ゲームが始まるその前に フォルト
アーヴァイン直系のレーナ嬢の魔力量では、跡目をまかせられないということがわかった同日。
俺にアーヴァイン家当主の大半がそうだった雷魔法の特性があること、魔力量がレーナ嬢とは違いとても多いことがわかった。
直系ではないものが跡目を継ぐ場合、雷魔法の子で他領ともめごとが起こったときに、抑止力となるほどの魔力量をほこることとなる。
俺はその2つの条件を見事満たし、かつ、レーナ嬢とはとこという血縁関係が近いこともあり、あれよあれよというまに、次期領主候補となってしまった。
それから生活は一変した。
レーナ嬢は外に出される子、俺は跡を継ぐ可能性のある子となってしまったのだから、同じ扱いではないと今ならわかる。
でも、5歳の子供にはそんなことわかるはずもなかった。
「学びなさい。あなたには資格があるの」
母が何度もそう言った。
レーナ嬢は隣接する領地の嫡男とあっさりと婚約をきめ、楽しそうに遊ぶのだ。
血反吐を吐くほど、努力し学ぶ俺の前で。
お前ならできる。優しいお前に跡を継いでほしいという親からのプレッシャー、逃げることがかなわない責だった。
レーナ嬢に何をされたわけではない、責を逃れ恋におぼれ、俺があきらめたすべての楽しいことを当然のように行い、年相応の子供のようにふるまう彼女が憎かったのだ。
ゆがんだ気持ちは、直系ではあるが自分より劣るレーナ嬢へと向いた。すれ違うたびに嫌味をいい、心の平穏を保とうとした。
だって、俺は領主候補の中で一番歳が若く、魔力量で劣っていることがすでにわかっており。
継承順位が現状一番低い4番目だったのだから……
跡を継げなかったら今までのことがすべて無駄になる。
せめて魔法をと思ったのに、親も家庭教師も俺の焦りを見抜いていたようで、知識、剣、馬術を教えるだけで、肝心の魔法は学ばせてくれなかった。
年齢を重ね王立魔法学園への入学が決まったとき公爵が俺に頭を下げに来たのだ。
レーナ嬢の父として、魔力の少ない直系の娘が学園で利用されないか悪い輩がよらぬように配慮してほしいと。
レーナ嬢の父がなぜ娘を保護してほしいのか理由は分かっていた。それでも、本人が知らないところで守られるのが当然なことが憎かったのだ。
「また、皆さんで通っていらっしゃるわ。あれほど袖にされているのに……」
クスクスと嫌らしい笑い声とともに言われてるのは、レーナ嬢に向けられた嫌味だ。
俺が現れたことで、嫌味を言っていた生徒は口をつぐんでそそくさといなくなる。
どんなにお前が愛しても、お前はジークから愛してはもらえないのだと思っていた。
だから、顔を合わせた時に、チクリと嫌味の一つでもいってやろうと思ったのだ。
俺が嫌味をいえば、必死にレーナ嬢はそんなことはないと否定するのだと思ったのだがその日は違った。
あっさりと、俺の嫌味を交わすとまさかのお茶に誘われたのだ。
そして、真剣な顔で言われたのは……
「私とジーク様の婚約がなかったことになるかもしれません」
ということだった。
ジークを必死に追いかけて、周りが見えていないと思っていたレーナ嬢はちゃんと周りが見えていたのだ。
好きな男と結婚できていいことだと思っていたのは俺だけだったのだ。
隣接する領地の直系の嫡男と婚約するということの意味をレーナ嬢はちゃんと理解していたのだ。
たとえ相手にひどい扱いをされても、簡単には破棄できないということを……
俺の耳にも入る位だ、目に余る扱いをされている。
レーナ嬢は自分たちの婚約が政略的意味合いのある結婚であることを知っていたから、それでもジークの下に足しげく通わざるを得なかったのだ。
ひどい扱いをされたとしても、建前として……
衝撃だった。
楽しいこと望むことをしているものだと思っていた。
だから、嫌味をいって、自分の責を投げたとレーナ嬢に自分のうまくいかないことを当てつけていたことが急に恥ずかしくなった。
レーナ嬢は直系にも関わらず魔力が対してなくて、雷魔法の適性もないことはわかっていた。
次期領主候補はすでに領主教育を受けていて、婚約が決まったレーナ嬢は領主教育を受けていない。
だから、婚約を辞めても跡を自分が継げないこと。
隣接するからこそ、破棄することへの影響すべてを理解して、必死にレーナ嬢はレーナ嬢のフィールドで戦っていたのだ。
あれほどひどい扱いを受けても通う理由。それは彼女が愚かではなく後ろに自分の領地を背負う者だからだ。
それを知ってから、今まで知ろうとしなかったレーナ嬢の努力や振る舞いを俺は知ることとなった。
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