第37話 余計なこと

 シオンの手が動いたから今回ばかりは流石に本気で一発やられるかもと思い目を固く閉じた。



 でこをペチンと叩かれた。

「イライラしていっただけ、本気で殴るわけないじゃん」

 そういうとシオンはくるっと向きをかえ再び歩きだすが数歩歩いて立ち止まった。

「やっぱり、殴らせてって言うのはなしよ」

 思わずそういって牽制する。



「……あんまりさ、無茶しないでよ」

 小さな声だった。

 そういうシオンの制服は薄汚れたままだった。

 一度外に出てジークを送りに寮に戻ったけれど着替えずにそのまま戻ってきたのだと今更わかった。

 身体の怪我は治癒魔法で治せても服は綺麗にはできない。

 土魔法の使い手だって、今、朝ということを考えると夜中必死に探してくれたのだと思う。私程度でも学園には入学できるが、あれほどの大穴をあける土魔法は生徒すべてができることではないと思う。



「ありがとうね」

「なに急に?」

 私がお礼を言うと、怪訝そうな顔で振り返ってきた。

「いやー、うん。寝てないでしょ」

「いや、普通に仮眠してきたから」

 あっさりとシオンは嘘をつく。

「その格好のまま寝ないでしょ」

「また水路に入るかもっておもって着替えていないだけ。レーナ様と違ってベッドに横にならなくても人って休めるんだよ」

 眉間にしわがよりムッとした表情になる。




「バレバレの嘘をついて意地っ張りだなぁ」

 そういいながらシオンのほうに歩み寄る。

「もう、ほんとなんなの。うざいんだけど」

 近寄った私に対して心底腹立つって顔が向けられる。

 でも、そういう思ったことが顔によく出る方がシオンらしくてついつい笑ってしまう。



「はぁ!? なに笑ってんのさ」

 からかい、そして笑う私が気に入らないようだ。

「いやー、シオンはそういうところが可愛いと思いますよ」

「自分の容姿が飛び抜けて優れてんのも、可愛い系なのもレーナ様がお気づきになられるとっくの前から知ってます」

 まるで、アイドルのようなスマイルでハッキリとそれを肯定してきた。




「口は悪いけど、寝ないでなんだかんだ私の心配しちゃうとことか」



「大穴あけれるほどの土魔法の使い手をあの時間に探すの大変だったんだろうなとか」



「明らかに……っ」

 胸ぐらを捕まれて引き寄せられ、反対の手でこれ以上言葉を紡げないよう私の口をしっかりとふさがれた。

 ニコッとシオンは笑う。ただ、それだけなのにそれ以上わかってても言うなよって言われたのがわかる。

 シオンの手が私の口元から離れてシオンの身体も離れる。 

「素直じゃないなぁ」

 余計なことが私の口からさらにもれる。

「素直じゃないのはそっちじゃん。危ないからと置いていけば、勝手に地下水路に入るってわかってたら置いて行ったりしなかった……」

「あれは、私も地下水路に入るつもりはなかったのよ」

 あれは、本当にはいるつもりはなかったし、不幸が重なった結果である。



「教団の時からずっと引っかかっていた。僕は確かに神官として学園に入ったけれど、孤児院はすでに入学してしばらくした地点でなくなってた。なのに、どうしてレーナ様は孤児院のことを知っていたの? 僕が王子暗殺に動いていたことも知っていたよね?」

 こればかりは、ゲームの知識が……としか言いようがなく回答に困ってしまう。これまでも濁してきたことである。



「僕はどう考えても不穏分子だったはず。王子殺害の計画で実行犯として動いていたのは、まぎれていた他の教団の息がかかった生徒ではなく、僕だったのになのにどうして見逃したの? 本来であればグスタフと一緒に拘束されてもおかしくなかったのに。アンタは王子殺害に僕が実行犯として動き始めていたことを報告しなかった。だから、僕は今ものうのうとレーナ様という緩い監視だけつけられて平凡な学園の暮らしに戻された。教団の被害者として……」

 シオンは自分の胸元に手をやると、今まで私に問い詰めてこなかった疑問をいっぺんに言った。

 この事件について詳しくはシオンは私に聞いてこなかった。だから私も答えることなく今日まできてしまった。


 不安げな顔でシオンは私を見つめる。



『僕の手はもうひどく汚れてしまっている。それでも傍にいてくれる?』

 ゲームのシオンのセリフが脳裏に再び蘇る。

 ツンデレな要素しか最近はみてなかったシオンだけど、王子暗殺によって他の生徒を殺めたことをヒロインにキスをする最後の最後で悔いて不安な顔をのぞかせたのだ。



 私はシオンの手を握った。

 シオンの手は緊張からかひどく冷えていた。

「この手は事件のあと人を救うことはしても、殺めることはしてないじゃない。シオンの意思で……まぁ、拷問くらいはしてるかもだけど……。私は何でもお見通しなんですからね。シオンが案外おせっかいなところも、面倒見がいいところも最近私の第二のお母さん見たくなってきてるところとか……」

 そう言いながら、シオンの手をなでてみる。

「盟約使いこなせてない癖に、何が『何でもお見通し』なんだか……」

 シオンが私を小馬鹿にする。

「今に使いこなせるようになりますから、困った時は魔力を使えばいいじゃないって思いつくようになりましたから進歩してます」

「はぁ、何それ……」


 シオンはため息をひとつつく。

 その後ごく当たり前のように自然にシオンの顔がこちらに来て。

 私の唇にそっとシオンの唇が触れてすぐに離れた。


「いやいやいや、ちょっとなんで今ごく当たり前のようにキスしてはなれたのよ?」

 全然色気もくそもないツッコミが私の口から出る。

「なんとなく」

 ニッコリと悪びれもせずにシオンは小首を可愛らしくかしげて答えた。


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