悪役令嬢はヒロインを虐めてる場合ではない

フォルトとプレゼント

　夏休みレーナの誕生日パーティすることになった理由。

　レーナ嬢と和解する日がこんなにも早く来るとは思ってもみなかったというのが正直な感想。

　レーナ嬢は俺と同い年ではとこだったものだから、俺が物心ついたころにはすでにその辺にいたというのが正しい。

　同じ髪と目の色、生まれた時期もほんの少ししか違わなかったから、レーナ嬢の母親と俺の母親はよく行き来していた。だから、小さい時からよく一緒に遊んだ。

　５歳になった時だった、転機が訪れたのだ。年の近いアンバー領に接する領の子が集まる機会があったのだ。今ならあれは、将来的に近場の領にもどのくらい結婚相手候補がいるのかということを調べる意味もあったんだと思う。それほど、近しい領同士での結婚は多い。

　レーナ嬢はクライスト領のジークが大層気に入ったようだ。そこからはジークとレーナ嬢は婚約をした。

　もちろん、アーヴァインの跡継ぎはどうするのか？　ということになったらしいが、今考えなおしてみるとレーナ嬢の魔力は領主をするには壊滅的に少ないことを大人はある程度わかっていたからこそ、跡継ぎからあっさりとはずれたんだと思う。

　何かあったとき、魔力の量というものはあまりにも影響は大きいのが今ならわかる。

　レーナ嬢があれだけ熱をいれていたというのもあるがはジークがいるクライストは隣接する領だったこともあり政略結婚的な意味合いでも直系を嫁に出しても惜しくなかったのだと思う。

　当時はレーナ嬢の父も母も若かったから、そのあと兄弟が生まれる可能性も十分あったし、それ以前に俺をはじめとしてある程度アーヴァインの血が濃く魔力の高い人間が分家に何人かいたことも大きかったと思う。

　ただ、大人が見えてる世界と子供が見えていた世界は全然違った。

　レーナ嬢の婚約が決まってからは正直地獄の始まりだった。領主候補として、ある程度の年齢の血縁者が学ぶことになったからだ、もちろん学んだからと言って直系ではないから領主が確約するわけではない。

　領主教育は俺にとっていい思い出じゃなかった。子供ならではの楽しいことを諦めて諦めて諦めてそれでも、選ばれなかったら終わりという過酷でもろいものだった。

　覚えることが山のようにあり、選ばれなければこの苦しい思いをしたことすべてが無駄になると家庭教師に圧をかけられる異常な毎日だった。

　その毎日の中に近しい立場だからこそ嫌でも見えてしまう、レーナ嬢が年相応の遊びをしていることが、俺とは違い親に愛され大事にされている姿が。

　恋をして婚約者に思いをはせる姿が。

　なぜ、お前がそんなに楽しんで俺がこんなに苦しい思いをするのかと何度も思った。

　だからこそ、学園でジークがレーナ嬢にむごい扱いをするたびに口には出さないけれど思った、ざまーみろと。

　直系であることを捨てたにも関わらず肝心の婚約者とはうまくいかないだなんて残念だったなと。

　レーナ嬢がどう考えているかなんて考えたことがこれまでなかった。

　彼女は俺がやりたかったことを隣であっさりと全部かなえてもらいやっているだけだと思っていた。

　明らかな政略結婚だからこそ、破棄したくとも一存では破棄できないという現実。それでも、この婚約がダメになれば隣接する領土だからこそ大変なことになるかもしれない。

　どうすればいいか、ジークの顔色を窺って、合わせて、アドバイスをうければそれを参考にして、ほかに漏らすことなく彼女はたった１３歳ですでに、選択肢を誤ってしまったことに気が付いていたのに、誰にも言わず、関係がよくなるようにと戦っていたのだ。

　ほんとうに目からうろこだった。

　自分のことしか見えてなかったと恥じた。

　思い返せば、ジークは婚約が決まるまでは優しいようだったが、決まってしまえば年を重ねたこともあるのかもしれないがレーナ嬢相手では後悔したのかもしれない。

　学園にはいったことで、すっかりいびつな二人の関係が見えてしまったのだ。

　俺でさえ知っていたのだ、そんな針の筵の中必死に戦っていたのだ、他者に陰でなんて言われてるかを知っているうえで……。

　気持ちの折り合いがついたのは案外はやかった。そして、魔力がちっともないと思っていたレーナ嬢が王子暗殺を阻止するために動いていた事実が決めてだった。

　見えているものだけが、正しいことではない。領主になるなら考えろと嫌ほど言われてきたことだ。

　ついにこの意味を俺は本当の意味で知ったのだ。

　今からでも、間に合うだろう。多少抜けているけれど、そういうところは寛大だとなんとなく思った。

　だからこそ、子供の時以来に彼女の誕生日を祝おうと思った。これまで、ずっとジークからは定型文の文と誰かが選んだプレゼントを受けとっており、今年も同じだろうレーナ嬢のために。