第12話 何がどうなった?

 ジークを無事にやり込めたことで私はこれで当分邪魔されず放課後をまた楽しめるぞと思っていたのに。一度疑問を持ってしまうと目についてしまうのだ。


 アレ、ヒロインってこんな性格の子だったかなと。

 以前私がジークと街で会ったときは、ジークにグイグイ来てアピールしていた。なのに今はどうだ。第二の悪役令嬢に注意されたことが効いているのか、貴族の暗黙のマナーを知ったのだろうか。全然グイグイしてない。

 ジークが近くを通った時も、今は自分から話しかけるようなことはせず身分の高い相手に対して道を開け、会釈をしている。



「マリア、この前の怪我はもう大丈夫か?」

 おぉ、エドガーから声をかけてきてるじゃないの。私はこっそりと盗み聞きを続けた。

 これはチャンスね。話を広げてお近づきに……。

「はい、大丈夫です」

 マリアは元気よくハッキリとそう言った。

「ならよかった。それでは……」

 よし、お礼にお茶に誘って……。

「はい、エドガー様ごきげんよう」

 おいおいおいおいおい、ごきげんようじゃないわよ!

 エドガーは軽くほほ笑んで踵を返して行ってしまった、行ってしまったのだ。




「なぜ、そこでもうひと押ししないの」

 思わず、そう言ってマリアの前に出てきてしまった。

「えっ、レーナ様……」

 突然の私の登場にヒロインが固まる。

「今のはどう考えても、お礼にお茶でも誘うとか、話を広げて会話するチャンスだったでしょう」

「えっ? えっ? でもエドガー様は放課後は練習があってお忙しいかと」

「お忙しいとか配慮してたら、エンディングなんて迎えられないわよ。忙しかったら断ってくるからとりあえず誘うだけ誘わないと」

 ついつい、プレイヤーよりの意見が出てしまう。

「でも、庶民の私が誘ったのではご迷惑に……」

「迷惑か迷惑じゃないかを決めるのは彼であって、あなたではないのよ」

 ついつい熱弁してしまう。



 マリアは私の言ったことに対して曖昧に返事をしていた。クソ、全然わかってなさそうだわ。




 その後、暇な私はマリアの恋の行方を見守ることにしたのだけれど、これがひどいのだ。

 その後、マリアはエドガーに話しかけるのだけれど。話題として天気の話するのやめろ、天気の話って、話題ない人にする速攻で終わるやつよソレ。


 あと、私が二人っきりになれるようにアシストしたのを一瞬で台無しにするのもやめろ。

「レーナ様もごいっしょに」じゃない。

 お前らが二人っきりになれるように気を使ってるんだ気がついてくれ。


 エドガーもエドガーで、私が隠れているのに気がついて、私の名前を呼ぶのをやめろ。返事を一度でしないあたりで気がついてないフリしてることに気がついてほしい。


 そんなこんなで、エドガーとマリアをくっつけようと頑張った結果。

 惨敗。


 どうすればいいのかと考えて思いついたのは恋愛イベントである。

 そういえば、以前ヒロインの真似をしたところレーナでもジークと恋愛イベントである梯子から落ちて助けてもらうを発生させた。


 エドガーの恋愛イベントを思い出すのよ私。

 うーん、うーんと唸りつつも、私が自力でやるよりシナリオの力を借りるべくがんばっているとフォルトが私に話しかけてきた。


「眉間のしわがひどいぞ」

 そう指摘されて私は慌てて眼を開けた。

 やばい、眉間のしわなどいらない。

「ありがとう、フォルト。またやっていたら教えてくださる?」

「あぁ……。もしかして何だが、まだ厄介事解決してないのか?」

 私の耳元でこそっとささやかれた。そういえば、フォルトにスライム事件のときは助けてもらったのだった。   

「いえ、アレだけ戦利品もありますし、水路からスライムがいなくなっていればそれは解決してるのです」

「じゃぁ、次は何に悩んでいるんだ」

 フォルトが心配そうな顔で私を見つめた。



 フォルトはいいやつである。その上、ジークにも私が厄介事に首を突っ込んでいることを漏らしてない口の堅さもある。

「エドガー様のことなのです」

「…………まさか、好きになったのか?」

 フォルトが真剣な顔で私を見た。

「まだ確証はもてないのですが、ここ最近は会話が盛り上がらなくても話をしに行っているのです」

 ヒロインのほうから、天気の話題であるが話しかけているのが何回もみられた。

「…………わかった。俺に協力してほしいということでいいんだな」

 さすがフォルトである、話が早い。

 私はその質問にうなずいた。






 後日、私はフォルトに呼び出され、カフェで恋の大作戦の打ち合わせね! と意気込んでいつもの学園のカフェに足を運んだ。

 すでにカフェのほうにはフォルトから予約されていたようで普段は解放されてないカフェの2階に案内された。

 2階はちょっとした個室になっていた。

 フォルトはまだ到着していなかった。

「お飲み物はどうされますか?」

「せっかくだから、彼が来てからにするわ。ありがとう」

 私がそう声をかけると、給仕はかしこまりましたと下がった。



 なるほど、カフェに個室があったのか……。ここならエドガーとマリアにばれずに打ち合わせするのにぴったりね。おいしいケーキも食べられるし、さすが甘党。

 個室だと、他の生徒の目を気にしないでいいからフォルトも沢山パフェやケーキ食べられるものね。

 猫足の二人掛けのソファーが可愛らしい。


 どうせ、フォルトは座り心地のいいほうを譲ってくれるだろうから、クッションが沢山おいてある上座に座っちゃおう。


 どうして、恋話って自分のことじゃなくてもこんなにウキウキしてしまうのかしら。



 そうこうしていると、給仕が扉をノックした。

「失礼いたします、お連れ様がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、もちろん」

 私がそう返事をすると、給仕の後ろから現れたのは、金の髪を持つフォルトではなく、赤ワイン色の髪を持つエドガーだった。



 え?



 私の頭の中に沢山のはてなマークが浮かぶ。

「えっと、レーナ様。このたびはお誘いくださりありがとうございます。このようなところはあまり慣れておりませんので、失礼がありましたらお申し付けください」



 え?

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