チョコとシオン

本編でバレンタインスルーなので。ここでif


 信じられない。クリスマスもなかったけれど、バレンタインデーもないだなんて。私は結構チョコレートの試食して自分用のチョコレートを買うの楽しみにしてる日だったのになぁ。

 バレンタインデーがなくて自分用のチョコが変えなくてしょんぼりとしている私にアンナとミリーが甘いものを食べると元気がでますよとチョコレートを出してくれたのだ。


 銀のトレイに載せられたのは、一口サイズのチョコレートだった。花を模した美しい形の物や、上にソースがワンポイントで付いている物など……どうみてもちゃんとしたやつ。

 この生活になれてきてたけれど、私達はお嬢さまだったのだ。

「チョコレートとおっしゃっておりましたので、気分が晴れればといろいろ用意してもらったのですが、ミリーも同じように用意していたようで。その結果こんな量に」

 チョコレートと無意識にいってしまった私に、アンナとミリーはそれぞれのツテでチョコレートを発注した結果。

 銀のトレイの上には様々なチョコレートがならんじゃったようなのだ。

 こちらの世界は、私のいた世界に有るものはほぼある。チョコレートもその一つだったようだ。よく考えたらチョコレートケーキとか食べていたもの、チョコレートだってあるはずよ。

「どれにいたしますか?」

 ひょいっとつまんで口に入れればすぐだけれど、そこはお嬢さま。

 トレイを持っているメイドが、どれにするか聞いてくる。

「では、そちらの花と、ソースのは味が違うのかしら。ではこれとそれと」

 あれこれ選ぶと、トレイからお皿に丁寧にとられ私の目の前に細いフォークと共に置かれる。



 フォークに指して口に運ぶ。なめらかな口どけのチョコレートが広がる。おいしい……。この世界の食べ物がおいしいっていうより、私がものすごくお嬢様だからかなり厳選されたものを食べれるのかもしれないと思うけれど。幸せいっぱいでチョコレートとお茶を楽しむ。

「おいしいわね、おいしいわね」

 と念願のチョコレートに思わず言葉がでてしまう。

 私が満足して楽しんでるをみて二人が誇らしげである。



 やっぱり私もチョコレート自分で探したい。自分の部屋にくる外商の人に言えば持ってきてくれるのかしら。

 そうして始まったレーナチョコレート強化月間。


 私の口から出るのは、あそこのはおいしかった、あのソースがよかった。あのソースは苦手などとりあえずチョコレートのことばかり。

 私はこれまで自分の発言力など考えたことがなかった。ただ、私がやれチョコレートチョコレートと口にした結果……。

 いつもお茶をするカフェにまさかのショコラティエが期間限定でやってきておいしいさまざまなチョコレートを作りだしたのだ。

 これはちょうどいいタイミングね、うふふと通って公爵令嬢とその身分に準ずる令嬢が毎日お金を落とすから来てるなど露知らず。おいしいおいしいとチョコレートを楽しむ。


 部屋でもチョコレートを並べて、でもあまり食べ過ぎると太るし、ニキビも出来ちゃうからと一日に食べていい数を決めて私は自室で恋愛小説を片手にチョコレートをつまんでいると。

 文句はいうくせにニコル・マッカートの本の続きを借りにシオンがやってきた。

「あのさぁ、毎日毎日一体何がそんなにおいしいわけ?」

 シオンが私が最後に食べようと避けておいたチョコレートを指でつまんでポンっと口に運ぶ。

「あぁぁ!! なぜ、よりによって沢山ある中でそれを……選ぶのよ」

 アンナとミリーがいないことでお嬢様の仮面が完全にとれる。

「いや、だってレーナ様。大事そうにしてるからよほどおいしいのかなって」

 ニコッといい笑顔でシオンがチョコレートをもごもご食べながらほほ笑む。いい性格してやがる。

 さりげなく私に嫌がらせをいれてきてもうもうもう。

 それは、一個しかなかったのに……。

「まだその味は食べていなかったのに……」

 くそうとそういと、胸倉を掴まれ口がふさがれ、口の中に甘さが広がる。



「期待はずれ、まぁまぁって所の味じゃない?」

 そういってペロリと唇を舐めて、キスをしたというのに、何事もなかったかのようにシオンが話す。

「問題はそこじゃないでしょ」

 とさすがに私も突っ込んだ。

「じゃぁ、ハッキリ言うね。アンタ太ったんじゃない」

「嘘!?」

「心当たり有るよね」

「違う、違うわちゃんと私は数も決めて、運動もきちんと……」



◆◇◆◇


 光沢のあるチョコレートは一つでいったいくらするのだろう。それをいくつ口にすれば目の前の彼女は満足するのか。

 金のかかる女……とシオンは心の中で吐き捨てた。


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