークの従者カミルではなく、ジーク本人だった。

「やぁ、レーナ。今度はなんだい? またこんな時間に突然の思いつきでトランプがしたいというのではないだろうね?」

「私の頭の中に浮かんでいることを整理したいのです。時間をとっていただけませんか?」

「かまわないよ。そして、君も下がってくれていい。カミルに立ち会ってもらうから心配することはない」

 ジークはそう返事をすると、私の後ろに控えるメイドにそういって、ドアを開けた。



 私はソファーに腰を下ろすと、ジークがカミルを呼んでくるのを待った。

 なのにシレッとジークは目の前のソファーに腰を下ろした。

「あれ? カミルを呼ばれるのでは?」

「あれは、メイドに下がってもらうためにいっただけさ。こんな深夜に私に話しをしに来るということは、できるだけ聞かれないようにしたいのかと思ってね。その顔を見ればわかるよ。君は何に気がついた?」

 ジークの瞳がまっすぐと私を見据えた。


「お父様とお母様は領地のことで忙しい時期だとはいえ、何も対応しないだなんて不自然だとは思いませんか?」

 ジークを見つめ返すと、ジークは口元に手をやり考え始める。



「私は……明後日のパーティーについて考えていました。ダンスは2回踊れない。踊らなければ婚約が解消したことが今このタイミングでばれてしまう。今私が婚約を解消したことがばれることは得策ではない。

私がジーク様とダンスを2回踊ることを望んでいる人物がおります。どなたかおわかりになりますか?」

「まさか……今この時期は忙しく対処が追い付かないだけだろう?」

 ジークははっきりとそれが誰かを言わないけれど、その回答でジークの頭に誰が浮かんだのかは明白だった。

「そうです。領主戦を収束できる力をもち、私とジーク様との婚約を望む……私のお父様です」


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