第15話 お得様

 練習が終わったらフォルトの誤解を……と思っていたのに、練習終りに目ざといシオンが顔を出したから誤解はとくことができなかった。


 寮に帰ってから出直そうと思ったけれど、私に一通の手紙が届いていた。

 いったいどこからだろうと思えば、あの今はもうすっかり愛想がよくなってしまった親父のところからであった。



 レーナ様にぜひお見せしたいものがあるので、お越しくださいと書かれていた。


 お得意様にだけ特別な商品を紹介することはよくあること。アンバー領にいたころはお得意様セールのご連絡がきていた。

 あの、堅物の親父の店からついに私にもそういうお知らせが届くようになっちゃったか~。ゲームではそんなそぶり全然みせなかったけれど、貴族相手には愛想よく商売やっちゃってるか~とかやってると時間が遅くなってしまったのでフォルトのところには行けなかった。


 やけにレーナ様、レーナ様と書かれているし、エレーナではなくレーナとして一度お店を訪問することにしましょうと、早速次の日の放課後、メイドに買い物に行くと告げて街に出ることにしたらリオンが荷物持ちとしてシレっとついてきた。

 やっぱりもう自由に学園外は一人では行かせてはくれないってことね。



「今日は突然護衛をさせてしまってごめんなさいね。他の生徒に私とプライベートで一緒にいることが見られたら困るんじゃない?」

「いえ、こちらが本来の仕事ですのでお気になさらず」

 リオンはハッキリ言いきる。

 とにかく、今回はリオンと変な空気にならないように気をつけよう。



 店に入るとすぐに私に気がついた店員が二階へと通した。

 前回と違う男を連れているけれど、そこは客商売何も言わない。

 お茶が出され、奥からすっかり愛想のよくなった親父が現れた。

 前回はこちらまで商品を持ってきてくれたけれど、今回は隣にいるリオンを見ると一階に新商品が沢山入りましたのでお勧めしたいのですが……と一階に行くように促された。

 断る理由がなかったので、私は席を立とうとすると、当然リオンも席を立つ。

「今回は品数も多いので時間がかかりますよ。何品かお嬢さまが目を通されている間おいしいお茶菓子などお持ちいたしましょう」

 やんわりとリオンの同席を拒否した。

「私は客ではなくレーナ様の護衛ですので」

 リオンがそう言うと、親父は神妙な顔で席に着くように私達を促した。



「今回レーナ様をお呼びしたのはお得意様へのセールなどではございません」

 親父はいつになくまじめに話を切りだしてきた。

 こういうときは嫌なことと相場が決まっている。胸元のネックレスをギュっと握りしめた。

「では、呼び出した目的はなんだ?」

 リオンが私よりも先に親父に質問する。


「はい……。妙な噂が流れておりまして。念の為、直接警告をと思いまして……。茶色い髪色の学園の女子生徒をガラの悪い連中が探しているそうです。レーナ様も学園の生徒なので、万が一のことがあってはいけませんので、当分はお一人での街への外出を控えたほうがよろしいかと……。落ち着きましたらまたご連絡をお入れします」

「ふむ。学園の生徒を探している輩がいるのか。レーナ様、お聞きになりましたね。もう『お一人で』の外出はおやめくださいね」

 リオンが『お一人で』を強調してくる。どうやら、一人で店に来たことを危ないと判断した親父が連絡をしてきたと思っているようだ。





 問題はそこじゃない、親父は学園の女子生徒だけでいいところを、わざわざ『茶色い髪色の』女子生徒と言ったのだ。

 よく考えると、手紙にもしつこいくらいレーナ様、レーナ様とレーナの姿で来いよと言わんばかりに名前が羅列してあった。


 この店で以前シオンからもらった髪と瞳の色を変えることができる魔道具をいじってもらい変身時間を延ばしたのだ。

 ちょうど、それで私が変身できるようになった時の髪色は茶色。

 カモにされたことはあったけれど、まだ期日ないだし。特に恨まれるようなことをした覚えはない。


 しかし、私はついてない。luckyネックレス様があるけれど、かなりフォローできないレベルでついてないのだ。

 これは、警告に従い大人しくレーナでいることにしよう。



 後は楽しくショッピングである。親父は新製品を私だけではなく、リオンにもいくつか見繕って勧めている。商魂たくましい。

 リオンは装飾品にはあまり興味がなさそうにして、断っているけれど。親父はそうとは判断しなかったようで、指輪がお好みではないなら別の物をといろいろ持ってきている。

 新規顧客の開拓に余念がない。


「何かいいものはありまして?」

 リオンに声をかけてみる。

「装飾品は戦闘の邪魔になりますので」

 リオンはあっさりとこんなにいろいろ並んでいるのに言いきる。



 ここの商品は値段の割に効果がとてもいいと思う。護衛として何か持っていてもいいと思う。

「指輪なんかはどうかしら? 小さいし目立たないわよ」

「私は剣での戦闘が主なので、ほんのわずかでも感覚が変わるのが怖いのであまり……」

 私相手に柔らかくリオンが断る。

 シオンの誕生日が近いから誕生日プレゼントを見つくろうつもりだった私は同じ盟約者一人にだけあげて、リオンには何もあげないのはなと思っていた。


「そういえばリオンは誕生日いつなんですの?」

「秋でござます」

 具体的に日にちを言うのかと思えば、かなりざっくりとした回答が返ってきた。答えたくないのだろうか……歳もサバをよんでるみたいだし。



「シオンの誕生日が近いので何か見つくろうつもりなので、リオンにも一つプレゼントするわ。指輪が駄目なら何がいいかしら」

「私にもですか!?」

 リオンは驚いていた。

 でも、此処に置いてあるものは私にとってたいした金額ではない、アンバーでアンナとミリーと買い物をしたら金額はこんなもんじゃ済まない。


 そうやって見繕っていたのだけれど。

 リオンは手につけるものは戦闘に影響が出るらしく好まなかった。



 そんな中で彼がおずおずとこれがいいと言ってきたものがあった。

 それは、黒色のシンプルな皮でできたチョーカーだった。

 親父はすかさず、これは何の皮かをアピールする。

 まぁ、本人が気に入ったのなら値段もお手頃だしこれで決まり。


 後はシオンね。

 シオンも体術を使うから、指に何もつけないほうがいいかしら。

 リオンはネックレスにしたし、ブレスレッドとか? いや、これも手につけるものになる?



 イアリングも可愛いけど、男性に送るものではないかな。でも可愛いからセーフなのか。

 換金されちゃうかな……。

 いや、シオンが私にくれたのはアンバーのお土産の砂を詰めれる瓶。そこには私が欲しいものかどうかなどという配慮など皆無だった。



 よし、私は私が可愛いと思うイヤリングを使い道なさそうだけど贈ろう。決めました。



 そんなこんなで物を購入した。

 リオンが私が渡すとかしこまった感じで受け取り、さっそく身に付けた。



 黒の皮のチョーカーは彼の性癖を知っている私がみると完全に首輪にしか見えなかった。


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