ループリベンジ1
本編停止してて申し訳ないです。
ifの番外編一つ、しかも続く。
◆◇◆◇
僕じゃ釣り合わない、幸せにできない。好きだから相手に譲って恋愛の舞台から僕は退いた。
大丈夫。誰かのものになったとしても、僕とレーナ様には血の盟約がある。
切れることのない、深い深いつながりがある。だから大丈夫。
そう、心に言い聞かせた。
そんな僕のもとに、結婚式の前夜に『白の部屋に来られたし!』とまるで果たし状のような呼び出し状が届いた。
結婚式の前夜に他の男をサシで呼ぶとか、僕のご主人様はほんとデリカシーに欠けるんだけど。
などと心の中で悪態をつく。
誰のものにもなってないレーナ様を見る最後の夜。
顔を見たら、自らの意思で恋の舞台から降りてしまったことへの後悔の言葉をぶちまけて、すがってしまわないかだけが不安だった。
大丈夫、うまくやれる。今までだってうまくやってきたじゃん。
意を決して僕は白の部屋に入った。
「遅い! 時間厳守……社会人の常識でしょう」
「まだ約束の時間じゃないし。たまに自分が時間より早く来たからって偉そうにしないでくれる?」
懐中時計を取り出して時間を見せると、グッと押し黙った。
こんなやりとりが好きだった。
「まぁ、今日のところはいいでしょう」
自分のミスに気がついた癖に偉そうに。
「あの、僕遅れてないからね」
「もう、ごちゃごちゃうるさいわね。でも、まぁ今日はいいお知らせがあります」
「こんなところにわざわざ呼び出して、ご丁寧に白い服まで着ちゃってさ。で? 何?」
「そういうシオンもちゃんと白の服じゃない。さて、本題よね」
「シオン今までありがとう。尻ぬぐいをいろいろしてもらったわよね」
「ほんとそれね。僕にめちゃくちゃ感謝してよね。で、改まって呼びだすから何かと思えばねぎらいの言葉?」
「まーまーまー。最上礼をしなさい。これは命令です」
久々に命令という言葉がレーナ様の口から出た、レーナ様の魔力は少ないので逆らうと気分がほんの少し悪くな程度だから、逆らおうと思えばできるんだけど。
素直に僕は主に向かって、両膝を地面につき最上礼のポーズをとった。
「いい眺めねシオン」
フフンっと僕を見下ろしているのがむかつく。
「もーほんと、なんなんだよアンタ!」
そんな僕の額にレーナ様の手がおかれた。
額からじんわりと魔力が送り込まれる。
「盟約の主として最後に命ずる。シオンに――――自由を」
「は?」
そのとたん、グラリと僕の中の絶対的な何かが揺らいだ。
僕に絡みつく見えない糸のようなものがほどけていくのがわかる。緩くやわく僕を縛っていたのが何かすぐにわかった。
複雑に僕に絡みついていた物が僕の意思関係なしに徐々にほどけていく。
「僕に今何したの?」
「血の盟約の解消よ。いやー、私が死ぬ以外に解消方法があってよかったわ」
「どうして?」
「どうしてって、ほら、シオン案外常識人じゃない。私と盟約したままだったらずっと私におせっかい焼いちゃうんじゃないかなって」
「リオンは!?」
「リオンは、私に縛られてることがほら、生きがいみたいな感じだし……それこそ制約がなくなったら私が危ないかなって。このままの予定。今までありがとうね……って面と向かって言うと照れるわね」
君の隣には平民の僕は立てない。
だけど、血の盟約があるから、特別であることは一生揺らがないはずだった。
このつながりがすべてほどけてしまったら、僕とレーナ様の絶対的なつながりがなくなってしまう。
僕の気持などつゆ知らず、『シオンのことが心残りだった』と自由にしたことで満足そうに、『幸せになってね』と笑ったのだ。
なんで、どうして? って頭に沢山浮かぶ。それでも大事なつながりはどんどん薄れていく。
盟約が薄れているせいだろうか、閉じ込めていた感情が一気に噴き出す。
僕の幸せは、アンタが思ってるのと違う。
好きだからずっと傍にいたかった。でも、盟約を解消されたらそれは叶わない。
幸せになってねなんて、幸せにできない奴が言わないでよ。
暗い、暗い、暗闇から無理矢理日の下に引っ張り出したのは、レーナ様だった。
でも、平民の僕じゃ、公爵令嬢のレーナ様を幸せになんてできない。
これが、彼女の幸せだってずっと言い聞かせてきた。
なんで今このタイミングで盟約を解消するの……
盟約の制限がなかったら……レーナ様が嫌だといっても止まれない。
だって……ずっとずっと好きだった。
あいつよりも絶対に僕のほうがレーナ様を先に好きになったんだから。
こちらの気持なんかつゆ知らず目の前でドヤッてるレーナ様の腕を思わず僕は掴んでしまった。
駄目、離せ。
「シオン?」
不思議そうに首をかしげて緑の瞳が僕を見た。
駄目だ、僕が言っていい言葉じゃない。
最上礼をしたまま、レーナ様の腕を握って、僕は白の部屋で口に出してしまった。
「こんな未来なんて認めない。他の人のものになんかならないで。だって、僕、アンタのことが……」
世界がぐにゃりと揺らぎ……僕の意識はなぜか途切れた。
◆◇◆◇
床が固い。身体バッキバキになるじゃん。せめて人呼んでベッドまで誰かに運んでもらってよと思いながらも僕は体を起こした。
くそ、全身真っ白の服だったし、汚れてないといいんだけど……
「大丈夫ですか? 魔力の使いすぎかもしれません。今日はもうお帰りになったほうがよろしいのではないでしょうか?」
僕の視界に入ってきたのは、小汚いおっさんだった。
誰コイツ……
うー、身体があちこち痛いし、頭も割れそうなほど痛い。それより、ここどこ?
どこかで見た覚えはあるんだけど、思い出せない。
おっさんの制止を無視して、立ちあがって僕は違和感を覚えた。
あれ……なんかおかしい。視界がいつもより低い?
建物の天井が高く感じるし、目の前にいるおっさんがずいぶんと大きく見える。
どうなってんの?
「神官様?」
様子のおかしい僕におっさんが心配そうな顔で声をかけてきた。
「しんかん?」
思わず復唱した自分の声に驚いた。僕の声はこんなに高くない。
自分の体に視線を移すと、そこにはまるで女性のように華奢な王立魔法学園の制服に身を包んだ身体と。
胸元には、これまたとっくの昔に売り払った教会の人間がつけるペンダントがあった。
なにこれ、どうなってんの? そうだ、鏡……鏡をみなきゃ。
「予定があるので、今日はこれで」
そういって僕は見覚えがあるけど、どこだか思い出せない建物を飛び出した。
建物の外に出て街を見渡して理解した。僕がいたところは、なぜか最後の記憶がある場所から程遠い学園都市だった。
「どうなってんの?」
よくわからないけれど、異常事態が起こっていることはわかる。
すれ違う人は大きく、今の僕の身長では人ごみを歩くのも一苦労だ。クソッ急いでんのに、歩きにくい。
王立魔法学園の守衛の前を実にあっさりと通過して、僕は学園の中に入った。
クソッ、ここからじゃ鏡があるトイレが遠い。
あっ、植物園が確か近い。
鏡ほどの精度じゃないけど、噴水もあるから、水に映った自分の姿を見られる。焦る気持ちのままに僕は植物園を目指した。
僕が目指した噴水の傍のベンチに学園の生徒がいた。
嘘だあり得ない……
でも、それを確かめたくて僕は声をかけた。
「これは……フォルト様。ごきげんよう。今日も女性とご一緒とはやりますね。ぜひ僕にもそちらの方を紹介してください」
「シオン、俺は連日女性を連れ歩いたりはしない。誤解を招くようなことを触れまわるのは辞めてくれないか」
信じられない、目の前の少年はフォルト様であることを否定しなかった。
このやりとりを僕は知っている。
ということは、待って……今ベンチで目をハンカチで冷やしてるのってまさか。
忘れることなど到底できない、手入れのされた美しい金の髪に思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「ところで、シオンは癒しの魔法が使えるよな?」
「あっ、えぇ。簡単なものでしたら」
目が離せなかった。だって、ウソでしょ。レーナ様は明日結婚するはずだった。
でも、今って僕とレーナ様が……
「目が腫れているのを治せないか?」
「えぇ、もちろんかまいませんよ」
信じられない。そんなことがあるはずない、でも僕の視界が低くなったのも、学園の制服を着て、十字架をつけていることも。
フォルト様が幼いのもすべて説明ができてしまう。
緊張した手で僕は金髪の女性の目にあてられた高そうな水にぬらされたハンカチを取って、ハッと息をのんだ。
なんで、このタイミングでめっちゃ面白い瞼してんだよコイツわ。こういう間がわるい奴だったよ。僕のご主人様は……
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