ループリベンジ2
シオンメインの番外編です。
◆◇◆◇
王政を廃止し教会が実権を握るため、教会は民の大多数を占める平民の支持に目を付けた。
人は本来平等であるべき、人に階級制度を作るのはおかしいと平等性原理主義を唱えた。
教会は人を平等に扱うと甘美な言葉を謳い人を集めようとした。
その日まで僕は、なんでそんなまどろっこしいことをするのか、自分たちに都合のいい神を作り上げれば、平民だけではなく貴族も取り込めるのにと思っていた。
なぜ、教会が別の神を疑似的に作り信仰させなかったのか……その意味を僕は今知った。
神は実在する。
だから、偽の神など作れなかったのだ。
そうでなければ、今僕に起きている現象の説明のしようがない。
『こんな未来なんて認めない。他の人のものになんかならないで』
僕の願いを聞き届けたかのように、見事にレーナ様に出会う前の時間に戻った。
僕にはこの後の6年分の記憶が全部ある、とても長い夢を見ていたの一言では済ませることができないほどの膨大な記憶が……
あの甘くて苦い、片思いをまた6年もしろっていうわけ!? っと声を荒げたい半面。
まだ、6年も時間があることにほっとする自分がいた。
「おい、シオンどうした?」
フォルト様に声をかけられて現実に戻された。
「あっ、これは失礼いたしました。街で治癒をした後でしたので。魔力が少なくなっており少々ぼーっとしておりました」
やっべー、明らかにフォルト様不審な顔してるし。レーナ様の治療をさっさとすませなきゃ。
「あの、どうか痛いようには」
レーナ様が僕にそう懇願した。
「痛いようになんかしないよ」
ムッとして思わず反射的にそういって、今僕とレーナ様はそんな言い合いをできるような間柄ではないと思い出す。
彼女は有数の貴族の令嬢で、僕は治癒という才能に恵まれただけの平民なのだから。
態度の悪いのをごまかすかのように、レーナ様の瞼に僕は手を当てた。
そういえば、レーナ様はこの時すでに僕が王子暗殺命令に動いていることを知っていたし、僕が治癒魔法と見せかけて人を害することができるって知ってたんだっけ。
どうりで、青い顔で震えてるわけだ。僕に害されると思ってんだなこれ……
さて、いつも通り魔法が使えるといいんだけど。
6年前に戻って初めて使う治癒魔法だしなぁ……ご主人様で人体実験とか気が進まないけれど、治癒をしないわけにもいかないから魔力を込める。
手をかざし魔力を送るとあっという間に、レーナ様の瞼の腫れが引いた。
うーん、どうやら魔法は問題なく6年後の熟練度で使える。
問題は魔力量……体感だけど、6年後の半分もあればいいとこじゃんこれ。
身体強化して、怪我の治癒も同時並行してたよね……この魔力量で……
あれ、これどうやってた?
思ったよりもかなり少ない自分の魔力量と、これから僕らを待ち受けている出来事にぞっとする。
魔力量が増えるまで、依然と同じような動きはできないって思っとかないと魔力切れでつぶれる……
「シオン、どうかしたか?」
フォルト様があれこれ考える僕に不審な顔で問いかけた。
「いえ、なんでも……あっ、二人に話があって」
僕はフォルト様とレーナ様に王子暗殺計画に教会が動いていることを話しだしたんだけど。
「レーナ嬢席を外してもらえるか?」
あれ?
「あら? そう~? それじゃぁ私はこれで、シオン様ありがとうございました~ホホホ」
フォルト様がレーナ様に席を外すように促した……あっと思った時には遅かった。
レーナ様はラッキーと言わんばかりに、胡散臭い笑い方でそそくさとその場を去り、冷たい顔を向けるフォルト様だけがその場に残った。
「なんのつもりだ?」
レーナ様の背が見えなくなってからこちらを見ることなく、フォルト様が冷たい声色で僕にそう言った。
「なんのつもりって……僕は……」
「王子暗殺? それが真実だとして、それを俺たちにお前が話す理由は?」
「理由って第二王子を僕は殺したくないから、それで」
「この話は終わりにしよう、シオン。お前の話は聞けない」
くるりとこちらをみた、フォルト様の瞳は冷たくて、痛いほどに今は僕の親友などではないのだとわかった。
僕は思わず唇をかみしめた。
「さて、シオン。今日は、レーナ嬢を治療してくれてありがとう。少ないけれど、とっておいてくれ。そして、どうかレーナ嬢の周りをうろつくようなことはしないでくれ。手荒なことなど俺は望んでいないんだ」
フォルト様のポケットから取り出された銀貨を数枚押し付けられた。まるで、これで貸し借りなどなしだといわんばかりに、レーナ様の周りをうろつくなと言われた。
フォルト様は僕の前から去った。
僕は選択を誤った……、僕に信用されるだけの実績がなかったのだから当然のことなのに、それはこんなにもつらい。
レーナ様へのとりなしを考えたけれど、僕はあのポンコツのレーナ様にアンナ様とミリー様の二人がつけられた理由を痛いほど知った。
フォルト様から警告されたのだろう、故意に会おうとしているのに、レーナ様と僕が話せるどころか会うことすら叶わなかった。
「クソッ」
どうしたらいいか手詰まりで思わず口の悪い言葉が自分の口から出た。
どうすればいい?
日が落ち人がまばらになった学園の廊下で僕は名前を呼ばれた。
「シオン」
名前を呼ばれて思わず振り返った。
その時だ、腹部にズンっと重い衝撃が走った。
焼けるような痛みに、思わず抑えた腹部に突き刺さっていたのは、緑のぬらぬらとしたナイフだった。
刺されたのだと理解し、すぐに患部を治癒しようと魔力を集めるけれど、集めた魔力は僕の傷を癒すことはなく、ナイフに吸い取られる。
ズルリと腹部からナイフ引き抜かれたとたん、治癒魔法の効果で傷はふさがった。
しかし、治癒しようと魔力を送り込んだせいで魔力を多く吸われた僕は、思わずその場で地面に片膝をついた。
「アイベル……先生。いや、グスタフ」
僕の目の前に緑のぬらぬらとしたナイフを持ち立っていたのは、医務室の先生。
いや、僕に第二王子を探し出し殺せと命令した男グスタフだった。
「あら、目をかすれさせる薬を塗っておいたのに、それも治癒しちゃったのね。やるじゃない」
フフっとグスタフは僕に笑いかけた。
「思ったよりも、賢い子だったから今後のためにアドバイスを一つしてあげるわ。何を企てていたかは知らないけれど、こういうことをするときはね。なるべくこれまで通り動かないとダメよ」
グスタフは僕に話しかけながら、こちらに歩いてくる。
まずい、距離を取らなきゃと思うのに、体が熱くいうことをきかない。
「特にこういう重要な役割を与えられたということは、それなりの人物に監視されていると思わなきゃ……ね? 残念だわ、シオン。とてもいい駒になってくれると思ったのに、優秀すぎたのね」
ぬらりと振りかぶられた緑のナイフ。あれがレーナ様の中に取り込まれた魔剣のなりそこないだとわかったけれど、もう遅い。
魔力の大半を吸われた体は、もう一歩たりとも動けなかった。
振りかぶられたナイフが自分に振り下ろされるのを僕は、見つめた。
走馬灯というのがあるようで、ナイフが動けない僕にゆっくりと迫る。
あー、僕。判断を間違っちゃった。
もう一度、顔見たかったな。
レーナ様。
体に走る激痛と、最後の一滴まで魔力を吸われる熱さを最後に僕の意思はそこで途切れ、暗い暗い闇の中に意識が解けた。
「シオン様、シオン様!」
僕を呼ぶ野太い声……あの状況で助かったっていうの?
あー、僕魔力高いからあえて生かされたか。
生きてるほうが地獄だと思う目にあわされる前にさっさと自害しよう、そう思って目を開けて思いっきり後ろに後ずさった。
僕の視界いっぱいに入ってきたのは、見覚えのある小汚いおっさんだったからだ。
「あーよかった。大丈夫ですか? 魔力の使いすぎかもしれません。今日はもうお帰りになったほうがよろしいのではないでしょうか?」
「え?」
あたりを見渡してはっとした。
そこは、6年前に戻された始まりの場所。
治癒師として僕が働いていた場所だった。
「嘘……」
僕は思わずその建物を飛び出した。
僕は駆けた、王立魔法学園に向けて。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!
ありえない現象が再び自分の身に起こってる、思っている通りだとすれば……
植物園の木々の陰に僕は体を小さくして身を潜めた。
そこに目にハンカチをあてフォルト様に手を引かれて姿を現したのだ。
僕が今一番会いたくてたまらなかった人物が。
あぁ、レーナ様。
思わず泣きそうになるのを、服の袖で拭った。
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